第67話:ウサブルカ
地図にみちびかれて着いた場所。そこは不思議で、懐かしい空間だった。
全体的に白い空間で、温泉に浸かってるような心地良さがある。尚且、上空には青い空が見える場所。俺は……ここに戻ってきたんだ。
「何だ……ここは……こんな幻想的な場所なのに、地に足が着ける……。いや、そもそもさっきまで!?」
イリーナが驚いていた。俺も驚いた。
なんせ、さっきまで普通の草むらを歩いていた。それが突然、こんな景色に移り変わったのだ。
まるでワープだ。狐につままれた様な気分だった。
『不思議ですか?』
あの黒い球体が来た。転生する時に一度会ったバスケットボールの大きさをした、モヤの塊。
あの時は、「不思議だな」としか思わなかったが、今見ると不気味で仕方ない。
『ここは、私が選んだ者だけが来れる世界。あの地点に着いた時、私が許可すればこの世界に来れるのです。貴方方は、私に選ばれたのです』
「そうか……それは、感謝を言えばいいのか、私には分からんが。ともかく、貴様に言いたい事がある」
イリーナは球体に剣を差し向け、細い目付きで睨みを効かせた。
「このはた迷惑な地図を抹消してもらおう。そして、2度と人間界にこんな混乱を招かない事を、約束してもらいたい」
『フフッ……いけませんね。せっかちはいけませんよ。まだ話は終わってないんですよ?』
イリーナは何かを言いたげだったが、ギリ……と歯を食いしばり、剣を鞘に収めた。
「話とはなんだ?」
『クルヴァースを、こちらに明け渡していただきたいのです』
「フシュゥッ!?」
「なんだと……!?」
『フフッ……おやおや、そちらの方は既に気付いていたのでは?』
球体が俺のことを差した。奴に目は無いが、雰囲気でその事を察せる。
「……あぁ、気付いていたぜ。つっても、憶測に過ぎねえけどな」
『概ね当たりとは言っておきましょう。お察しの通り、私は【大地の力を統べる王者】。そして、クルヴァースは【魔法を統べる王者】でございます』
「いわば……所有と使用の関係って訳だ。お前は大地の力を創造して所有。クルヴァースはその大地の力を使って魔法を使用する」
『えぇ、その通りです。元々私達は1つでしてね、ある日神々の魔法によって2つに分けられたのです。故に、私は元に戻りたいのですよ。元に戻って、完全な存在になりたいのです』
俺は球体を睨んだ。
たしかにコイツの目的はわかった。でも、クルヴァースを明け渡すわけにはいかねぇ。
このままで渡せるわけがねぇ。
「完全になって、何がしたいってんだ? おまえはなんの目的があって、完全なんて目指すんだよ」
キョトンとしている。奴の顔はまるで見えないが、自然と奴がそうしている様に思えた。
まるで「こいつは、決まりきったことを何故わざわざ聞いてくるんだ?」。そう考えているかのように呆然としていた。
しかし奴は再び、「クスクス」と笑い始めた。
「何がしたいか。……決まっているでしょう。世界の支配ですよ。無限に扱える魔法の力。それを利用し、世界を思うがままに改変させたい。糸を通した人形を指1つで思うがままに操作するように、自分の望むままに世界を動かしたいのです」
やべぇ奴だ。……自分の望むままに世界を動かすだと……? んなこと容認するわけにはいかねぇ。地図みたいな混乱を、二度と引き起こしたりはしない。
やっぱりクルヴァースは渡せねぇ。そして、このイカレ野郎はここで止めなきゃ駄目だ。
「おやおや……2人揃って嫌な視線を向けてきますね。どうしたのですか?」
「なに……おまえを倒してやろうと言うのだ。くだらん理想を語る、貴様をな」
球体はクスクスと笑う。そして、その姿を一気に変貌させた。
鬼。奴の見た目は鬼としか思えなかった。
5メートル近い人型の黒い物体。そして手には鋭い爪が生えていて、ニヤリと穴が空いた口には、黒い牙が複数生えている。
全身黒々とした奴は、この白い世界で異様に浮いており、そして、異様に不気味だった。
「最終通告です」
ヤツが、ウサブルカが爪を鋭利なものへと変更。それはまさに言うことを聞かなければ、今すぐコレを突き立ててやる。
そう言うかのような行為だった。
「なんだよ……?」
「大人しくクルヴァースを明け渡せば、あなた達に1つの国を与えましょう。さぁ、えらんでください。【王者】となるか、【逃走者】となるかを」
その時、イリーナが剣を向けた。
奴に睨みを効かせ、その身体を魔法で強化する。
「私は王者の地位に興味はない。しかし、逃走者になるつもりもない。私がすることはただ1つ。今ここで貴様を潰すことだ」
「俺も……同意見だぜ球体さんよ。クルヴァースを大人しく明け渡す気もなければ、てめぇを生かしておく気もねぇ」
「フ……フシュゥ……」
クルヴァースは少し萎れていた。
自分のために、俺達が危険を冒しているのかもしれない。そう考えているのだろう。
だが、そんなことはねぇ。俺達は、自分自身の意思で奴と戦うことを決めたんだ。
「クルヴァース。わたし達は、奴をたおしたい。協力してくれるか?」
「……フシュゥッ!」
クルヴァースは大きく頷いた。その木の根を力いっぱい振り上げ、一気に下げたのだ。
自信に満ちた行動。これ以上なく頼りになる動作だった。
「愚か……実に愚かです。自分から死をのぞむとは……!」
ウサブルカはバッと手を開き、前屈みになった。そのニヤリと笑った口はこちらを食らうためか、牙に液を滴らせていた。
「自分から死を望んだ覚えはない。私達が望むのは、自由と、仲間の安寧だ」
イリーナの宣言とともに、その戦いが始まった。
この旅の最後を括り、そして全ての現況となったあのウサブルカを倒す戦いが。




