第58話:約束
「さてと……考えてても分かんねぇし、そろそろ降りるか……。」
夜になっても良い考えが浮かばなかった。壁の上で夜を越すのも嫌だし、明ける前に降りてしまおう。
「よし、早速降りるか……。」
そう言って、イリーナは俺に掴まった。
……よくよく考えれば、俺、イリーナと接近しすぎじゃね?
ちょっと恥ずかしくなってきた……。
「ん? どうした?」
「いや……なんかこう、女性と距離が近いと……な?」
俺がそう口にした時、彼女がジト目に変わった。
「お前……これで3度目だぞ。」
「いや……だってよ。今までの2回全部緊迫した場面だったしな……。今そんな状況じゃない時にこうなると……やっぱり意識しちまうって言うか……。」
俺がボソボソとそんな事を呟いた時、イリーナは少し溜息を吐いた。
「しょうがない……。クルヴァース。」
「フシュゥッ!」
クルヴァースは俺の体にへばりつき、そしてそいつをイリーナが掴んだ。
何というか……タコに背中からくっつかれてる様な気分になってきた。
そもそも、木の根みたいな感じになってんのに、なんでこいつの体こんなに柔らかいんだよ。
「……柔らかいなクルヴァース……。」
彼女も疑問に思ったみたいだ。クルヴァースの体をツンツンと突きながら、そう呟いていた。
「フシュ? フシュゥゥッッ!」
その瞬間、クルヴァースの柔らかかったあの体が一気に硬くなった。
「いててててててっ!」
めっちゃ痛え。しがみつかれている部分が、プロレスラーの関節技受けてるみたいに痛くなってきた。
今すぐマットに向かってギブアップサインを出したい気分だ。
「フシュゥッ!」
鳴き声と共に、木の根が柔らかくなった……。
なるほど……筋肉みたいに硬さを変えれんのか……。そりゃそうか。
「よし、良く分かった。でも、降りてる時に硬くするのやめろよ?」
「フシュ?」
「フリじゃねぇからな、絶対にやめろよッ!」
俺はクルヴァースに念を押し、そこから飛び降りて、パラシュートを広げた。
更に色を変えた大きな木を発生させ、前に持つ事で、影と同化した。
因みにこの間パラシュートはクルヴァースが持っている。
「予想以上に安定しているな……。」
「へっへっへ、でも、あんまり大きな声を出さねぇ方が良いぜ。夜だから声が響くしな。」
彼女は分かった、と言ってヒソヒソ声に変わった。
(このまま降りた後に、どこかに潜伏し、作戦会議と行こうか。)
俺はその言葉に頷きながら、耳元に囁かれる事に少し緊張した。
ちょっと、声が近過ぎてやべぇよ……。
「フシュ?」
そんな事を考えている時、不意にクルヴァースの体が硬くなった。
「あ……ッッッッ!」
思わず大声を出しそうだった。まじで何やってんだこいつ!?
(おい、クルヴァース……。身体硬くすんな!)
(フシュゥゥ)
小声で返事をしてくれるのはありがたいんだが、いつものお返しとでも言わんばかりに腰に木の根を当てているのは勘弁してほしい。
そりゃ、いつも何か色々やってはいるけどな……。
(ふふっ、お前達。そろそろ地面に着くようだぞ。)
それを傍から見ていたイリーナが口に手を当てながら、小さく笑っている。
言っちゃ駄目なんだろうけども、イリーナもこいつのイジリに参加してるよな? お咎めなしなんだろうか。
そりゃまぁ、彼女にクルヴァースがしがみつくとなったら色々微妙な描写にはなるけどな……。
「何か……納得行かねぇな……。」
「何が?」
「そりゃお前、クルヴァースが……んっ!?」
思わず返事しちまったが、後ろに居るやついったい誰だ? どっかで聞いた事ある様な……。
と思ったら、最初に会ったあの子供だった。
「っ……その、すまない。少し、私達がここに居ることは誰にも喋らないでくれ!」
「……兄ちゃん達あれだろ? 王女様から懸賞金掛けられてるって奴。」
懸賞金か……。そんな物まで掛けられてるとなると、急いで逃げるしかねぇかもな……。
「俺が普段寝てる場所……来るか? 家とは言えないけど……。」
凄くありがたい提案だ……。と言っても……。
「良いのか? 王女を裏切る様な真似をしても……。」
「良いんだ。別に金なんか貰ったって、この街じゃ使えないし……。そんな物より、兄ちゃん達が持ってる食料を狙った方が旨味があるよ。」
「はははっ! 逞しい子だな。よし、今日は腹一杯食わせてやろう。」
イリーナはニッコリと笑って、子供の頭を撫でた。
「本当!?」
「あぁ……本当だとも。」
その時、イリーナから了承を求める様な視線を送られた。俺はとりあえずそれに、頷いておいた。
ゼリーを渡せば寝床が貰えるんなら、万々歳ってもんだぜ。
「じゃぁ、約束な……。」
子供は小指を出した。それに対しイリーナも指を絡めた。
「「指切りげんまん嘘ついたら針千本の〜ます指切った!」」
2人は仲良く約束をし、小指を離した。
「フシュゥッ!」
その瞬間、クルヴァースも木の根を差し出した。そして、子供の小指にソレを絡めようとする。
「な……なんだよぉっ! お前と約束する事なんてないだろ!?」
子供のその言葉に、クルヴァースは跳ねまくる。
木の根が城のある所を指差したかと思えば、バッテンを作り、子供の方に向け、マルを立てた。
俺と子供は、その意図が分からなかった。
しかし、イリーナだけは納得した様に頷いた。
「ふふっ……良かったな、クルヴァースがマリクスをやっつけてくれるそうだぞ。」
イリーナが子供を撫でながら、言った言葉に、クルヴァースは頷く動作を見せた。
「……本当に?」
「フシュゥッ!」
クルヴァースはまた1つ、頷いた。
「じゃ……じゃぁ……。」
子供は早速小指を差し出し、クルヴァースがそれに木の根を絡めた。
「指切りげんまん……嘘ついたら針千本の〜ます……からなッ!」
顔を赤くさせた子供は最後にこいつの方を指差し、顔を背けた。
クルヴァースは満足そうに頷いた。
「ふふっ……良かったな。」
「……本当に……嘘つくなよ……。」
子供は、ほんの少し涙を流しながら、釘を刺した。
そして、クルヴァースは平然と頷いた。




