第36話:勝利
「まずいな……。」
先程からあの赤い人形がゴリラ達を止めている。おかげで支援を貰えず、私もあの木の根が見せる偽物に惑わされてしまっている。
「フシュルルルルッ!」
奴はまたもや10本程の木の根を一気に飛ばしてくる。
そして飛ばしてくる木の根の大半はダミーだ。ただの泥か砂の様な物で斬ってもあまり意味が無い。
「このままでは埒が明かんな……。切り札を使わせてもらうとしよう。」
元々対策は思い浮かんでいた。しかし、これは一発勝負だ。そう何度も通じる様な代物ではない為、あまり使いたくはなかったが、仕方あるまい。
私は10本の木の根をいなした後、地面を思いっきり叩いた。
それによって地面は大きく振動し、木はバサバサと音を立てている。しかし、あの魔獣は平然としている様だ。
間髪入れずに私に再び10本の木の根を飛ばしてきた。
だが、次はそう上手くは行かない。
私はダミーには体をぶつけて粉砕し、本物だけを切り裂いた。
「フシュゥゥゥッ!?」
随分と驚いている様だ。体中がビクッと跳ね上がっている。
種は単純だ。私は地面を叩いて木から葉っぱを落とさせただけに過ぎない。
そして、本物がそれに当たれば、葉っぱが黒ずむのだ。それを見ればどれが本物でどれがダミーかは一目瞭然だった。
「さぁ、これで終わりだ。クルヴァースッ!」
私は奴の元へと一気に近づき、一閃を放った。
その横薙ぎによって、奴の体は真っ二つに裂けた。
「フシュゥッ!?」
奴はそれに驚き、上半分だけで逃げようとした。
しかしそうはさせない。
奴の体に剣を突き刺し、地面に釘付けにしてやった。
「さぁ、お遊びは終わりだ。そろそろ大人しくなってもらうぞ。」
「シュルゥゥゥ……。」
奴の木の根は萎んで行き、大人しくなった様だ。
そして、周りの赤い人形も消滅して行った。
クラジレンが本当に隊長を倒せるのか……。少し心配ではあったが、杞憂だったようだ。
「本当に1人で勝ってしまうとはな……。凄いものだ。」
『貴方もね……。支援が無くてもその魔獣に勝つとは思わなかったわ。』
突如後ろから声を掛けられた。
振り向くと、少し困った様な笑顔を浮かべている、お母さんゴリラが居た。
「いや、場所が良かっただけだ。もしここが森でなければあれほど上手くは行かなかっただろう。」
すると、お母さんゴリラは少し目を見開いた後、フフッ、と笑い始めた。
『それなら、貴女は場所を上手く扱える程、頭が良いのね。』
……むぅ、少し恥ずかしくなってきた……。
私は腕を組みながら、ついつい顔を逸らしてしまった。
後ろでお母さんゴリラの静かな笑い声が聞こえる。
すると、その時、ボロボロになった彼が帰ってきた。
「クラジレンッ!」
腕はだらんと下げて、胸から血を出している彼は明らかに重傷だった。
倒れそうだった所を抱き止めると、彼は手でピースを作った。
「へ、へっへっへ……隊長を倒してきたぜ。」
クラジレンは掠れた声でそう呟き、腕の中で眠った。
「あぁ、良くやった。」
眠っている彼を支えながら、私は心の底から、そんな思いを抱いていた。




