第8話:別れと手紙
「よし! 完成だ!」
意外とボート作りにそこまで手間取らなかった。新しく作り始めてから3日程で中々な強度を持つボートを作れるというのはもしかしたら才能があるかも知れない。
「職に困ったらボート職人になるのも有りかも知れねぇな……。」
そんな独り言を溢しながら、どんどん波際の方へとボートを寄せていく。
相当力の要る作業ではあったが、何とか海にボートを浮かべる事が出来た。
「よし、それじゃぁ準備も出来たし、そろそろ行くか……。」
俺はボートに乗る直前、少し森の方へと向いた。
如何に壊される危険性を考慮するとは言っても、あれ程お世話になったゴリラ達に、別れの一言も言わず出て行くのは、少し悪い気がした。
とはいえ、万が一があっては駄目だし……少し会うのも気恥ずかしい。
やる事はやったし、出発してしまおう。
「……じゃぁな、ゴリラ達。」
森の方へと言葉を投げかけて、俺はボートに乗った。
魔法を掛ける度に、島がどんどん離れていった。
ーーー
……行ってしまった……。彼が乗ったボートは既に見えなくなってしまった。
『お母さん……あの子が、あの子が行ってしまったわ。これで良かったというの……?』
子供の一人が涙を流しながら、私に縋り付いていた。良かったのかどうか……それは認めたくは無いものの、これで良かった事には間違いないでしょう。
彼の存在はゴリラを誘惑し、惚れさせてしまう。そのまま子孫も残す事が出来なくなっては、私達の種族は滅んでしまう。
それに、彼自身の為にもならない……。
『……しょうが無いでしょう。人間は、ゴリラの住む場所に居るべきではありません。』
『でも、でもぉ……。』
さっきまで問い掛けていた彼女は、更に泣き始めた。私はそれを慰めながら、自分の後悔を振り払っていた。
『うぅ……ボート作りなんて影から手伝わずに、寧ろ壊しちゃえば良かったのよぉ……。』
『やめなさい。』
私が率先して止めたその一言は、現に私が後悔していた事でもあった。
彼がボートを作ろうとしているのを見て、止めれば良かったのではないか……。
いや、止めずとも手伝う事を申告すれば、もっと楽しい時を過ごせたのではないか……。
そんな後悔が頭を過ってしまう。彼の善意を無駄には出来ない。
彼の不安を煽ってしまうような事は出来ないと決め、影から手伝っていたのは私だと言うのに……。
彼との別れ、そして、もっと他の選択肢があったのではないかという後悔を感じ、私達はその場に泣き崩れてしまった。
ーーー
その後、私達はトボトボと自分達の巣へと帰っていった。
皆、暗い顔をして、自分達の寝床に帰ろうとしたその時。
『ねぇ、お母さん。あそこに何かあるわよ。』
子供が不意にそう言った。
私達は一斉に子供の指差す方向を見た。
そこには、大量のマジシャルバナナと一通の手紙が置いてあった。
『何でしょうか……これは……。』
もしかしたら彼からの手紙かも知れない。
私はそう思い、急いで封を開けた。
ーーー
ゴリラ達へ
勝手にやって来て、勝手に出て行く様な身勝手な真似をしてしまってすまない。
ここまで色々とお世話になったのに、俺はそれを裏切る様な事をしてしまったのかも知れない。
それでも、俺はこの場を去らなきゃ行けなかった。俺はあんた達の巣に居たら、それだけで生態系を狂わしてしまう存在だからだ。
その……せめてもの償いとして、この手紙とマジシャルバナナを送る。
なるべく美味しそうな物を取ったから、どうか皆で食べてくれ。
それと、俺がゴリラに苦手意識を持っていた事は、もう皆分かっていると思う。
でも、俺はあんた達がゴリラだと言う事なんて、もう気になっちゃいない。それだけあんた達が優しかったからだ。
ありがとう、ゴリラ達のおかげでこの島の暮らしは死ぬ事も無かったし、何やかんや楽しかったぜ。
ーーー
『う……うぅ……。』
彼は私達の事を嫌悪して去ったのではなかった。寧ろ、良く思っていたからこそ、去ってくれたのだ。
その事が分かった時、私は自然と目から涙が出ていた。
『お母さん! これを食べましょう!』
ゴリラが涙でぐしょぐしょになった顔で、必至に笑顔を作りながら、私にバナナを差し出してくれた。
『うん、皆で食べようか……。』
皆で一斉に皮を剥き、バナナを口に入れた。
『美味しいわ……このバナナ……美味しいわぁ……。』
『そうね……凄く、美味しくなってるわ。』
彼の思いがこもったバナナを私達はゆっくりと、口に含んでいった。




