第9話:戦い
「よし! 今んとこ順調だな!」
ボートに揺られ続けて約2時間程。
地図を見る限り、あと30分程度で向こう岸に着くはずだ。
それと、木で書こうと思ってた手紙も、直前になって紙魔法で書く事が出来たし、まぁ上々ってところだろう。
つっても……あぁいうのって、後々変な内容になってないか気になるんだよな……。何か……手紙がポエムになってねぇかな、そもそも内容的にゴリラ達を悪い気分にさせてはねぇよな……?
何というか、前世でもう少し手紙について学んどきゃ良かったな……。
そんな事を考えている時、ボートに何かが突っ込んで来た。
「キシャァァッ!」
上部分が真っ黒の魚だった。先端が針の様に尖ってて、ちょっと異質な見た目をしているが、こいつはシャチかも知れねぇ。俺の知ってるシャチと、所々似通った部分がある。
「あん?」
その時、シャチが随分と妙な動きをした。まるで、何かのシールドに弾かれてしまった様に、一気に後ろにさがった。
勿論俺はシールドなんか張った覚えはないし、そもそもそんな魔法は使えない。
どういう事だと考えていると、再びシャチが突っ込んできた。
「キシャァァッ!」
1度弾かれたというのにまたもやシールドの様な物に突進している。少し不思議な状況ではあるが、このままやらせておく訳にはいかねぇ……。
「くらえ! 【アイススピアー】!」
氷の槍がシャチの方へと飛んでいく、奴は意外にも動きが俊敏で、それは容易く躱されてしまった。
そして、重要な事がもう1つ、このシールド……どうやら、俺の方から外に攻撃する事は出来るみたいだ。
そうなると、誰かが俺を守るために設置したとしか思えない。そして、そんな事が出来る種族は、俺はゴリラしか知らない。
「なんてこった……。」
こんな物を張ってくれているという事は、どうやらゴリラ達にはボートを作っている事を知られていたらしい。
……それならせめて、しっかりと頼れば良かった。秘密裏に手伝うという事はゴリラ達にとってはきつい事だっただろうに……。
俺がそんな事を考えていると、何とシールドにヒビが入り始めた。
「なっ!?」
このシャチは相当攻撃力があるみたいだ。こうなればもっと早く対処するべきだったか……考え事をしてる内に、ついつい放っといちまった。
「キシャァァァッ!」
ついにシャチの一撃がシールドを貫いた。
頭の先端部分がシールドを貫通し、俺の目の前まで来てしまっている。
しかし、こっちはそれを狙っていた。
「おらよっ!」
その尖った頭の部分を手でガシッと掴んだ。
シャチは驚いた様子で暴れ回るがその抵抗は全てシールドに弾かれている。
「残念だったな、あんたもこれで終わりだぜ。【アイススピアー】!」
氷の槍がシャチの体を貫いた。
その事に一先ず安心したその時……。
周りに10は軽く越える程、シャチが集まっている事に気付いた。
「まじかよ……。」
そして、どうやらシャチの群れは逃してもくれないらしい。俺の周りを囲んで一斉に飛んできやがった。
「くそったれ……! 【ウッドシールド】!」
元々付いていたシールドは一瞬で崩壊させられた。こうなると新たにシールドを作らねぇと穴だらけにされちまう。
俺は木を周りに発生させ、作戦が成功する様に祈った。
「キシャァァァッ!」
3体のシャチがシールドをぶち破り、俺の方に飛んできた。
「よく来てくれたなッ! ぶっ潰してやるぜ! 【アイススピアー】!」
俺はその3体が来る事を分かっていた。
そして事前に準備をしていた魔法をぶっ放し、3体を一気に氷の槍で串刺しにした。
「ギシャァッ!?」
シャチはそれによって一瞬で絶命してくれた。
「よっしゃ!」
って事はあと居るのは7体程か!
でも……あとの7体は一向に木を突き破って来ねぇ。
「キシィッ!」
外を見てみると、シャチは警戒し、突っ込むのをやめたらしい。
「チッ、もう気付いたのか……。」
木の盾を展開する際に、場所によって硬さを変えている事が知られたみたいだ。
そうする事で、1度に相手するシャチを、3匹程度に抑えながら戦う事が出来たって言うのに……。
「どうすっか……。」
持久戦に持ち込まれるのはキツイな……。
常に飛んでくるのを警戒しなきゃならねぇ、一瞬たりとも気の抜けねぇ時間になっちまう……。
「キシャァッ!」
シャチの声が響くと同時に周りを見渡した。
しかし、何も起こらなかった。どうやら俺はこいつらに馬鹿にされているらしい……。
「くそったれ……!」
このままシャチの声が聞こえただけで反応しちまうのは体力を奪われるし、心情的にも良くねぇ。
やりたくはねぇ事だが……あれをするしかねぇな。
「よし……【アイス】!」
俺は一気に木の盾を消滅させ、海を凍らせた。
「ギシィッ!?」
シャチは氷の下から驚いた様な声をあげている。シャチ自体が凍ってくれてねぇ所を見ると、やはり俺は海の表面ぐらいしか凍らせれねぇみたいだ。
「となると、道は1つしかねぇな……。行くぜぇッッ!」
俺は気合を入れながら海の氷の上を走った。
ちょっと遠いが、向こう岸までは既に見えてる。
こうなれば、後は進むしかねぇ!
「来るんじゃねぇシャチィッ!」
俺は海を凍らせると同時に走っている。
当然の事ながら、シャチはそれを見逃してはくれなかったらしい。
氷の下にシャチの影が7体見えている。
「ギシャァァッ!」
氷を割りながらシャチがこっちに突っ込んでくる。
「くそったれ! こっちはただでさえ転けそうだってんのに、更にバランスが悪くなる様な事するんじゃねぇ!」
何とかフェイントを混ぜたりしながら、向こう岸まで走っていた時、アクシデントが起こった。
「魔力が……ねぇ……。」
向こう岸まであと少しだっつうのに魔力が切れちまった。
こうなりゃ届かねぇんじゃねぇかと言う疑心は捨てて、跳ぶしかねぇ!
「悪い! そこの人……受け止めてくれぇっ!」
俺は向こう岸に居た金髪の人に向かって無茶振りを言いながら、高くジャンプをした。
「キシャァァッ!」
そして跳んでいる最中に、シャチが俺をタックルでふっ飛ばした。
「がぁッ!」
空中でバランスを崩した俺を、そこに居た人が受け止めてくれた。
「わ、悪い……助かった……。」
それを言ったのを最後に、俺は気を失った。




