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第51話:陸地

 更に俺達は1週間その海の上で進み続けた。

 地図はもう使える物じゃない。そして、方向感覚なんぞまるで分からない。


 ちゃんと進めているのかどうかが、あやふやだった。


「……ッ……」


 イリーナが苦しげな声を漏らした。俺も、そろそろ不安な気分になっていた。


「くそったれ……。」


 食料はまだ困っちゃいねぇが、ずっと海でゴールがまるで見えねぇってのは不安で仕方ねぇ……。イリーナだって、一緒のはずだ……。


 せめて、何とか出来る方法があれば良いんだけどな……。


「フシュゥ……。」


 クルヴァースも意気消沈しちまってる……。2日前ぐらいからスライムみてぇにぐでーんとなって、ご飯しか食べなくなっちまった。


「悪い……クラジレン。今日はそろそろ寝る……。」


 彼女はそう言って、静かに目を閉じた。俺はそれを見守る事しか出来なかった。


「……ちくしょう……。」


 自分の力弱さにムカついてくる……。せめてこんな時に、気休めの言葉ぐらい掛けれ無かったのか……。


 俺自身も、そんな言葉を掛ける余裕がねぇくらい……弱っちまってる……。


 このままいつまで航海を続けりゃ良いんだ……。食料だって無限にある訳じゃねぇし、食える物は美味くもねぇゼリーだけ……。


 こんな調子じゃ、あと一週間も保たねぇ……。


 ……いや、もしかしたら、分かる方法があるかも知れねぇ。氷魔法は海を凍らせたり、薄いトンネルを作ったり、とにかく色んな事が出来ていた……。

 そうなると、望遠鏡も作れるんじゃねぇか……。どういう原理で出来ているのかは知らねぇが、レンズっていう透明な何かで出来てるのは間違いねぇ。

 それならば、氷でも出来るかもしれない。


「何にせよ、今はやってみるしかねぇよな……。」


 このままじゃ全員の精神がやばくなってくる。でも、もし俺の能力でゴールが見えるんなら、持ち直せる。また皆が元気になれるはずだ。


「まず……俺の知ってる望遠鏡はレンズが2つぐらいあったな……。」


 筒の穴に2つずつレンズが付けられていた。ともかく木で筒を作り、そこに透明な氷を貼っ付ける。

 氷を透明にするのはイメージで出来るからそれで充分だ。しかし……それだけで良いって訳じゃねぇだろう。

 望遠鏡に適したレンズにする為には、まだ何かイメージを調整する必要があるはずだ……。


 つっても、実際に見てみなきゃどうなるかってのは分からねぇ。実際に俺はその仮望遠鏡を覗いてみた。


 透明な為、景色は透き通って見えるんだが……相変わらず海しか見えねぇ。

 でも、イリーナを見てみると拡大して見えた。どうやら、上手く行っている事は間違いないらしい。


「って事は……この望遠鏡を使ってもまだ目的地に着いてるかは分かんねぇって事か……。」


 情けない話だが、こうなるのは当たり前か……。そもそも望遠鏡ってのは遠くの物を見えやすくする道具だ。こんなもんあったって……元々見えねぇもんが見える訳がねぇ……。


「くそ……。」


 俺は知らぬ間に涙を流していた。既に2人の限界が来てるってのに、それに対して何も出来ねぇ自分が情けなく、悔しかった。


 もう死んじまうのかも知れねぇな……。こんな事なら、もっと多くの物を食べておくんだった……。

 それに、どうせ死ぬなら、あの大陸の縁で落ちといた方が、まだ楽だったかも知れねぇ。結果論に過ぎねぇが、そう思わざるを得ない……。


「……待てよ……。」


 大陸の縁……。確かにあそこから落ちれば簡単に死ねた。それは何故か……それだけの高度があるからだ……。遥か遠くまで見渡せそうな程の、高度があったからだ。


「遥か……遠くまで……。」


 俺は気付いた時には木の階段を創り上げて行った。なるべく高く、ボートが小さく見えるぐらいに高い階段を作る。


 その意志を持って、俺はとにかく高い、高い階段を作った。


「見えるかも知れねぇ……。ここからなら!」


 本当にボートが小さく見える程の高い階段を創り上げちまった。魔力の4分の3以上は使い果たしちまった。

 でも、これで見えるのならば……。


 俺は、自分の震える手を抑えながら、その望遠鏡で覗き込んだ。


 そして遂に、絶望する程に広々とした青の中にほんの小さな、緑を見つけた。


「おっっしゃぁぁッッ!」


 ついに、ついに見つけたぜ。この限界状態を突破出来る景色を。希望の大地を見つけてやったぜ!


「クルヴァース! イリーナ! ちょっと起きてくれッ!」


 俺は2人を揺さぶった。2人は眠そうに目を擦りながら、起床した。そして即座に、その眼をかっ開いた。


「な……何だこのでっかい階段は……。」


「フ……フシュゥ……。」


「そんな事どうでもいいから! ちょっと着いて来てくれ!」


 俺はイリーナの手を引っ張り、階段を登って行った。クルヴァースは不思議そうにしながらも、その後を着いて来た。


「お、おい……何だ? どうしたんだ。」


「良いか? ちょっとこれを見てくれ!」


 俺はイリーナに望遠鏡を渡し、景色を覗かせた。


 そして、すぐに呆然とした顔になり、口が空いた。


「お、おいクラジレンッ! 何だこれは!?」


「へっへっへ……望遠鏡って奴さ! それを使えば遠くまで見渡せるんだぜ。そして見えたろ? ゴールがよッ!」


「あぁ……見えたッ! ほんの少しであったが、ハッキリと!」


「フシュゥゥゥッ!」


 自分も気になると言わんばかりに、クルヴァースが跳ね出した。イリーナはこいつに望遠鏡を渡した。


 早速クルヴァースはその望遠鏡を覗き込み、そして、見つけたようだ。


「フシュルルルルルッ!」


 先程までシワシワになっていた体が、元気が出た為か、ツヤツヤになっている。


「今はまだ分からねぇが、そんな遠くはねぇはずだ。恐らくはあと1日か2日で着く!」


「フッ、なるほどな……。分かってみれば、そんなに遠くはないようだな。よし、そのくらいの時間は持ち堪えてみせよう!」


 そう言ったイリーナは、いつもの様にかっこいい笑みを浮かべていた。それを見て、ようやく2人の頼もしさが帰ってきた事を実感した。


「へっへっへ……。やったぜ……。」


 俺はその時、疲労の為か、ふらっとその場に倒れかけた。それを、イリーナが即座に抱きとめてくれた。


「あぁ……良くやった。」


 その言葉と、温かみを感じながら、俺は静かに眠りについた。

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