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第62話:自由

 周りに歓声が聞こえる。

 どうやら、私は負けたようですわ……。


 ようやく、負ける事が出来た。

 ようやく、死ぬ事が出来るのですわ……。


 私が安堵している時、木の根のあの子が私に近づいてきた。

 周りは祝勝しているのに、何故、この子だけ……?


「フシュゥ……。」


 彼は、私の涙を木の根で拭い、スッと寄り付いてくれました。


『……大丈夫かい? マリクス。』


 …………不思議ですわ。

 この子が、あの方の様に思えてしまうなんて……。似ても似つかないのに、私もどうにかしてしまったのかも知れませんわ。


「フシュルルルルッ!」


 彼は、私の体に木の根を絡ませ、再びしがみついて来た。今度は、暖かく柔らかい状態で……。


 ……これは、何でしょう。この身体に流れていく物は……。

 ……魔力? 私は今、彼から魔力を流されているというのですか……?


 何故? 何故この子が私に魔力を……。

 私が疑問に思い、彼を見つめていると……。突然、彼が1度、鳴きました。


「『【君が、自由に生きれますように】』」


 懐かしいあの言葉と共に、体の中に暖かいものが流れていきました。

 今まで流れていた冷たい魔力ではなく……。凄く優しく、暖かい魔力が……。


「フシュゥ……。」


 そして、彼は私が動ける様になるまで、魔力を注ぎ続けてくれていた。


ーーー




「いやぁ……勝てた勝てた。もう一時はどうなる事かと思ったぜ……。あ、おーい! クルヴァース何してんだよっ!」


 さっきから、王女の傍に駆け寄って何かしてるってのは分かるんだが……。

 いったいあいつ何してんだ? ホムンクルスが好きとかいう趣味でもあるんだろうか……。


 ふと、そんな事を考えていると、マリクスの体がピクリと動いた。


「ん!?」


「お、おいクルヴァース!? ちょっと待て!」


 イリーナのその言葉を聞き、クルヴァースがマリクスから離れた時、王女は完全に立ち上がった。


 う……動ける様になってやがる……。嘘だろ……?


「……。」


 すると、マリクスはしばらく呆然としていて、突如、クルヴァースの方へ振り向いた。


 そして、王女は突然あいつに抱き着き、声を殺しながら、泣き始めた。

 その声と、その表情に、もう人形らしさは、欠片もなかった。


「な……何だか分からないけど……。あいつが、王女を改心させたの……?」


「……どうやら、そういう事で間違いないらしいぜ……。」


 クルヴァースが、あいつがマリクスに魔力を注いで、今度こそ本当の命令を課した。

 どうやら、そういう事らしい……。


「フシュゥ……。」


 クルヴァースは、マリクスに抱き着かれながらも、じっと大人しくして、静かに王女が泣き止むのを待っていた。


「全く……もう少し、相談して欲しいものだが、まぁ……これくらいはいいか。」


 イリーナは、優しい目で、クルヴァースとマリクスの様子を見ていた。


ーーー


 暫くして、泣き止んだマリクスが改めてクルヴァースと向き合った。


「ありがとう。感謝しますわ、クルちゃんっ!」


 ク……クルちゃん……? 何か一瞬で愛称が出来ちまったんだけど……。


 しかもクルヴァースは満更でもないらしい。呼ばれた瞬間、嬉しそうに、木の根で頭を掻くような仕草をしている。


「この恩は必ずお返ししますわ。それに、この国の事も、今後は任せてください、しっかりと、立ち直して見せますわっ!」


 矢継ぎ早に捲し立てている。

 何か色々言っているのはありがたいのだが……その全てをクルヴァースにしか言っていない。


 当の本人も少し頭がバカなのか、よく分からなさそうな様子で、とにかく頷く動作をしている。


「王女って……あんな人だっけ?」


 子供が首を傾げながら呟いた。

 俺も同意見だ。何か、満面の笑みで顔を紅くさせながら、クルヴァースに抱き着いている彼女を見ると、同一人物なのか怪しく見えてきた。


「フ……フシュゥ……。」


 クルヴァースが困惑気味に、こちらを指差してきた。とりあえず話なら向こうに、とでも言いたげな様子だ。


「分かりましたわ。少し、待っていてくださいね。」


 マリクスは相変わらずの満面の笑みで、大きく頷き、こちらに近付いてきた。


「あの……大事な話があるのです。」


 今までに無い真剣な表情だった。俺達は改めて話を聞く姿勢を取り、マリクスを見据えた。

 王女は、胸に手を当て、顔をズイとこちらに寄せながら、宣言をした。


「クルちゃんを……私にください!」


「はぁ!?」


 何言ってんだこいつ!? 冗談じゃねぇぞ! クルヴァースでいったい何するつもりなんだ。

 とてもじゃねぇが、あいつをマリクスにやる訳にはいかねぇ。


 そんな事を考えていた時、イリーナがバッと立ち上がり、腕を組んだ。


「……クルヴァースを幸せにする覚悟はあるか!?」


 ……ん?


「はいっ!」


 んん?


「どんな時も傍に寄り添って行くと誓うか!?」


「はいっ!」


 待て……おい……。いったいなんの話をしているんだ……?


「それならばいい、私から言える事は何もない。あとは本人達の意思に任せよう。」


 イリーナは何か理解してるようだが、俺は何も分からねぇ。

 というか、あいつも同じな様で、さっきからキョロキョロとしながら、疑問を浮かべている。


 しかし、そのクルヴァースの傍にマリクスは駆け寄り、ギュッと木の根を握っていた。


「クルちゃん……。保護者の公認は得ましたわ。結婚いたしましょう!」


「はぁ!?」


「フシュゥッ!?」


 俺とクルヴァースはほぼ同時に驚いた。

 しかし、顔を真っ赤にしながら真剣な眼差しで見つめているマリクスの様子は、どうやら本気らしい。


「なんだ……。お前達気づいていなかったのか?」


 イリーナがふとそんな事を呟いた。

 気づいていなかった……。って、え?


「え? もしかしてイリーナは、気付いてたのか? マリクスがクルヴァースに惚れてる事……」


「あぁ、もしかしたらそうかも知れないな。と、言う感じには考えていたな。初対面の時から」


 まじ? それっぽい所は見なかったけどな……。女だけに分かる何かがあるのか……?


「まぁ、何にせよ、クルヴァースにも春が来るかもしれないな。良かった良かった」


 イリーナは抱き着かれているクルヴァースと、満面の笑みを浮かべているマリクスを、にこやかな瞳で眺めていた。

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