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絶えることの無い家

作者: 猫鷹

学校の1学期を終えて、中学生最後の夏休みへと入ったある日、母方の祖父から用事があるからと呼ばれた。


呼ばれたのは両親だけである。田舎にある祖父の家に自分がいても退屈するだけだろうと、1人家で留守番しておく事を両親に伝えたのだが、もうすぐ高校生になるとはいえ、子供を1人で家に残すわけには行かないと言われ、結局自分の意見は叶う事なく家族全員で祖父の家へと向かうことになった。


車に乗って、高速道路を利用しながら片道数時間の長い距離。着いたその日は、家にいる祖父と祖母に「良く来てくれた」ともてなさた。

祖父の家は、江戸時代に建てられた物だ。一回建てではあるけど、屋根裏も部屋として使われている構造だ。

時代が進むにつれて細々としたところは、改築、改装が施されてはいるが、軸となる家の柱はまるで石で出来ているのでは思わせるほどに、硬く丈夫な木が使われており、見るだけで年季とその家の威厳が伝わってくるようである。


代々、農業一本で生計を建てているが、所有する土地は広く、あまり目立つことはないが、そこそこなお金持ちであると前に母から聞かされていた。


それが分かるのが祖父の家のお風呂の広さと、祖母が作ってくれた料理の豪華さだ。都会ではあまり食べる機会のない食事が出され、その美味しさに舌鼓を打ち。気分はどこかの旅館に泊まりに来たようだ。


これは1人で家に残らず両親について行ったのは正解だったかも…と思いながらその晩は、道中の行き来に疲れたのかすぐに床の間に行くと深い眠りについた。


ーーーー


次の日の朝早く、祖父と両親は、用事ごとを済ませに家を出て行った。祖父の家に残されたのは祖母と自分の2人だけである。


最初はテレビを見ながら祖母と会話を楽しんでいたが、時計がお昼の時間に近づいてくると、昼食の準備をすると祖母はいいながら、台所へと向かっていった。


そうなってくると当然ではあるけど、特に用事ごとが無い自分だけが、部屋に1人ポツンと残されてしまう。

普段からテレビはあまり見る習慣のない。


正直、暇で仕方ない。


家の周りにはコンビニの一つも置いてないほどの田舎である。

今更、外で遊んで喜ぶような年齢でもない自分は、どう暇を潰そうかと考えた末、家の奥にある、本などが置かれてある、小さな縁側で、スマートフォンに入れたゲームアプリでもしようかと、部屋を出た。



外の天気は良く、窓から差し込む陽の光と、扇風機の風、単調なスマートフォンのゲームにいつしか睡魔に襲われ、気づけばうたた寝をしてしまった。


ーーー






ーー




「もーーーーーいーーーーかーーー?」


何処からか聞こえてきた声に目を覚ます。


どうやらいつの間にか眠っていたらしい。

まだ霞がかかっているかのようなぼ〜っとする頭で、寝る前に何をしていたか思い出そうとしてみる。



確か…


僕は…


「もぉーいいーかぁーい?」


思い出そうとした瞬間またもや何処かで声が聞こえる。


…そうだ!僕は隠れんぼをしてる途中だった!


慌てて辺りを見回し隠れる場所を探す。本しか置いていないこの部屋に隠れるのは当然無理だ、僕は慌てて縁側から離れることにした。



祖父の家の中に詳しくない僕は結局、昨日自分が寝ていた部屋の布団を入れる押し入れに隠れることにした。


「もぉ〜いい〜かぁ〜い?」


隠れたと同時に、先程聞こえた声が尋ねてきた。


「もぉーいいよー!」


しっかり隠れた僕は、聞こえた声に答えるようにその返事に返した。



……





あれ?俺は、誰と隠れんぼしてるんだ?


不意に蘇ってきた記憶


寝る前は確か…1人でゲームをしてたは…。




カサ


恐らく足音だろうと思う押し入れの外から聞こえてくる音に息を飲む。


カサ…カサ…


朝から家の中にいたのは祖母と俺の2人だけのはずなのに。

さっきまで聞こえていた、男とも女とも分からない声を思い出すと、恐怖を伝えてくるように背中からゾクゾクとした寒気と冷や汗がふきあがる。


カサカサ…カサカサ…


近づいてきている?


見えない筈なのに、押し入れの外の様子がナニかの足音だけで脳裏伝えられてくる。

あまりの恐怖に手足の震えが止まらない。


(気付かないでくれ。)


そんな思いが少しでもその恐怖から距離を取ろうと押し入れの奥へとゆっくり後退する。


ミシッ…


(しまった!)


カサ…


床板の音が鳴ったと同時にナニかの足音が気づいたかのように止まる。







カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ!



(ヒィッ)


口から溢れようとする悲鳴を何とか手で抑え、呼吸を止める。




……



開けないでくれと念じながら押し入れの襖を睨みつけた。


カサ…


カサカサ…


カサカサカサカサカサカサ…


思いが通じたのだろうか…。バレることはなく足音は襖から離れていく音が聞こえて行った。


「…はぁ〜」


バレなかった事に安堵して、ゆっくり止めていた呼吸を整える。まだ恐怖で震えている手足も少しずつ落ち着いている気がした。


ーーーこの家には化け物がいる。


姿形は、見ていないけど直感として分かった。


おそらく元からこの家に住んでるということはないはず。もし昔からいるのなら、昨日の晩に祖母や祖父、もしくは母から気をつけるようにと言われるはずだから…。


寝てる間に家の中に入ってきたのかも知れない。

恐怖を少しでも薄めるために考えをまとめる。


(そうだ!それなら祖母が危険かも知れない。)


台所に向かった祖母を思い出す。さっきまでテレビを一緒に見ながら談笑していた優しい祖母の顔。

俺は助けなければという思いに駆られて押し入れから出る事を決意した。


そっと開ける襖の隙間から外の様子を伺いながら慎重に出て行く。


(よし…大丈b…)


しゅるしゅる


(えっ…?)


化け物の姿がない事に、安堵して押し入れから出た瞬間紐状の何かが身体に纏わりついてきた。

唯一動かせる頭を上に向ける。


「ヒィッ!!」


声にならない悲鳴が上がった。


そこには3メートルほどの大きさの蜘蛛が天井に引っ付いていたのだ。

蜘蛛の頭にはお面のような人間の顔が無数に張りつけられており、その仮面が一斉に俺をみる同時に


「みぃ〜つけたぁ〜!」


カラカラと笑う顔達。

その不気味さに恐怖の悲鳴すらあげられない。


蜘蛛は飛び上がって俺の目の前に着地する。


ガタガタと震える俺を楽しむように眺めると自身に張り付いている人間の顔を、前脚で綺麗に剥がしていく。


蜘蛛は剥がし終えた顔を裏に向け空いた手を使い、自分の吐いた蜘蛛の糸を塗りたくっていくと…スーッと俺の顔に貼り付けようと顔を近づけていく。


「や…やめ…ヒィッー!!」


逃れようと身体動かすも無駄だと言わんばかりに蜘蛛は俺の顔に人間の顔を貼り付けていく。



そこで恐怖ピークを達したのか俺の意識は真っ黒に染まっていった…。





ーーーーーー


あれから数年たって当時の事を思い出すと今でも恐怖に駆られてしまう。


あの後の事を説明すると、昼食が出来上がったと伝えにきた『母』が高熱を出して泡を吹いて床に倒れた自分を見つけて、慌てて救急車を呼んだ。

用事で出掛けていた『父』と『姉』そして『姉の旦那さん』も連絡を受けてすぐに帰ってきたとのこと。


救急車に運ばれた後、意識を回復した僕は、心配で側で付き添ってくれていた『父』に、気絶した時の話をした。


『父』は、うちには昔から我が家を護る蜘蛛の神様いると教えてくれた。先祖が何かしらの約束事をしてから、家は養子を取る事もなく代々血を絶やす事なく無事に引き継がれているとのこと。


お前はもしかしたら、その神様にお会いしたのだろう。ただ高熱を出していたから、怖い悪夢を見たように感じたのかも知れない。

だから、お前は心配する事はないんだよ。


そう説明しながら僕の頭を優しく撫でる『父』の皺々の手を今でも覚えている。




あと、その高熱を出したその日、もう一つの事件が起こっていた。前の晩に『姉』と『旦那さん』が連れてきた僕と同い年の子供が突然行方不明になっていた。


警察や地域に住む消防団なども駆けつけていたらしい。

僕が退院してすぐにその事を聞かされた。勿論、あの日は、『僕』と『その子』と『母』の3人で留守番をしていたはず、お前は何か知らないか?とも聞かれたが、僕も分からないとしか答えられなかった…。

なぜならその子供が来ていた事すら、僕には記憶がないのだから…。





いや…違う…。


その子供は、『◾️』出会って、僕に聞いてきた『姉』は本当は『◾️』なんだ。


なぜか心の片隅に、浮かぶ真実を口にしようとすると、その言葉は何かに邪魔をされるように口を固く結ばせる。


まるで僕の顔に『お面』が貼り付けられ『蜘蛛の糸』が何も言わせないとしてくるようだ。


日が経つに連れて、口に出させてくれない真実も霞がかけられていくように忘れ去られていく。





この後も家は絶える事はない。

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