表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ただいま、幼馴染の告白シーンを覗き見しています ~わたしの方が好きなので断ってほしいけれど、『他に好きな人がいる』って断り方はどういうことなのだろう~

作者: 笹 塔五郎


 校舎裏――学生同士の告白をする場所として、マンガなんかではよく見るところ。

 わたしは今、茂みに隠れてそんな場所にいた。

 隠れている理由は至極簡単で、ここでこれから男女の告白が行われようとしている。

 わたしは、それを見に来た。

 ……野次馬と言われると、何も間違っていないし否定もできない。

 けれど、やっぱり気になってしまう。

 だって、この告白に登場する人物は――わたしの幼馴染なのだから。

 茂みから少し顔を出して、様子を確認する。

 そこにいるのは二人の男女。


「初めて見た時から、君が好きだった。俺と付き合ってくれないか?」


 男の方から告白をする。

 今の時代、スマホで簡単に告白するみたいな話も聞くから、呼び出してしっかりするというのは逆にレアケースなのだろうか。

 その言葉に、わたしは思わず息を飲む。

 ちらりと、告白をされた少女の方に視線を送る。――告白を受けるな、と心の中で思ってしまう。


「ありがとう。でも、ごめんね――私、他に好きな人がいるから」


 告白は不発に終わった。

 わたしは心の中で安堵すると共に、その場に蹲って、考え事をする。……他に好きな人って、誰だろう。


「茂みに隠れて何をしているの? ふゆ」

「わ、ひゃ!?」


 不意に声を掛けられて、思わす声が裏返る。

 ちらりと、振り返ると――そこにはわたしの『幼馴染』の姿があった。

 長い黒髪。凛々しく整った顔立ちをしていて、男性だろうと女性だろうと、すれ違った人は彼女のことを見る。

 それくらいの美少女で、きっとそれはわたし基準ではなく全世界共通なのだろう。

 幼稚園の頃からずっと一緒で、小学校は六年間同じクラスだった。

 中学校では、二年の時は違うクラスだったけれど、休み時間はずっと一緒。

 高校になって、また同じクラス。

 放課後になれば一緒に買い物をしたり、休みの日はお互いの家に行って遊んだり。

 決まったことをするわけではないけれど、当たり前のように一緒にいる存在。

 そんな彼女――皐月カナエのことを、わたしはいつから好きになったのだろう。


「し、知ってたんだ」

「もちろん、分かるよ。ぴょこぴょこと、栗色の髪がよく見えていたから。人が告白受けているところを覗くなんて、悪趣味だよ?」

「べ、別に……カナエじゃなかったら見てない」

「何よ、それ。親目線?」

「友達目線っ! 相手の男だって、どういう人か分からないでしょ」

「んー、普通にいい人らしいわ」

「え、何で知ってるの?」

「告白をしてくる相手のことくらい、少しは調べるわ。まあ、あくまでクラスメートとの交友関係レベルでしかないけれど。そういうあなたこそ、私が告白を受ける時間まで調べてここで待機していたの? どうりで、すぐに教室を出たと思ったわ。いつもは一緒に帰ろう! って、すぐに言ってくる癖に」

「うっ」


 ぐうの音も出ない。……わたしはきっと、面倒くさい女だ。

 カナエが他の子と仲良くしていると、何だか嫌な気持ちになる。

 別に、友達と仲良くするのなんて当たり前のことだし、ずっと前からそうだった。

 けれど、中学生になったあたりから……スキンシップが少し増えた、とでも言えばいいのだろうか。

 やはり、美少女であるカナエは男女問わずに人気がある。

 自然と彼女の周りには人が集まって、わたしはそんな人達の中にいる一人でしかないのかもしれない――そんな風に思うのが嫌で、けれどそんな気持ちを抱く自分も嫌だった。

 それでも、嫌いな自分を押しのけてでも――わたしは、カナエを独占したいという気持ちを優先してしまう。……きっと、そんなことを知られたら、カナエはわたしのことを軽蔑するかもしれない。


「……ふふっ、冗談よ。私のこと、心配してくれているんでしょう?」

「……うん」


 笑顔を浮かべてフォローしてくれるカナエに、わたしは静かに頷いた。

 その言葉に甘えて、わたしは嘘を吐いている。

 カナエのことを心配しているのは本当だけれど、気持ちはそれだけではない。

 男だろうと、女だろうと関係ない――カナエが、誰かにとられるのが嫌だから。

 わたしの幼馴染のカナエは、わたしだけのものであってほしいから。

 わたしは彼女が好きなのに――けれど、その関係が壊れるのが嫌で、告白ができない。

『私達、女の子同士だよ?』って、言われたらどうすればいいのかって。

 それに、カナエはすごく気になることも言っていた。


「ねえ」

「ん? なぁに?」


 わたしの隣にしゃがみ込んで、まるで小さい子供に話しかけてくるように覗いてくる。

 顔が近くて、思わず顔を逸らしそうになるが、けれどわたしは真っ直ぐ彼女を見て聞いた。


「好きな人って、誰?」

「あー、そこもしっかり聞こえていたのね」

「当たり前じゃん! ずっと一緒にいたのに、そんな人がいる素振りなんてなかったし……」

「好きな人の話なんて、お互いにしないでしょう? それとも、ヤキモチでも妬いているのかしら」

「は、はあ? そんなんじゃないしっ!」


 思わず大きな声で否定してしまい、ハッとして口を押さえる。

 そんなわたしを見て、カナエはくすりと笑みを浮かべた。


「慌てすぎでしょう」

「急に変なこと言うからでしょ。それより、教えてよ。好きな人」

「んー、どうしようかしら?」


 今度はいたずらっぽい笑みを浮かべて、カナエはわたしのことを見てくる。

 少し苛立ちを覚えた。でも、こんなことを聞こうとするわたしの方が、面倒なのかもしれない。


「教えてくれないなら、いい」

「あら、怒ったの?」

「怒ってない!」

「怒っているじゃない。冗談よ、さっきの告白での『好きな人』なら、いないわ」

「……いない?」

「ええ、建前よ、建前。好きな人がいるって言えば、相手も諦めがつくでしょう」

「……そうなんだ」


 良かった、とまた思って、けれど『いない』という事実にまたショックを受ける。

 わたしが一方的にカナエのことが好きで、カナエはわたしのことが、『好きではない』のだと。

 友達としては、『好き』と言ってくれるかもしれない。

 けれど、わたしは――カナエのことが友達以上に好きだから。


「そう言うあなたは、好きな人はいるの?」

「わ、わたし? わたしは――わたしも、いないよ」

「……そう。それじゃあ、私達は一緒ね」


 何やら含みのある言い方をして、カナエが立ち上がる。


「さ、今日も一緒に帰りましょう。クレープでも食べて行かない?」

「……最近甘い物食べて体重増えたからいい」

「期間限定品が今日かららしいわ」

「ぐっ、じゃ、じゃあ半分!」

「私は一つ食べたいから」

「いいじゃん! お互いに幸せを分け合って」

「同じ幸せを共有するなら個人で買った方がいいわ」

「ケチ!」

「ケチはあなたの方だと思うけれど」


 そんないつもの雰囲気に戻って、けれどわたしは心の中で常に考えている。

 ――今、告白をしたら、幼馴染でなくて、恋人として一緒にいられたのかもしれない。

 けれど、告白したら、幼馴染ですらいられなくなるのかもしれない。

 だから、わたしは今のままでいい。

 この関係が続くのなら、わたしは告白なんてしなくていい。


面倒くさい思考の主人公で書いてみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] くそっ…じれってーな おれちょっとやらしい雰囲気にしてきます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ