第33話:酸味
「ふふっ、クラジレン君。私は平和主義なんだ、君が地図を渡してくれるのであれば、殺さずに済むのだが……。」
「それはこっちの台詞だぜ。俺と戦えば、あんたは勝ったとしてもただでは済まねえ。それでもやるか?」
これは嘘じゃねぇ。さっき使ったミリ単位魔道具の他にも2つ程用意してある。
それを使えば隊長と言えどただじゃ済まねえってのも間違いねぇ。だが、隊長は相変わらず俺を見下し、笑みを浮かべている。
「君は自分に対する過大評価が過ぎるようだね。身の程という物を教えてあげようじゃないか。」
「へっ、そうかい。なら行くぜ! 【アイススピアー】!」
俺は魔力を全て使う程の勢いで、氷の槍を射出し続けた。隊長はそれを悠々と躱している。
「おぉ、怖い怖い。これは近づけないかもしれないな。当たりはしないがね。」
ニヤリと笑いながら俺の槍を躱している。
この状況を続けられると俺としちゃ分が悪い。しかし、そうはならねぇ。あの隊長は何かしらの策を打ってくる。
あいつは俺のアイテムなどの小細工を警戒している。余裕ぶってはいるが、内心氷の槍を放ってる俺に対し、疑心暗鬼になっているはずだぜ。
「ほぉら、足元を見給え。死神が近付いてきているよ。」
俺はその言葉を聞き、咄嗟に自分の足元を見た。すると、地面から人形の手が生えてきた。
「うわっ!? 【アイススピアー】!」
圧倒的なホラーだった。俺は急いで氷の槍を人形に射出した。
そして、すぐに隊長の方へと向き直したその時、青い魔法が飛んできていた。
「っ……これはまさかッ!」
それに喰らった瞬間に、自分の中の力が失われていく感覚が奔る。
やっぱりだ。こいつは封印魔法で間違いねぇ……。
「フフフッ、残念だったねクラジレン君……魔法も使えなくなれば、君に勝ち目は無いッ!」
奴は悪魔の笑みを浮かべながら、ゴリラをも越える程の速度で俺へと斬り掛かってくる。
こいつは……狙い通りだぜ。
「くらいやがれッッ!」
俺は懐に入れておいた木の筒の蓋を外し、隊長に向かって中に入っている赤紫の液体を振りまきながら、後ろに跳んだ。
「なんだねこれは、毒だとすれば、僕を舐めているとしか……ッ!?」
ニヤリと笑っていた奴は赤紫の液体が目に入った瞬間、血相が変わった。
「毒って言うほど物騒な物じゃねぇ。ただの果実さ。」
「アァァァァァァァッッッッ!?」
奴は目を抑えながら苦しみ悶えている。地面を転がりながら、その痛みに悶絶している。
「知ってるか? レモンっていう果物を目に入れたら凄く痛いらしいぜ。なら、『酸味の神様』だったらどうだろうな!?」
その痛みは俺だって想像もしたくねぇ。しかし、奴の悶絶具合を見るに、それだけの効果はあった様だぜ。
「おのれ……! おのれぇぇッ!」
「毒だったら解毒剤でどうにか出来たんだろうけどな、それならどうしようもねぇだろッ!」
俺はその言葉と共に、隊長へと近寄った。
そして、動きを封じようと思ったその時、奴の剣が俺の足を掠った。
「うぐッ!?」
「な……舐めないで貰えるかな……。これしきの痛みッ! あの苦悶の日々に比べれば……ッッ!」
隊長が両目を閉じた状態で涙を流しながら、ユラリと立ち上がった。
しかし、そんな状態で勝てる訳もねぇ、無謀も良い所だ。
「降参しろよ……低く見積もっても、あと数分は痛みが収まらねぇはずだぜ。そんな状態で俺と戦える訳が……ッ!?」
次の瞬間、奴の剣が俺の胸を斬った。
「ぐ……うッ!?」
や……やばかった……。肋骨には切り傷が入っていて、心臓にもあと数センチで届いちまう所だった。
「ふふふっ、君も馬鹿だねぇ。目を封じたぐらいで思い上がるなんてね。」
「じょ、冗談じゃねぇぞ……。」
こいつは……見えてやがる……。
両目を閉じた状態でも俺の位置が見えてやがる。




