第65話:球体
「どうやら……ここが魔法使いの家みてぇだな……。」
地図を頼りに歩いてみると、寂れた木造建築の家が見えてきた。
周りに薄い透明な青いバリアーが張ってある。どうやら入れないようになっている、というのは間違いではないらしい。
「よし、頼むぜクルヴァースッ!」
「フシュゥッ!」
クルヴァースは早速、そのバリアーに木の根を当てた。バチバチと言う音をたて、そのバリアーはあいつを弾こうとする。
しかし、それよりも強く木の根を押し付けていたおかげで、何とか全て吸収出来た様だ。
「よっしゃぁッ! 良くやったクルヴァース!」
「ふふっ、お前が居て良かったよ……。」
「フシュルルルル……」
少し照れたようで、クルヴァースは頭らしき部分をポリポリと掻いていた。
そして、あいつが真っ先に魔法使いの家の中へと入っていった。
俺達も、クルヴァースの後を追うと、その部屋には、骨が転がっていた。
「……死んで相当時間が経っている様だな。もう匂いすら発していない。」
そうか……こいつが恐らく、この家の家主だった奴か……。
「悪いな……ちょっと、家の中を拝見させてもらうぜ。」
俺は骨に告げ、早速本棚を漁った。
しかし、大体の本はあまり大事な事は書かれていなさそうだった。
誰でも出来ると言う、魔力を注ぐ簡単な魔法や、術式という短縮魔法。後は、大海原の主と呼ばれる青い龍の事など……。
普段ならば興味深い記述が多くはあるんだが、残念ながら今日はそういうのを求めてはいない。
「イリーナ……何か見つかったか……?」
「いいや、残念ながら、何も見つかっていないな……。」
俺達がうーん、と頭を悩ましていると、突然クルヴァースがその骨に木の根を巻き付かせた。
「お……おい!? 何やってんだお前!?」
流石に死者の冒涜はよろしくない。まさかあいつアレを食べる気なんじゃないだろうか、とか考えてしまった、が……。
突然、骨の指先から、光が現れた。
その光は何かの線の様になって、床を滑って行った。
「……何だこりゃぁ……。」
青白い線が蛇のように動いていき、やがて消えた。
いや、消えたのではなく……床に入り込んだ様にも見えた。
「なぁ、クラジレンさっきのはいった」
「ちょっと待ってくれ!」
あの光を見て、少し気付いた事がある。
床に、四角の黒い線が出来ている。
いや、黒い線ではなく、恐らくほんの小さな空洞……。蓋などを被せると、影の問題で出来る……あの線だ……。
「もしかして……。」
俺は、線の所を指で触れてみた。思った通り、黒い線ではなく、空洞になっている様だ。
こんな風に空洞になっているという事は……もしかしたらこの床は、何かの扉なのかも知れない……。
「水魔法……。」
俺はその床に水魔法を這わせた。
そして、水が黒い線を通り、ある程度経った後に、一気に凍らせた。
「……よいしょっ!」
氷を引っ張ると、蓋が開き、階段が現れた。
「な……!? クラジレン……。お前良く分かったな……。」
「へへっ……クルヴァースのおかげさ。あのヒントがあったから……。何とか気付く事が出来たぜ。」
あの光があったから気付けたのだ。と、その事を考えていると、階段の奥にあの光が見えた。どうやら、まだ導いてくれるらしい。
「降りてみようぜイリーナ。この階段の奥に何があるか、気になるだろ?」
「あぁ……そうだな。」
「フシュゥッ!」
早速、俺達3人は階段を降りていき、小部屋に辿り着いた。
そこは殆ど何も無く、ただ、天井に付いている少しの明かり。後は、小さなテーブルと、その上にあるノートがあるだけだった。
「……よし、開いてみるか……。」
「気を付けろ、クラジレン。いざとなったら急いで退いて私に任せておけ。」
イリーナは警戒した眼差しでノートを睨んでいる。
そこまで警戒してくれているんなら、安心して見れるってもんだぜ。
「よし、開いてみるぜ。」
そのノートには、綺麗な文字で書かれていた。
球体についての情報が。
『ノートを拾ってくれた者に、ある真実を教えよう。この世界には、大地の力によって世界そのものを支配している存在が居る。その者は大地の力を生み出す地にて暮らして居る。そして、時にこの世界に娯楽と称して、混沌を巻き起こすのだ。』
……娯楽と称して……混沌を巻き起こす。正に俺の事だ……。
十中八九球体の事で間違いないと判断した後に、俺はページをめくった。
『奴の気紛れによって世界が変わってしまう。そんな現状に嫌気が差した私は、その球体……いや、正式にはウサブルカと申す者に挑んだのだ。』
球体……正式名称はウサブルカ。あの野郎……そんな名前してやがったのか……。
『結果は惨敗であった。大地の力を支配する者に、私は勝つ事が出来なかった。しかし、何故か私は生かされ、ウサブルカの事をこうして遺す事が出来た。奴の攻略法は私にも分からない、しかし、奴はまだ未完成のようだった……。完璧な存在だと言うのに、まるで何かが足りていないような、そんな感覚があった。もしかしたら、それが奴の弱点なのかも知れん。』
完璧な存在なのに……まるで何かが足りていない。どういう事だ……? あの野郎はいったい何が足りてないってんだ。
『私には、これぐらいの事しか分からない。あとのページには、奴の元へと向かう地図を用意しておこう。出来る事ならば、このノートを今読んでいる者が、ウサブルカを倒してくれる事を願う。』
その後のページには、地図の様な物が描かれてあった。
それは一旦後にして、まず、イリーナ達に事情を説明することにした。
「クラジレン……。どうした? 何が書いてあった?」
「……なんだかわからねぇ……。でも、俺達が挑もうとしている相手は、とんでもない奴だって事は、分かったぜ……。」




