第63話:布教
国の外へ自由に出れるようになった。
それは良い事なんだが、如何せんクルヴァースが動けなくなっちまった。
「……どうすっか……。」
「良い事じゃないか、クルヴァースも満更でもなさそうだったぞ。」
まじかよ……。あいつ前まで嫌がる様な素振りしてやがった癖に……。
「まぁ、それなら放っといてやる方が良いかな……。」
クルヴァースも居場所が出来たんなら喜ばしい事だ。それを態々侵害する様な事はしない方が良い。俺達は邪魔にならない為にも、さっさとここを去るべきだな。
と、言いたい所なんだけど……。
「行く先ねぇよなぁ……。」
この王国の外に出たら他の街までどれくらいの距離があるのか……。そもそも他の街なんて無いかも分からねぇ。
球体の情報もまるで手に入ってねぇし、まだこの国からは出る訳にも行かねぇ……。
「とりあえず、いったいここに滞在して、情報収集と行こうぜ。」
「あぁ……分かった。」
そうして、イリーナと共に歩いていた時、目の前からポイズンスネークが飛び出してきた。
「うわぁっ!?」
び……びっくりした……。
思わず変な声出しながら尻餅ついちまったよ……。ちょっとダセェな。
「何でこんなところにこいつがいるんだ?」
ともかく重要なのはそこだ。
ポイズンスネークなんてこんな場所に居るべきじゃねぇ。さっさと追い払っておかないとな。
「……ん? 知らなかったのか、クラジレン。」
イリーナが、少し不思議そうに目を開いていた。
「知らなかったって……何の話だよ?」
「いや、ポイズンスネークなんてどこにでも居るぞ。ほら、あそこにも居る。」
イリーナは家を指差していたそして、それの屋根の上に、ポイズンスネークが一体居座っていた。
……まじでどこにでもいやがる……。
「な……何でこんな事になっちまったんだ?」
「王女が布教し続けた結果らしい。彼女は紫色の物と、蛇のようなニョロニョロした奴が好きだと言うからな。」
なるほど、そりゃ紫色で木の根みたいな触手を持ってるクルヴァースの事が好きになるわな……。
と言っても、それって大丈夫なんだろうか……?
「何か、王女権限で無理矢理飼わせているって事はねぇよな……?」
「あぁ、勿論無いぞ。というか、クラジレンも聞いてみれば分かる。丁度、そろそろ時間だからな。」
時間……? その言葉に疑問を抱きながら、俺の手を引っ張るイリーナに、ゆっくり付いて行った。
ーーー
そして、着いた先ではマリクスの演説が始まっていた。
傍にクルヴァースを携え、1万を超える程の人々に、声を投げ掛けている。
「皆様、私はこれまで間違った行いをしていましたわ。しかし、それをこの方に止められ、改心する事が出来ました。そして誓ったのです、今後は悪ではなく、貴方達、民の為に力を費やすと!」
王女の力強い宣言に観衆が湧いた。
その場に居る殆ど全員が、マリクスに声援を送っている。
……あれ? 意外と普通にやってんじゃねぇか、俺も少し涙が出ちまったぜ。
「私は約束します。今後民が食に困る事が無いように畑を広げると。今後民が住む場所に困る事が無いように、あの壁を崩し、家を建てると。そして、今後民が寂しくなる事が無いように、一家に一匹、ポイズンスネークを普及しますっ!」
何言ってんだあいつ……?
「いや、待て待て待て……。ポイズンスネークなんて普及しても……。」
俺の言葉は、民衆の歓声に止められてしまった。
「「「ウォォォォォォォッッッ!」」」
「「「マリクスッ! マリクスッ!」」」
序盤の歓声を圧倒出来る程の強烈なマリクスコール。その場に居る全員が王女の提案に感涙していた。
いや、まじで何が起こってんだよ。
「いやだ! 僕はポイズンスネークなんて家に入れたくない!」
そんな時、子供の一人がマリクスの提案に反対した。
俺はまともな人間が居た事に安堵した。
「おい、お前こんな素晴らしい提案に反対なんて……!」
子供を非難しようとした男をマリクスがスッと手で止めた。
「気持ちは分かりますわ。突然こんな事を言われてしまっては、困惑してしまうのも無理ないでしょう。しかし、よろしければ、少しお話を聞いて頂きたいのですが……。」
マリクスの言葉に、子供はコクリと頷いた。
王女は「良かった」と言って、話始めた。
ー1分後ー
「僕、ポイズンスネークを家に飼うよ!」
化け物みてぇな速度で子供が陥落してしまった。新しい公園を見つけた時の様に目をキラキラとさせてやがる……。
「えぇ、物分りがよろしい様で、良い子ですわ。」
ニッコリと笑みを浮かべているマリクスを見て、前の頃とはまた違った恐怖を感じた。
「なぁ……大丈夫なのかあれ? あんなもんほぼ洗脳じゃね?」
「本人達が良いと言うなら大丈夫だろう。それに、お金を徴収したりしている訳でも無いのだからな。」
……それはそうだけど……。ポイズンスネークを家に住ませるって結構危険じゃねぇのかな……。
なんせ毒持ってんだぞあいつら……。
「フフッ、心配なのか?」
俺の懸念を見抜いているかのように、イリーナが顔を覗かせていた。
「……心配するな、国民は全員、毒の抗体を持っているそうだ。」
「まじかよ!? どうなってんだ!?」
抗体を持たせた王女も凄いけど、ポイズンスネークの為にわざわざそれを作った国民がすげぇよ……。
「それに、一度抗体を持ってしまえば、噛まれたらウィルスを除去出来る様になるらしいぞ。」
「毒をもって毒を制すって事かよ……。何にせよすげぇな……。」
「そうだろう? 私も話を聞いて抗体を持ってみた。意外と健康を続けていられるぞ。」
「まじかよ……。」
イリーナも持ってんのか……。何かもうこの国凄い事になってんな……。
「クラジレンも作っておくか? 病気に掛かる事が少なくなるぞ。」
「遠慮しとく……。」
病気にならないとはいえ、毒を流し込まれるのはあまり良い気分じゃない。
そういう方法を否定する気はねぇが、流石に作るとなったらまた別だ……。




