第19話:酸味の神様
「クソ……。どうしたもんか……。」
あの状態を続けて欲しくはない、お節介だと分かってても心配なもんは心配だ。
かと言って、彼女を無理矢理寝かせるとか、仕事の妨害をとかをするわけにも行かない……。
そんな事、下手したら一生口聞いてくれなくなりそうだし、彼女の為にもならねぇ。
となると、手は1つしかねぇな……。
早速俺は調合書を片手に街まで向かった。
俺が作りたい物に必要なのは、外に行っても取れねぇ様な素材ばかりだ。
「となると……素材はここで買うしかねぇな!」
幸いポーションが相当金になった。過信し過ぎるのは良くねぇが少し買うぐらいなら大丈夫だろう。
そうして、俺は片っ端から調合書に書いてある栄養に良い物を取って行った。なるべくバランスが良くなるように、栄養を打ち消しちまう物が無いように注意しながら、進んで行った。
すると……。
「さぁさぁさぁ! こいつを10回噛んで吹き出さなかった人には銀貨1枚! 誰か挑戦してみるかい?」
おっちゃんが跳ね回りながら変な果物が入った籠を周りに見せびらかしているのが目に移った。
「なるほど……何か面白そうだな……。」
10回噛めたら大体1000円ぐらいか……。
面白そうだし、やってみるか!
「おっちゃん! 挑戦料は幾らだ?」
「おっと兄ちゃん、挑戦料は銅貨2枚! さぁ、やってみるかい?」
挑戦料は大体200円くらいか……。よし、小遣い稼ぎにゃ丁度いいな。
「よっしゃ! やってみるぜ!」
「良いねえ、勇気ある子は好きだよ。さぁ、お1つどうぞ!」
おっちゃんが渡してきたシワシワの果物を手にした瞬間、勝利を確信した。
ちょっと色が紫っぽくなってて、いちごみたいな形はしているが、これは間違いなく梅干しだ。
そして、残念ながら俺は、幼い頃から梅干しは好物だった。銀貨1枚は確実に頂いた様なもんだぜ。
「よぉく見とけよおっちゃん……。シャッターチャンスって奴だぜ。」
「……シャッター?」
あ、異世界にはあまり馴染みの無い言葉だったのか……。
いまいち締まらねぇな……。
そう思いながら、俺は梅干しもどきを口に入れた。
「ぶがはぁッッ!?」
瞬間、強烈な酸味を感じ、口から吹き出してしまった。
何だこれ!? 結構梅干しに似てるのに梅干しどころの騒ぎじゃねぇ!
何なら梅干しとレモンを2乗した後に組み合わせたみたいなやばい味がする。
「いやぁ、兄ちゃん残念だったね! 自信があったみたいだけど、流石にこいつには敵わねぇよ!」
おっちゃんが慰める様に言ってくれたが、俺は流石に納得が行かなかった。
「待ってくれおっちゃん! さっきのはちょっとしたミスだったんだよ! もう一回だけ頼む!」
「ほほぉ、凄いね兄ちゃん! あの果物に挑戦してもう一度挑戦する人なんて兄ちゃんが初めてだよ。」
「へっへっへ、まぁ俺は負けたままで居るってのは気に食わねぇんでな。」
早速挑戦料を払い、果物を口に入れた。
「むがぶゥッ!」
思わず吹き出そうとするのを耐えるあまり、変な声が出てしまった。
それでも吹き出すのは耐えきった、この勝負、俺が勝ったのだ。
「おぉ、凄い! 凄いよ兄ちゃん! さぁ、後は10回噛むだけだ!」
店員のおっちゃんがパチパチと拍手しながら噛むのを催促してきた。
……やっちまったぁぁぁぁぁッッッ!
やべぇ、10回噛まなきゃならねぇの忘れてた。とてもじゃねぇがこの劇物を一回噛む事すら出来る気がしねぇ。
いや、落ち着け……案外噛んだらそんなにきつくも無いという奇跡を信じるんだ……。
大丈夫、俺なら出来る。
俺は早速、その劇物を一回噛んだ。
「ブハァッ!?」
もはや鼻にまで来る圧倒的な酸っぱさ、梅干しとレモンを10個口に入れてもこうはならねぇと断言出来る。
その圧倒的な酸っぱさが舌を刺激する事で体全体が『酸味の神様』とも呼べるその物体を拒絶した。
そうして、またもや吹き出してしまった俺に、おっちゃんが顔を覗かせてくる。
「兄ちゃん……まだやるかい?」
「……ギブアップで……。」
そもそも俺こんな物の為にここまで来た訳じゃねぇんだった。
何熱くなってたんだよ、そもそも俺何やってんだよ。
一回冷静にはなったが、それでも諦め切れず、その劇物を10個程購入し、後ほど挑戦する事にした。




