第35話:覇者
「ゲホッゴホッ! 随分と……きついもんだぜ……。」
銃弾を口で放つなんて荒業をしたダメージは相当なもんだった。
声は掠れやがるし、歯は折れたし、喉も痛え。
こいつは早く回復魔法でも掛けてもらいたい気分だぜ……。
と、そんな事を考えていた時。
「私が……負けたのか……。」
奴はそう呟き、地面に倒れ伏した。
……人殺しという一線は越えたくはなかったが……。あいつに関しては殺すしか無かったん……だよな……。
「……おのれっ! おのれぇ……。覇者となるべき、この……私が……。」
奴は血涙を流していた。
せめて、苦しまぬ様にしてやろうと思って、俺は奴に近付いた……。
「……あぁ……私は愚かだった……。」
何故か……その言葉に、何となく不快感を覚えちまった。
「……らしくねぇな、今更後悔してるのかよ……。」
「あぁ……何故、何故私はそんな物に踊らされていたのだ……。」
「……なんだって?」
「私は……私は覇者となれていたはずだった……。このまましっかりと頑張っていれば、剣術が衰えていく事など気にせずに、自分の道を突き進めば良かったんだ……! それだと言うのに、そんな物を追い求めたせいで……。道から外れたせいで……私はこんな道半ばで……。」
掛ける言葉が見つからなかった……。こいつは、自分の夢を持っていた。
その夢が良いものだったかどうかは定かではないが、それを突然現れた俺と、地図という存在に脅かされてしまった……。
「目の前の宝など追い求めるべきでは無かったんだ……。私の道の先には覇者があったんだから……。その道から外れるべきでは無かった! 私は、何と馬鹿な事を……。」
「誰だって……そうなるもんだぜ。別の道に宝箱があったら、誰だって開きに行きたくなっちまう……。」
奴は、俺の言葉に、フッ、と笑い、目を開いた。
「クラジレン君……その地図は、君が作った物では無いんだろう?」
「……あぁ……。」
「君に……何があったのかは知らないが、その地図を渡してきた人を、君をこんな因果に巻き込んだ人をただで済ます気は無いはずだ……。そうだろう?」
「あぁ……そうだぜ。」
勿論そのつもりだ。こんな地図を渡してきやがった球体には何かしらの形で仕返しをしてやらなきゃいけねぇ。
俺自身の恨みってのは勿論あるが、それ以上に、こんな力を用意出来る存在を野放しにしておくのは危険極まりない。
いつどこで再び地図みてぇな爆弾が投下されるか分かったもんじゃねぇ……。
「それなら……これを持って行ってくれ。」
隊長が俺の腕に手を伸ばし、魔力が乗った模様が書いていく。
無数の線が絡み合い、船の様な形となっている模様が俺の腕に刻まれた……。
「それで……その術式で、地図を作った奴に一矢報いてくれ……。私の人生を狂わした奴を、潰してやってほしい……。」
「おう……任せとけ。」
俺がそう言うと、隊長は満足そうにニッコリと笑った。
「それじゃぁ、頼むよ……。それは、僕の人生が乗った代物だ……。大事にしてくれよ。」
俺がその言葉に頷くと、隊長はゆっくりと目を閉じた。
「ねぇ……クラジレン君……。私も、君の様に生まれ変われたら、今度こそ……世界の覇者に……。世界を、私の、縄張りに……。」
ゆっくりと上がっていき、空を掴んだ奴の手が、ボトリと地面に落ちた。
「……じゃぁな……隊長。」
俺は、ゆっくりとその場から立ち去った。




