第56話:命令
「さぁ、訳を聞かせてもらおうか。」
イリーナがスッと首元に剣を突き立て、マリクスを睨んだ。
「うふふ……この傷口を見れば、大体分かるのではないですか?」
そう言って、王女は弾丸が埋め込まれている部位を指差した。
そして、そこからは血の一滴も出ていなかった。
「まさか……お前はホムンクルスか!?」
「えぇ、そうですわ。私はただ、命令をされているだけなのです。」
その言葉を聞いた時、イリーナがギリィと歯を食いしばり、険しい表情になった。
「誰からだ、誰からこんな命令を受けているッ!?」
「うふふ……憎悪とでも、言うべき物でしょうか。」
「何……?」
「ある所に、魔法使いが居ました。その人はとても魔法の扱いが上手く、ホムンクルスに80年程は生きれる程の魔力を注ぐ事に成功したのです。」
その時、彼女の目から涙が1筋流れ落ちた。
「しかし、その魔法使いは普段から色んな人に非難されていました。すると、何ということでしょう。自分が魔力を注いだホムンクルスに、間違った命令が届いてしまったのです。【お前は悪い奴だ。悪い行いしか出来ない奴だ】と。」
「……まさか……。」
「そのホムンクルスは、自分を育ててくれた魔法使いを殺し、王国の王女となりました。人々を苦しめ、そして自分も苦しむ事しか出来ない、そんな王女になってしまったのです。」
「そ……それがお前なのか!? そんな偶然が生み出した最悪の存在が……お前だというのか!?」
「うふふふふ……えぇ、したくもない事をさせられる事に抵抗も出来ず、そして人々の非難をその身に受け、貴方方の様な襲撃者を待ち受ける事しか出来ない……。そんな存在が、私ですわ。」
ニッコリと笑った彼女の瞳からは、今も絶えず、涙が溢れている。
「……く……ッ! 待っていろッ! 必ずお前を助けてやるッ! そんな因果から解放してみせるッ!」
「フシュゥゥゥッ!」
その時、王女は作り物ではない、とても悲しげな笑みを浮かべた。
「あぁ……だから嫌なんですよ……。こんな時にも、悪い事しか出来ないなんていうのは。」
王女がそう呟いた時、その場に紫の蛇が大量に現れた。
「な……何だこりゃぁッ!?」
「うふふふふ……ポイズンスネーク。像をも一瞬で倒す毒を有した怪物ですわ。誠に僭越ながら、この子達が来てくれるまでの時間稼ぎをさせて頂きました。」
……ッ! なるほど、やけに倒れるのが早いと思ったら、話をしてこいつらが来る時間を稼いでたって訳か!
「当然の事ながら、私もすぐに動けますのよ。あの銃弾を受けたからと言って動けなくなるほど、やわな身体ではございませんわ。」
「まさか……私達を騙したのかッ!?」
「騙される方が悪い……と言いたい所ですが、ここは詳しく明言しないでおきましょう。」
作り物の笑みを浮かべ、王女はこちらに走ってきた。
「逃げるぞクルヴァース、イリーナッ!」
「っ……分かった!」
「逃げれると思いますか? 私の声一つで、住民が貴方方の進路を防ぎますわ。」
「マリクスさんよ。それぐらいは、覚悟の上だぜ。」
その時、初めて彼女は驚いた様な表情に変わった。
「何ですって……?」
「行くぜイリーナッ! 今回もしっかり捕まってろぉッ!」
「分かった!」
「フシュゥッ!」
俺は氷の槍で城の壁をぶっ壊し、魔法式パラシュートをその手に持った。
「それはいったい……ッ!?」
全力の風魔法を上に吹かせる事によって、パラシュートが大きく開き、俺達の体がどんどん上昇していく。
「じゃぁな王女さんよ! また会おうぜッ!」
俺はマリクスにそう叫び、あの高い壁の上に着陸した。




