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第26話:切り札

「フフフフッ! もうすぐだ、もうすぐ最強の力が手に入るッ!」


 舞台はいよいよ最終局面へと進んで行った。僕が生み出す人形達はあの二人を崖の方へと追い込んでくれたらしい。


「よしよし、もう充分だ。さぁ、2人を追い詰めてあげるとしよう。」


 2人が崖っぷちの所で立ち止まった時、僕は叫んだ。


「さぁ! そんな所に居ては危ないよ、地図さえ渡せば助けてあげると言ってるんだ。何も命を捨てることは無いじゃないか。」


 僕は遠くの方で2人に諭す様に叫んだ。

 私と2人の間には相当な距離が開いていて、そしてその距離の間には人形が敷き詰められている。

 どう見たって詰みだ。魔法も後は20分も使えないし、イリーナ君も肉体を強化させる魔法ぐらいしか使えない。

 そんな人間が勝てる様な状況ではない、そう思って諭して上げたのだが、何と2人はそれを断ってきた。


「断る! 私達はお前の思い通りになる気はない!」


 あぁ、残念だ。もはやあの2人は頭がバカ過ぎて詰みという事も分からないらしい。


「一緒に行くぞ、イリーナ!」


 彼のその言葉に反応し、2人が崖から飛び降りた。

 ……なるほど、そういう事か……。


「フフフフフッ! 馬鹿だねぇ。海に落ちたって何の意味も無いのに!」


 この崖は相当な高度がある。自殺をして地図を海の藻屑と変えようとしたのだろうが、僕には探知魔法もあるんだ。


 多少濡れたぐらいではどうにもならないだろうし、ここら辺は海の魔物も少ない。案ずる必要は全く無いだろう……。


 僕がそう考えた時、まるで何かの羽ばたきの様な音が聞こえた。しかもそれが1度だけ。


 しかし、たった一度とはいえ、それは鳥……いや、竜の羽ばたきに思える程、強烈な音だった。


 私は何か悪い予感がして、崖の方へと駆け寄った。

 そこには、信じられない光景があった。


「へっへっへ! 教えてやるぜ隊長さんよ。あんたの敗因はたった一つッ!」


 半円に開かれた巨大な白い紙、あの男はそれの持ち手の様な茶色い部分を両手に持っている。イリーナ君はそんな彼の身体にしがみつき、何とか離れないようにしている。

 そしてそんな2人をただ1つの謎の物体が落ちない様に浮かせていた。


「俺が異世界転生者だって事を、知らなかった事だぜぇッ!」


ーーー


「何だその物体は!? 異世界転生者とは何だァァッ!?」


 奴は激憤した様にこちらを睨みつけ、叫んでいる。

 やっぱり知らねぇか、ここにはヘリコプターや飛行機もねぇから当然と言えば当然だけどな。


「パラシュートって奴さ、魔法式だけどなぁッ!」


 両端に穴を1つ空けた細長い紙を半円状の山折りにする。そしてその後に穴を開けた部分に木を差し込んで、更に留め具を付ければ懐にもしまえる魔法式パラシュートの完成だ。


 魔法で丈夫な軽い紙が生み出せる、そんな異世界だからこそ出来る奇跡の一品だぜ。


「馬鹿なッ! バカなバカなバカなァァァァッッ! 何故そんな物が浮く!? 何故そんな物を持っている!?」


「言っただろ? 異世界転生者だってな! 異世界転生者だったら、崖に落ちた時の保険は用意しとくべきなんだよ!」


「意味が分からないッ!」


 まぁ、そりゃそうだろうな。俺も遊び半分で作ったやつだ、実際役に立つ日が来るとは思ってなかった。


 奴は崖っぷちで地団駄を踏んでいるが暫くはここまでこれねぇだろう。その内に少なくとも20分は経つだろうし、島の方まで逃げる時間はあるはずだ。


「正直、半信半疑だったが、無事に海に降りる事が出来たな……。」


「へへっ、信じてくれてありがとな。こんな道具なんて突拍子も無い話だったろうに……。」


「これぐらいは構わないさ。さぁ、早く泳いでいくぞ!」


「おう!」


 そこからは凄かった。イリーナは肉体強化魔法を持っていると聞いてはいたが、それにしたって泳ぐスピードが尋常じゃなかった。


「俺抱えたままで良く泳げるな……。」


 俺を片手に抱えたままスイスイと泳いでくれる。その姿は水泳のプロと言うよりも救助のプロって感じだった。


「あぁ、一通りの救助訓練は済ませてあるからな。」


 なるほど、納得が行くような行かないような……ってかいつの間にか俺救助される側に回っちまったよ。


 しかしパラシュートが開く際にちょっと脱臼しちまったんでそれは仕方ねぇ。本当にイリーナが居て良かったよ……。


「しかし、このまま島まで向かうのか? 島には危険な生物が居るはずだが……。」


「そうなんだよな……。そもそもなぁ……。」


 そこで言葉が止まってしまった俺を、イリーナが不思議そうに見つめている。


 ゴリラ達に会うってのがちょっと気まずいんだよな……。

 あんな別れ方をした後だし、俺自身ゴリラ達の生態系を乱すような存在だって事が分かっちまってるからどうもな……。


 つっても四の五の言ってられない状況なのも確かだ。ゴリラ達にあってこの地図の事を相談したいってのも勿論ある。

 しかし、イリーナにはそこら辺の状況をどう説明したもんか……。


「まぁ、大丈夫だ。ちょっと島には知り合いが居てな。」


「知り合い……? そうなのか、確かにお前一人であの島を生き抜く事は難しいだろうし、当然か……。」


 彼女は納得した様に頷いている。恐らく知り合いが人間だと思っているからこの反応で済んでるに違いない。

 そして、それに関しては隠す訳にも行かない。洗いざらい話しておかないとな……。


「いや、知り合いってのはゴリラなんだけどな。」


「……ゴリラ?」


 イリーナの動きが固まった。そして溺れかけた。


「ゴボゴボゴボ!? ちょっ、大丈夫かイリーナ!?」


「す、すまない。まさかクラジレンがゴリラと知り合いだったとは……。」


 信じられない様な目でこちらを見てくる。一応そこからの経緯も説明した。

 そしてそこからは驚きの連続だった様で、結局氷の上で話をする事になった。

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