表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一周回っても世界は美しいみたいです(諦め)  作者: 椎木唯
序章 婚約破棄されまして
8/28

夢の中のお話

多分消すかもしれません。未定です。

 夢を見ていた。…いや、頬を抓っても目が冷めない辺り夢では無いのか?

 そんな現状、今見える景色がとても理解ができる光景じゃないので早く夢なら覚めるように。


 願いを込めて手に持った錫杖をブンブンと振り回す。そんな光景は欲しいモノを買ってもらえない、駄々をこねる子供のようだった。手に持つ凶器でそんな夢物語はすぐに覚めるが。


 そんなクレアの奇行が目立ち始めた頃、大量虐殺の跡地から這い出るように、呻き声が聞こえてきた。


 その声を合図として三人の人影がモゾモゾと動いている。


「ひぃ!? ぞ、ゾンビ!?」


 悪霊退散、と教会に身を置くクレアは逃げ出したくなる気持ちを抑え、浄化の心を持って震える足を気合いで封じ、錫杖を全身を赤黒く染めた人物に向ける。そして投げ付ける。


「死ねぇええぇぇぇぇええ!!! あ、死んでるか」


 全身の筋肉をバネのようにして投擲した錫杖は綺麗な平行線を描き、減速する事なく向かっていく。


 クラクラ、と酒を飲みすぎたおっさんか。それとも脳震盪でかフラついている足取りか。


 そんな帰りを心配せざる終えない足取りだった人物だったが目の前に迫る凶器を本能的に感じ取ったのか、大男は大きく目を開き、背中に手をやる。その場所には背負っている大剣があった。


 それで弾き返そうと大振りに振るう。

 スカッ、と気持ちの良い空振を見せ、右肩に深々と刺さった。よく見てみると男の持つ大剣は剣と形容し難い、柄だけの姿だった。


「いってぇ…つかよ〜、神官サマ酷ぇよなぁ。こんなに満身創痍で戦わせときながらゾンビ呼ばわりとか俺ちゃん泣いちゃうぜ?」


 肩に刺さった錫杖を勢い良く引っこ抜き、手渡す。

 穴が空いた傷口からは景気良く血が吹き出るがそんな事はお構いなしだった。


 大男の言う通り、この惨劇はクレア主導で行われたのだ。まあ、主犯では無いが。


「でも実際見てみるとゾンビより酷い見た目だけどね…まあ、でも完治できる怪我だし問題ないでしょ? 痛みに快感を覚える人でしょ? 寧ろ感謝して欲しいところだけど」


「それどこ情報だよ…痛みは痛みでも命の危険を感じる痛みに興奮するほど特殊な性癖は持ち合わせてねぇよ…」


 受け取ったクレアは錫杖を傷口に近づけ、魔力を回復の術式へと変換させる。数秒と待たずに逆再生かのように空いた穴は塞がり、所々に見える細かな傷も綺麗さっぱりに塞がっていた。


 大男は治った肩をブンブンと回し、完治したのを確認すると残る二人を同様に治そうと肩に背負って戻ってくる。


 一人は腹にでかい穴が開き、内臓がこんにちはしている。もう一人は下半身がなく、こちらは内臓がさようならしている。まさにゾンビとも取れる姿だった。


 それに対し、表情を変えず、傷口に向かって錫杖を伸ばす。


「モツ煮も…良いかもね」


「おぉう、マジかよ…って事は何処の店か? シャークん所か? それともメリル爺の所か? でも、ジジイの鍋汚ねぇんだよな。絶対洗ってないよな」


 再生されてく傷口を物珍しそうにじっくりと眺めながら今日の夜ご飯を取る店を考える。食器を考えるとシャークの店一択なのだがあそこはたまに亜人の肉を出す。…なら、まだ鍋が汚い方が幾分かマシだろう。


 モツなんて店で食うもんじゃないのだが美味しいモツは素人ではゲッツ出来ないのだ。

 食べるために我が儘なんて言ってられない。なら、食うなって話になるのだが。


 過去に何度か。

 数えれる範疇でない回復術におっかなびっくりしながらも完治した二人を叩き起こすべく、適当に顔面を殴る。片方はフルチンなのでついでにそこら辺の死体から服を剥ぎ、適当に被せる。


「素チン過ぎて泣けてくるな…」


「…まだ、成長途中なので」


 血に濡れた髪をうざったらしそうにかき上げ、恥ずかしそうに「経過観察って奴ですよ」と、呟きながら布で下部を隠しながらズボンを剥ぎ、着る。流石にパンツは履く気になれないようだった。


 数秒考えた後、周りを見渡し呟く


「…また、僕の顔殴りましたね?」


「え、そこ? まあ、殴ったちゃあ殴ったが…情けねぇ姿を神官サマに見せたくねぇだろ? 感謝しろよな」


「殴られるだけで無く殴る事にも喜びを覚える…変態、此処に極まりって感じですね。よっ、パーフェクト変態」


「あぁ!? な、なんだと! お前、俺の性癖に難癖つけるつもりか?」


 喧嘩なら受けてやる脱げ、とそう言う大男を無視し、クレアの方へ近寄る。近寄る最中に否定はしないのか、と少し恐怖を覚える。


「お力添え出来ず、申し訳ありません」


「肉壁にすらならなかったもんなァ!?」


 大口を開けて笑う大男に向け落ちていた剣を投げ付ける。ものの見事に腹に突き刺さり、文句の代わりに血反吐が出る。

 そんな瀕死状態を見て見ぬふりか、それとも眼中に無いのか反応を特に見せないクレア。


 頭を下げて謝る自分より一つ、年上の少年に優しく声を掛ける。


「ほら、反省は後でもできるでしょ? それともその……頭をカカト落としでかち割ってやろうかぁ!!??」


 言っていてどこか湧き立つ感情に流される、バレリーナのようにピシッ、と足を真上にあげる。


「やべっ、ちょ、神官サマ乱心じゃねぇか!! テメェのせいだからなっ!?」


 振り下ろす前に、大男ーーゲリルーーが押さえ込み、事なきを得る。


 はっ、私は今、何を…?


 眼前に広がるのは怯えた表情を見せるフェリイズと全身に絡み付くように抱き付いているゲリルの姿だった。まさか…強姦?

 一歩間違えれば痴漢冤罪に似た何かを浴びせそうになるが記憶を思い起こし、悟る。


「ごめん。もう、落ち着いたから」


 抱きついているゲリルに肩を叩き、離れるように言う。

 だが、幾ら待っても離れる気配がなかった。


「すぅ…神官サマって結構良い匂いすんだな。俺、目覚めちまいそうだ」


 肩から顔を出し、綺麗な笑顔で言ってのける。サブイボが全開で立った。

 ここで散らしてたまるか、と肩を掴んで投げ飛ばそうと力を入れるが…体重差か。思うように力が入らなかった。


 意識外からの女としての本能が逆らってはいけない。コイツはヤベェ変態だ、と言っていた。

 そんな、動けないクレアを感じてかフェリイズは思いっ切り踏み込んでゲリルの顔面を剣で斬った。


「悪速斬っ!! 変態だと思ってましたがここまで変態だとは…微かに残っていた僕の尊敬の心はここで貴方と一緒に斬りますッ」


 噴水のように鮮やかな血飛沫が上るのを全身で浴び、感じながら思いついたように治癒術を掛ける。


「す、すまねぇ…乱心って奴だ…て、ごふぉっ」


 ついでに顔面をサッカーボールの要領で蹴飛ばす。変な音が聞こえたがここはスルーだ。


 終わったのに内ゲバを始めてどうするの…。



 その後、周囲の生存者の確認で見て回る。


 数分か。

 生きているものがいない、と確認が取れたことで地面で野垂れ苦しんでいるゲリル近付き、勢い良く曲がっている顔面を適当に元の位置に戻す。これに関しては特に意味はない。嫌がらせに近いかな?


 同じように錫杖を向け、回復術を掛ける。目に見えていた傷跡も数秒が消え、その十秒後には元気に立ち上がっていた。


「止めてくれた事はありがたいけど次同じ事やったら…そのイチモツを永遠に貴方に食べさせるよ? フェリイズはまだ子供なんだし、そこら辺の配慮も…ねぇ?」


「…ああ。つか、神官サマも…」


 子供じゃねぇか。


 そう言いかけ、止める。祝詞を捧げていたからだ。

 情緒不安定だな。そんな言葉は胸の内に秘める。ゲリル自身、簡単に命を散らしたく無いからだ。


「(最近、死んでから蘇生の流れが流行っているからな……自分で言ってて意味がわかんネェな。これ)」


 モノの見事に治っている首をコキリ、と軽快に鳴らしクレアの方に向かう。


 日数で言えば…一ヶ月程か。共に行動していた仲間達だった。そんな奴は今ではツッコミも、ボケも何も言わぬ抜け殻になっていた。


「こんなのにも耐えられねぇとか…どうして先行隊に志願したんだ? まあ、こいつだけじゃ無いが…」


 そう言って地面を覆い尽くす肉片に目を向ける。


 赤と黒に覆われた地面はかつては人であった亡骸だ。

 この内の何処までが仲間の亡骸で、残りが敵のモノなのか。既に判断も付かない状況だった。




 神官であったクレアは王家顔負けの魔力保有量だった。


 王家だけが使える神術として魔法が挙げられるがそれがクレアに使えるのだ。既に怪しい匂いプンプンなのだがそれを殺処分ではなく、利用しようと考えたのだ。その結果の教会への入信だ。


 持ち前の魔力量でメキメキと魔法の腕を伸ばしていたクレアだったのだが恵まれていたのがもう一つあった。それが回復術だった。

 傷を癒す魔法を使えるクレアはもう、それはそれは大層人気者になった。


 お腹が痛いとクレアを呼び、歯が痛むとクレアを呼び、切り傷が痛むとクレアを呼び…最終的には部位の再生、内臓の修復。回復術の範囲を超えた術をつかえるまで成長した。


 流れるように戦場へ向かう事になった。


 それで現場に至る。


 その特質性から戦場にクレアが出ると回復術を使い、兵士を不死身へと変えてしまう。例え、死ぬほどの傷を負ったとしてもすぐに修復され、また、戦場へ駆り出される。


 噂が広まるのに時間はかからなかった。

 若すぎるその容姿で神官様と、一応の敬称は付けるが裏では悪魔やら死神やら。その何度でも復活される術に、痛むそぶりのないその心に、皆恐怖で恐れ慄いていた。


 その特質性で死ぬ事は無い。


 戦場に人員が補充されなくなった約一ヶ月後、クレアの回復術でも回復できない人が現れた。腕を失い、頭部が半分ほど無く、下半身からは臓器が溢れ出していた。だがそんな傷も数秒のうちに修復され、完治していた。完治していたのだが起きる気配がなかったのだ。


 傷跡も綺麗になくなり、修復された部位も正常に動く筈なのに…原因は表情を見て直ぐに分かった。

 これ以上、死の瀬戸際から引き戻されるのに疲れた。そんなもう、行きたく無いと絶望感が滲み出している狂気にあふれた表情をしていた。


 ゾンビのような集団と言われなくなった。代わりに血も涙もない氷のような人物だと。クレアのみに言われるようになった。




 表情から絶望が滲み出るその表情をゆっくりと手で覆い、顔の筋肉を動かす。生きているのが三人だけだと分かったのなら長居する意味は無い。


 そう、三人の考えが一致し、帰路に戻る。


「因みになんですけど…これ、どうやって帰るんですかね? 馬車もないし…」


「そりゃ…気合じゃね?」


「気合ね」


「マジですか…」


 マジよ、とそう言い、一ヶ月程死闘を繰り広げた敵地を離れる。


 行きは何百人も仲間が居て、どんな状況でも笑いが絶えなかったのだが今では耳鳴りが聞こえるような静けさだけが残っていた。もう一つ挙げるとするなら帰りはどうしよう、と帰えれる未来が見えない絶望感があった。







「…様! …お嬢様!? クレアお嬢様!?」


「…へ?」


 体を何度も揺さぶられ、頭がぐわんぐわんとしながら目が覚める。


 見える視界には赤と黒だけでは無く、白を基調とした、見慣れた自室があった。そして何のためか水が張られた桶を持ったメイドの姿。…え? もしかしてこのまま起きなかったら水責めされてた? …家のメイドって野蛮すぎない? おもいこみかもしれないが。…思い込みであって欲しいけど。


 メイドにゆっくりと上体を起こされ、背中にびっしょりとかいた汗にびっくりする。ああ、拭くために水持ってきたのね…と、危うく思い込みで野蛮認定しそうになった事を内心謝る。


「すいません…あの、とてもうなされていましたので…汗を拭きますね」


「え、えぇ…」


 そう言ってなすがなされるままにファイ達と買った服を脱がされ、ヒンヤリと冷たい布が背中を這うように拭われる。拭われている最中、気になったのかメイドが口を開いた。


「あそこまでうなされているクレア様を初めて見ました…宜しければ夢の内容を聞かせてもらっても…」


「内容って言われても…」


 そう言われ、思い出してみるが…すっかりと忘れちゃっているのかカケラも思い出せなかった。


 でも、このまま忘れました、と言っても面白くないので適当に返す。


「そうね、お腹一杯にパンケーキを食べる夢だったかしら」


「あー、確かに食べ過ぎると胃もたれしちゃいますよね」


 分かりますわかります、とその場にいた二人のメイドの同意の声が聞こえてくる。


 いや…え? 良いの? パンケーキを食べ過ぎてうなされる夢を見た公爵家の令嬢よ?


 メイドの理解の良さにびっくりしながら、買い物後に疲れて眠ってしまった事を思い出す。


 日は既に落ち、部屋の照明が明るく照らしている。コツコツと窓にあたる虫の音が気になるが良い感じにリズムを刻んでいたので…寧ろもっと気になった。ビートを刻む虫って売れるのかな? そんな疑問が出てきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ