第55話:散弾銃
「はぁッ!」
先程から高レベルな戦いが行われている。イリーナとマリクスが高速で駆け回り、攻防していて、まるで付け入る隙がねぇ。
「言う程の事はありますのね。まさか私にこうも食らいついて来れるとは、思っていませんでしたわ。」
イリーナの横薙ぎを躱しながら、マリクスも爪を彼女へと振り下ろす。
そして、イリーナはそれを剣で弾き、更にマリクスを突きに行く。
「あら、危ないですわね。そんな戦い方をしていては、私から事情を聴く前に、死んでしまうかも知れませんわ。」
クスクスと笑いながら、マリクスはそんな脅しを掛ける。
「フッ、貴様、早々には死なないだろう? どうせ人間ではないのだからな。」
「頭も冴えますのね。少し、貴方の事を手駒にしたくなって来ましたわ。」
ようやく俺にも、このままじゃやばいという事が分かってきた。
イリーナには少しずつ疲労の色が見えてきている。しかし、マリクスは全くの疲れ知らずだ。戦闘を始めたばかりの頃と、まるで動きが鈍っていない。
このままじゃ、駄目だ……。
「離れろイリーナッ! 【アイスハンド】!」
イリーナが一気に後ろに離れたのを確認してから、氷の手で鉄砲の引き金を押した。
反動は俺を襲う事なく、氷の手に伝わり、問題なくマリクスの方へ弾丸が飛んだ。
「あら……こんな武器を持っていたのですね。」
弾丸はいつまで経っても、マリクスの体を貫かなかった。
そして、よく目を凝らしてみると、弾丸はマリクスの爪に串刺しにされていた。
「う、嘘だろ……。」
弾丸なんて普通は視認出来ねぇ。そんな物を視認して、更に串刺しにするなんて芸当を初見でやってのけた……。
とてもじゃねぇが、イリーナにだって出来る様な事じゃねぇ。
こいつは、正真正銘の化け物だぜ……。
「小細工は、これでおしまいでしょうか?」
ニッコリと笑みを浮かべ、その紅い爪を舐めた。
「チィッ!」
イリーナの斬撃をマリクスは弾き、奴は俺の方に飛んできた。
「倒させて頂きますわ。どうやら、貴方の方が何やら色々厄介な様なので。」
剣を振ってくるイリーナよりも俺の方を厄介だと思ったか……。
ちょっと誇らしい気分ではあるが、残弾はあと一発しかねぇ。簡単には反撃が出来ねぇッ!
「くっ……【アイススピアー】!」
俺が射出した氷の槍をいとも容易く躱しながら、俺に爪撃を振るった。
「ぐぅっ!」
予め木の盾を仕込ませておいた腕で受ける事は出来たが、それでも相当なダメージだ……。
一歩間違えば腕が吹っ飛ぶ……。
「残念ですわ。小細工が得意な御方ですのね。」
「離れろクラジレンッ!」
イリーナの叫びを聞き、俺は一気に飛び退いた。同時に、彼女がマリクスに襲いかかった。
「貴女はもう良いですわ。そろそろ、動きも読めてまいりました。」
その宣言通り、マリクスはイリーナの攻撃を簡単に翻弄し、遂に、彼女の肩にその爪を突き刺した。
「うぐっ……!」
「くっ……! クルヴァース! あいつを頼む!」
「フシュゥッ!」
俺の声に呼応し、一気にマリクスに突っ込んだクルヴァースは瞬時に蹴り飛ばされてしまった。
まずい……。
あいつの意表を突くにはあと5秒は必要だ……。その間にイリーナが殺されちまう……ッ!
「終わりですわ。」
マリクスが彼女に爪を振り下ろそうとした瞬間、俺は奴に木の筒を向けた。
「くらいやがれッ!」
そして、その筒からは何も出なかった。
「……あら?」
「ふんッ!」
王女がこちらに気を取られている隙に、イリーナが抜け出してくれたみたいだ。
「残念だったな、ハッタリって奴だぜ。」
「うふふ……そういう事ですか、やはり貴方の方が面倒な様ですね。」
マリクスは作り物の笑顔を浮かべ、こちらに飛んできた。
でも、残念ながらこっちだって準備は済んでいる。
「安心しな、今度は本物だぜ。【アイスハンド】!」
再び氷の手を生成し、王女に向けて弾丸を放った。
「う……あぁぁぁっっ!?」
そして、彼女の体に無数の弾丸が埋め込まれた。
「さっきのは突いて何とか出来たみたいだが……これはどうにもならねぇだろ!」
何せ、これはいわば散弾銃。
本来弾丸として作られている木をミリ単位で小さくし、そしてそれを無数に詰め込んである。
後は普通の鉄砲と同じ様に引き金を引いて爆発させりゃ、あいつでも防げねぇ無敵の鉄砲の完成だぜ。
「う……ふふふ……やはり、貴方が1番厄介な様ですね……。」
王女はそう呟き、その場に倒れた。




