第61話:勝利
「チッ……!」
まじでどうすりゃいいんだ……。爆弾はもうない、魔力だって王女を倒せるほどある訳でもねぇ。
おまけにマリクスは、あのイリーナと互角以上に戦える化け物だ。正直言って打つ手なしだぜ……。
「おや、顔色が悪いですわ。何やら、万策尽きたとでも言わんばかりの表情をしてらっしゃいますわよ。」
「へへへ……冗談きついぜ。んな訳ねぇだろ?」
気圧される訳には行かねぇ……。策がねぇと気付かれたらその時点でお終いだ。あいつは喜々として俺を殺しに来るだろう。
そして、それに対応出来る手段が俺にはねぇ……。
「うふふ、それでは、また私に面白い芸を見せてくださいな。」
作り物の笑みを浮かべながら芸なんて言いやがったよ……。
余程の自信だぜ、どんな物が来ても防ぎ切るつもりでいやがる……。
悔しい事に、どんな物も出せねぇんだけどな……。
「……じゃぁ、見せてやるよ……。隠し芸って奴をな!」
ポーションの瓶を割り、中の液体をぶち撒けた。そして、それを風魔法で運び、イリーナの方へと飛ばした。
「あぐ……ッ!」
悪い、イリーナ……少々雑な手になっちまったが、お前も戦いに参加してくれねぇと絶対に勝てねぇ。
動ける程に傷が回復するまでは、時間を稼いでおくからよ……。
「行くぜぇ……王女さんよ……。」
俺は氷で剣を作り出し、王女の方へと構えた。
「うふふふふふ……構え方が素人同然ですわ。貴方……時間稼ぎをしたいのでしょう?」
「へへっ……どうかな、そう考えて突っ込むと、痛い目見るかも知れねぇぜ。」
俺の出来る事はハッタリしかねぇ……。
マリクスにどこまで通じるかは分からねぇが、ハッタリと素人芸で持ち堪えてやるぜ……。
そんな事を考えていると、一瞬で俺の傍にマリクスが飛んできた。
まるで反応が間に合わず、俺は体を後ろに倒す事しか出来なかった。
そして、氷の剣はいともたやすく斬られてしまった。
「っ……【ウッドシールド】!」
木の盾を展開したあと、立ち上がって王女から距離を取った。
そして、マリクスは一瞬でその盾を爪で斬り捨てた。
「おいおい……。正真正銘の化け物だなあんたも……。」
そう言った時、王女がチラッと横を見た。
「うふふ……1つだけ言っておきましょう。時間稼ぎをしようとしたのは、貴方だけではありませんわ。」
「……なんだって?」
「ごふ……ッ!」
イリーナの尋常じゃない声を聞き、彼女の方を向いた。
すると、そこにはイリーナの近くに、紫色の蛇が、一匹見えた。
「貴方達を2人相手にするのは私でも少々分が悪いので、1つ小細工を仕掛けさせて頂きましたわ。」
「く……う……イリーナァァッ!」
急いで彼女の元へと駆け寄ろうとした。
そんな俺の首筋にマリクスの爪が添えられた。
「それでは、さようなら……。」
俺は……死を覚悟した。
「フシュルルルルルッ!」
「あぅッ!?」
クルヴァースの叫びと、マリクスの悲鳴を聞いて振り返ったその時。
クルヴァースがマリクスの背中から体を縛り上げていた。
「あ……うぅぅぅッ!」
「フシュゥゥゥッ!」
クルヴァースがチョークスリーパーの様な態勢でマリクスの首を絞めながら、ガッチリとくっついている。
しかし、彼女の苦しみ方は異常だ。ただ絞められているだけにしては、あまりにも無抵抗過ぎる……。
「ぐう……忘れていた。クルヴァースは魔力を喰らうんだ……。だから、あいつはホムンクルスの天敵の様な物だ。あとものの数分で魔力を喰らいつくしてくれる筈だ!」
イリーナがフラフラと蹌踉めき、ポーションを傷口に塗りながら、クルヴァースとマリクスの攻防を睨んでいる。
「なるほどな……。やけにクルヴァースだけは王女討伐に自信があると思ったら……!」
「フシュゥッ!?」
次の瞬間、クルヴァースの木の根が緩んだ。
すぐにマリクスは拘束を振り解き、あいつから離れていった。
「うふふ……どうやら、ポイズンスネークがやってくれた様ですね。」
王女は、瞳を潤ませながら、作り物の笑顔を浮かべた。そして、クルヴァースの体には、紫の蛇が噛み付いていた。
くそったれ……あと少しだったってのに、振り出しに戻っちまった……。
「フシュゥゥゥ……。」
クルヴァースはポイズンスネークを跳ね除けながら、少し苦しげに、へたれ込んでしまった。
「さて、今1番危険なのは貴方の様ですね。息の根を止めさせて頂きますわ。」
マリクスが、爪を掲げ、クルヴァースの前に立った。
くっ……距離が少し遠いッ! 俺やイリーナじゃ間に合わねぇッ!
「くそぉッ!」
イリーナはマリクスに飛び込んで行った。
しかし、彼女が着くよりも一瞬早く、王女はクルヴァースに爪を振り下ろした。
そして、それを子供が庇ってしまった。
「ぐぇぇッ!」
子供の肩にマリクスの爪が深く突き刺さり、血が吹き出した。
「おいッ! おめぇ何やってんだ!」
「あらあら……とんだ邪魔が入ったものですね。困りますわ、そういう物は。」
マリクスはそう言って、子供を蹴り飛ばした。
子供はバスケットボールみてぇに地面をバウンドしながら、飛んでいった。
「ゲホッ……カフッ!」
血を吐きながら、その子供は、その場に立ち上がった。
「行けぇッ! 約束しただろ!? その王女を、やっつけてくれぇぇッ!」
子供はそれだけ言って、その場に倒れた。
「フシュゥゥゥゥゥッッッ!」
クルヴァースが全力で叫んだ。子供の身を案じる様に……。
そして、その隙に、イリーナは王女のすぐ傍に駆け込んでいた。
「良くやった……。おかげで、私も近づけた!」
「残念ですわね。貴方の動きは見切っていますわ!」
イリーナの斬撃を躱し、マリクスは彼女を蹴り飛ばした。
「ぐぅッ!」
「この、バケモンがぁッ!」
俺も氷の剣を手に、走った。しかし、俺はマリクスには見向きもされなかった。
王女はすぐにクルヴァースに狙いを定めていた。そして……実際、俺の氷の剣は硬い体に弾かれてしまった。
「貴方を倒せばチェックメイト、ですわ。」
そう言って、マリクスはクルヴァースに爪を突き刺した。
「ッ……!?」
「フシャァァァァッッッ!」
マリクスが突き刺したソレは、ダミーだった。
本物のクルヴァースが即座に後ろから現れ、王女に巻き付いた。
「先程までの攻防の隙に、用意していたのか、ダミーをッ!」
なるほど……なんて奴だクルヴァース。子供を倒された義憤に駆られながらも、やる事はきっちりやりやがったッ!
「フシュルルルルルッ!」
今度こそは逃さないと言わんばかりに、ガッチリと絞め付けを決め込んでいる。
「う……くぅ……。」
そして、遂に王女が、その場に倒れた。




