エピローグ:【敗北の王者】
戦いが、終わった。
地図は灰になり、風で飛んでいった。
「よし、帰ろうぜ。浮遊大陸に」
俺はクルヴァースを見ながら、ニヤリと笑った。
「ハハッ、そうだな。これだけ大きいやつが居るんだ。帰るのにそんな苦労はしないだろう」
「フシュゥッ!」
「任せろ」と言わんばかりに触手を持ち上げる。そして、俺達を掴んで自分の頭に乗せた。
浮いた床を地続きに設置して、先へ先へと進んでいく。
しかし、その途中でクルヴァースが足を止めた。
まだまだ浮遊大陸までは遠い。
「行きたいなら、構わないぞ」
イリーナが察したようにニッコリと笑みを浮かべた。
クルヴァースは「フシュゥ」と少し照れくさそうにしながら、地上に降りて、あの王国へ向かう。
ちょうど入口付近に居た少年が、こちらを見上げながら呆然としている。
クルヴァースに頼んで、足元まで下ろしてもらう。
やはりその少年は、前に助けてもらった子供のようだ。
「や、やっぱり兄ちゃん達か。ってことは、そのでっかいの、もしかして……」
少年が気付きかけた瞬間、イリーナが血相を変える。
「危ないッ!」
イリーナが少年を抱え、横に飛ぶ。
その瞬間、ジェット機のような速度で飛んできた何物かがクルヴァースに飛びついた。
「うふふっ、クルちゃん! こんなに大きくなったなんて驚きましたわ!」
「お、おぉ、マリクスだったか。すげえ嬉しそうな反応だけど、夫がこんなにでかいって、ちょっと微妙じゃねぇのか?」
「大丈夫ですわ。私はクルちゃんが地球よりでかくなったとしても愛してみせます!」
なんだろう。
この王女さんやっぱり強え。
ある意味ではイリーナとかクルヴァースを圧倒的に凌駕してるんじゃねぇだろうか。
「フ、フシュゥ」
クルヴァースは少し照れくさそうに、マリクスを頭の上へと滑らせた。
「あら、ふふふ。感謝しますわ。クルちゃん!」
あの王女さんはなんというか、大丈夫そうだな。うん。
「少年、私達はそろそろ帰るつもりだ。しばらくは会えないだろうが、元気に暮らすんだぞ」
「うん! 兄ちゃん達もな!」
「おう! 見とけよ! 病気1つ掛からず生き抜いてやるぜ!」
俺とイリーナは少年に手を振りながら、頭の上へと戻っていく。
「貴方達2人も、来るのですね」
マリクスはパチパチと瞬きしながら、不思議そうに口を開けた。
元々俺達は浮遊大陸に戻るためにクルヴァースに乗ってるんだ。
デートに誘いに来たわけじゃないんだよ。
「悪いが、行く際には私達も同行させてもらう。帰る際は2人だから、その時は水入らずだ」
「うふふ、分かりました!」
嬉しそうに笑い、クルヴァースに抱きついた。
しかし、このサイズ差があるためか、ただ大の字になって寝ているようにしか見えない。
「フシュゥ」
クルヴァースは照れたような声出してるが、これ照れるかな。まぁ、本人にしか分からねぇ何かがあるんだろう。
「よし、浮遊大陸が見えてきたな。この後はどうする?」
「どうするって、何が?」
「お前の暮らしだ。私の国に住むのもいいが、あのゴリラ達の森に住むのでもかまわない」
「そう、だな……」
俺は少し、返答に詰まってしまった。
その時、ゴリラ達の声が聞こえた。
下を見ると、ちょうど今の場所は、森の真ん中に差し掛かっている。
どうやら、魔法で声を届けてくれたみたいだ。確かに聞こえた。『さようなら』という言葉が。
真意は分からない。でも、何となく背中を押してくれたような気がした。
「イリーナ。俺は国に住むよ。……お前と一緒に、暮らしたいしな」
「そうか……」
イリーナは少しニヤリと笑いながら、顔を背けた。
「クルヴァース。ちょっと、頼みがあるんだ」
俺はクルヴァースの魔法でゴリラ達に声を届けてもらった。『今までありがとう』と。
そして、前を見た。
大きな雲と、それに隠れるように太陽が浮かんでおり、いつもの青空が白く見えた。
それが、あの世界に行ったみたいで、少しおかしく思えた。
国に着き、イリーナの手を引いてクルヴァースから降りる。
「よし、行こうか」
ニッコリと笑うイリーナの目を見て、確信した。
俺はまた生まれ変わった。今までとは全く違う人生を、これから生きていく。
もう逃げる気はない。たとえ、負けるとしても。
「あぁ、行こうぜ」
俺はイリーナと並んで歩き、街並みを進んでいった。
その年、新たな国王が生まれた。
その王は、おかしな触手の生物。違う大陸の王女。側にいる妻に振り回される人生を送った。
その中で、彼は確かに笑顔だったという。
【敗北の王者と勝利の逃走者:完】




