第54話:マリクス
しかし、どうするか……。その目論見を見極めるって言っても、住民に聞いて分かるもんでも無いだろうしな……。
「クラジレン……こうなれば、城に直接乗り込んでしまえばいい。こういうのは本人に聞くのが一番だ。」
「だよな。よし、行ってみるか!」
イリーナの提案に頷き、俺達は城に向かった。少し黒っぽい、極普通の城だった。
あまり豪華な雰囲気も無く、質素な雰囲気もない。
しかし、城の外壁に1つ、デカデカと書かれている紋章が気にはなった。
その紋章には、紫の蛇みたいな2体の生物が書かれている。そして、その蛇が絡まり合っていて、何というか不思議な紋章になっている。
「あれはいったい何なんだろうな……。」
「恐らく、城のシンボルみたいな物なのだろうな。あの門番の兵士にも似たような物が書かれているバッジが付けてあった。」
「ま、まじで?」
そんなに注意深く見てねぇから分からねぇや。
でも、イリーナの観察眼も流石だ……。よくそんな物分かるな。
「よし、1つ乗り込んでみる事にしよう。」
「おっけー! どこから乗り込むんだ?」
この言葉に、イリーナは少しキョトンとしたような表情になった後、ニヤリと笑った。
「決まっているだろう? 表面からだ!」
イリーナは城の門を蹴り飛ばし、中へズンズンと入っていく。
「豪快だなぁ……。まぁ、頼もしいけどよ。」
俺が行こうとしたその時、後ろでクルヴァースが、鳴き始めた。
「フシュゥッフシュゥッ!」
俺が後ろに振り向くと、木の根が絡まって動けなくなっているクルヴァースが居た。
「頑張れ! クルヴァース。」
俺はそう告げて、先に進んだ。後ろでクルヴァースの絶叫が聞こえた。
ーーー
「……おかしいな……。」
イリーナはそう言いながら、周囲に目を凝らしている。
確かにおかしい。城だって言うのに兵士が一人も居ねぇ。安全に姫様の所まで行けそうだ。
「障害が無いのは助かるが……。まぁ、いい、行くぞクラジレン」
「おう!」
俺が頷いたのと同時に、近くにあった部屋への門を、かなり強引に開いた。
そして、その先には1人の女性が居た。
ストレートに伸ばした黒い髪と、血と黒の絵の具を混ぜ合わせた様な不気味な色合いの紅い瞳。
動きやすさを重視した様な単調な紫色のドレスをその身に着けた女性が、例のマリクス王女だという事が簡単に分かった。
赤い玉座の様な椅子に、深々と座り込んでいたからだ。
「貴様がマリクス王女か……。」
「うふふ……ごきげんよう。言葉遣いには気を付けた方がよろしいかと。」
マリクス王女は作り物の様な笑顔を浮かべていた。目は相変わらずこちらの方に視線を向け、口角だけは上げている、そんな笑みを向けてきた。
「とりあえず、あんたに聞きてぇ事がある。何故、ここから出るのにあんたの許可が必要なのか、何故あんな壁があるのかを、ハッキリと聞かせてもらおうか。」
「……うふふ、そんな質問に応える気はございませんわ。」
バッと紫の花の様な染色がされている扇を口の前に広げ、相変わらず、作り物の様な、笑みを浮かべている。
「そうか……ならば、少々強引な手を使わせてもらっても、構わないな?」
「出来るのであれば、構いませんわよ。」
「へっへっへ、分かりやすくてありがたいぜ。なら、行かせてもらうぜ王女さんよぉッ!」
「フシュルルルルルッ!」
どうやらクルヴァースも帰って来たみたいだ。
相手がどれだけ強いのかはまだ分からない。こいつが居るってのは助かるな……。
「うふふふふふふふ。」
王女は扇を投げ捨て、初めて作り物ではない笑みを浮かべた。
顔を赤く紅潮させ、ニッコリとした笑みを浮かべ、舌舐めずりをしている。
そして、直後に手から、紅い爪を伸ばした。
「では、こちらも行かせていただきますわ。」




