第1話:転生
「いててて……。」
俺は突然木に囲まれた場所に落ちてきた。
俺の頭の上にあった白い切れ目の様な物が消えていった。恐らくはあそこからここに出されたのだろう。
しかしまぁ、そんな事はどうでもいい。
問題はここがどこかまるで分からない事だ。森の中だと言うのは分かるのだが、それしか分からない。
「くそ……どうするか。」
俺は右も左も分からず、とりあえず周囲を見渡していた。そんな俺をバサバサと揺れる青い木が笑っている様な気がした。
「なんつーか、不気味な場所だな。幽霊でも出てくるんじゃないか……?」
と言っても、害のない幽霊ならまだいい。
ゾンビとか出た日には最悪としか言いようがない。まぁ、あの球体は危険じゃないと言っていたから大丈夫だとは思うが、流石にこんな場所だと不安になってくる。
「……つってもな、考えてたってしょうがねぇ。とりあえず歩いてみるか……。」
今は暗いし、朝になるまで待つのも有りかと思ったが、そんな悠長な事をしている暇はないな。
というか正直、早く食料を見つけて安心したい。
そう思って歩き出した俺だが、一瞬で何かに躓いてしまった。
「いてぇ! な、何だこれ?」
俺が躓いた物は水筒を更に細くした様な木で出来た茶色い入れ物だった。
もしかしてこの中に水でも入ってるんだろうか? と思って開けてみたが、中から出てきたのは何かの紙だった。
それは全体的に茶色っぽく、しかし真ん中の辺りに黒い部分もチラホラとあった。
そして、黒い部分のある場所に1つだけ、ちっちゃい青い点が付いていた。
「何だこの点は?」
明らかこの点だけ浮いている。この地図は全体的に地味な色をしているのに、この点だけ鮮やかな青色で、印象的な部分だ。
「うーん……ちょっと分かんねぇな……。」
何も判断材料が無い今の状態じゃこれが何なのか全く分からない。
ただ、少しゲームで見た事がある様な……。
「待てよ……。」
1つの仮説が浮かんだ俺は、その紙を握りしめて歩いた。
そして、しばらく歩いた後に、再び紙を見た。
「やっぱりか……これは地図なんだな!」
先程の青い点が線になっている。恐らく俺が訪れた場所が見えるようになるタイプの地図なんだろう。
ゲームでそう言うのを見た事があるが、実際自分が手にする事になるとは思っていなかった。
そして、その事が分かったと同時に、理解した事もあった。
「この世界には、何か特殊な能力があるみたいだ……。」
この地図はどっからどう見てもただの紙。
それだと言うのにこういう機能が備わっているという事は、何かそういう特殊な魔法が掛けられているに違いない。
「よし……! そうなると俺も何か魔法を使えるんじゃないか!? ファイア!」
当然の様に何も出なかった。
というか言った後に気づいたが、出られたらそれはそれで困ってた。こんな森で炎を放ったら大惨事どころの話じゃない。
「興奮し過ぎるのは良くないな……。落ち着いて状況を整理しよう。」
とりあえず魔法の様な物があるのは間違いないだろうが、今は使えない。
しかしまぁ、この地図が使えるのならそれで充分だろう。地図を使って森の外に出るとしよう。
「多分、黒っぽい部分が森で、茶色っぽい部分が普通の地面だよな。」
そう考えるとこの森随分と丸っこい形をしているんだな。あと……俺の居る場所は森の外側のようだ。これならば、案外早く外に出られるかもしれない。
そう考えていた時、近くでガサガサッと草が揺れるような物音がした。
「っ……!」
俺は咄嗟に木の陰に隠れ、物音の主がモンスターとかでは無い事を祈った。
しかし、そんな俺の希望は、圧倒的に悪い意味で裏切られる事になった。
「ウホッ!」
少し時間が経ってから、例の動物が現れた。
ミスとかいうもので、突然現れ、前世の俺を殺した黒い奴。間違いなくあいつはあのゴリラだ……。
俺は咄嗟に逃げ出した。もし今の俺が凄い力を持っていたとしてもゴリラとだけは戦いたくない。
何せこっちは前世で殺されている、そう安々と戦える訳がない。
しかし、奴はそんな俺を、全速力で追ってきた。まるで車と一般人の様な圧倒的な速度の差に俺はどんどん追い詰められた。
「く、くそっ! 魔法でも何でもいい、何か無いのか!? サンダー、アイス、プラズマ、ブリザード!」
俺はとにかく思いつく限りの魔法を叫んだ。
しかし何も出なかった。出る訳もなかった。
『【チェーン】』
そう言って手から光を放ち、魔法を発動させたのは……何とゴリラだった。
光から現れた金色の鎖により、瞬く間に俺の体は縛られた。
「く、くそっ!」
最悪だ。まさかゴリラが魔法を使える世界線だとは思っていなかった……。
そしてゴリラがゆっくりと俺に近づいてくる。
体の芯から震え上がってくる。俺は鎖によって動くことが出来ず、ただ歯をガチガチと鳴らせ、その場に震えていた。
そんな俺に、ゴリラは突然抱き着いてきた。
『いやーん! いい男!』
地の底まで届きそうな低音ボイスを響かせながら、ゴリラは俺の頬にキスをしてきた。
俺の頭は完全にフリーズした。




