第28話:ママゴリ
『みんなぁ! あの子が帰ってきたわぁっ!』
キモゴリが腰を曲げ、両手を口の横に置きながらゴリラ達へと叫んだ。
それを聞いて、こちらに振り向いたゴリラの目が、一気に獣の目に変わり、舌舐めずりをしている。
その相当ショッキングな絵面に顔が真っ青になりかけた時、イリーナが俺の手を握ってくれた。
「大丈夫か?」
イリーナが目を細め、心配そうにこちらの顔を覗き込んできた。
それに何とか頷き、俺は改めてゴリラ達の方に目を向けた。
「ひ、久しぶりだな……。」
俺は震える声を抑えながら、何とかそんな言葉を絞り出した。すると、一匹のゴリラが他のゴリラ達を抑えながらこちらに向かってきた。
『何故帰ってきたの……?』
納得の行かない様な、嬉しさもある様な、そんな感情が垣間見える表情をしているそのゴリラは、あの懐かしきママゴリだった。
「実は、ちょっと厄介な事があったんだよ……。それに関して相談したい所なんだが、今それどころじゃないんだよな?」
俺のその問いにママゴリはゆっくりと頷いた。
『そう……実は、魔獣クルヴァースが暴れ出してしまったの。全身木の根で出来ている、あの子が……』
頭を俯かせ、ママゴリはそう呟いた。
俺はそれを見て、すかさず発言した。
「なら、俺もそのクルヴァースって奴と戦うぜ。」
それを聞いた瞬間、ママゴリは驚いた様な表情を出し、しかしすぐに否定してきた。
『駄目よ、クルヴァースは危険な魔獣なのよ。』
やはりというか、ママゴリからは母性の様な物を感じる。何というか子供を心配する親の視線を受けている気分だ。
しかし、そうは言っても容認する訳には行かない。そう思い、俺がそれに対し、反対しようとした時、イリーナが前に出た。
「残念ながら、こちらも危険な魔獣と言われ、引き下がる訳には行かないのだ。」
イリーナが目を細め、ママゴリを睨むように見ながら、そう発言した。
その次の瞬間、ママゴリの視線とイリーナの視線が交差し合い、バチバチと火花を散らし始めた。
『そう、人間の都合としてはそうでしょうね。でも、それにその子を巻き込むの?』
ママゴリはイリーナへと攻める様な口調で言葉を発した。
イリーナはそれを聞き、少し目を閉じて考え込んだ後に、口を開いた。
「私は別にクラジレンを巻き込もうと思っている訳ではない。クルヴァースを倒す事が目的であって、彼を巻き込んで戦う事は目的ではない。」
凛とした佇まいでママゴリにそう宣言したイリーナを見て、少し悲しくなった。
いや、そんな事はどうでもいい。とにかく否定しなきゃ満場一致で俺が戦闘に参加しない路線で話が進みそうだった。
「ちょっと待ってくれよ。俺も戦うつもりだぜ。」
俺が2人の間に発言したその次の瞬間。
「何故だ? お前は戦う理由も無いだろう。」
『やめときなさい、危険なのよ。』
ダブルで止めに掛かってきた。正直2人の間に挟まった状態でこうなると、決心が揺らいでくる。
しかし認める訳には行かねぇ。ゴリラ達とイリーナには恩があるし……放っとくってのはあまりやりたくねぇ。
「……それでも俺は戦うぜ。危険な相手だからこそ、俺の奇策をくらわせてやるんだよ。」
俺は親指で自分の事を示しながら、自信満々にそう宣言した。
すると、即座にイリーナが反応した。
「奇策……? またあの時の様な不思議な物を作っているのか?」
「……まぁ、パラシュートみてぇなのは、無い事も無いんだけどな……。あの木の根野郎にも効くかどうかは分からねぇや。」
そもそも俺はあいつの事を全く知らない。
とりあえず木の根を繋ぎ合わせたみたいな不安定な姿をしている事ぐらいしか知らねぇ。
「……そうなのか。」
イリーナは少し腑に落ちない様な素振りで目を細めながら、俺を見ている。
「で、でも特徴について知らねぇから仕方ねぇよ! とりあえず、こういうのは特徴について知ってから、考えるもんだぜ。」
イリーナは『まぁ、そうだな』と言いながら頷いている。
その様子を見てママゴリが少し呆れた様にため息を付く。
『とりあえず、貴方の戦う意思は変わらないのね?』
「おう!」
俺がそう言って頷くと、ママゴリは『それなら分かったわ』と言い、魔獣・クルヴァースの特徴について話し始めた。




