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一周回っても世界は美しいみたいです(諦め)  作者: 椎木唯
序章 婚約破棄されまして
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大型商業施設は王家もご利用ですか? ②

 誰が言い始めたか分からないが、示し合わせた様に場所を移動しよう、と。


 生まれも価値観も立場もバラバラな三人だったがこの時だけは意見が纏まり、貴族に見合わない、俯きながら、周りの視線を避けながら移動し始める。


 周りを囲み始め、人から馬に。野次馬とかしていた人々だったがクレアが近付けば、第二王子が近付けば自ずと避け、道が出て来ていく。

 海では無く人混みを割る様はモーセを彷彿とさせる。規模感が違い過ぎるが。


 無駄に広く、三階建てになっているこの建物は人がある程度分散されてるが人が一人もいない。そんな場所は無かった。歩けば注目され、歩けば恐れ慄かれる。


 クレアは何が原因か。従者も良く良く見ればイケメンの類に分類される顔なので美男美女の集団である。

 それが原因か? いや、そんなルックスだけで注目されるのなら大多数の貴族は日常を顔を隠して生きていかなければならない。

 そこまではいかないものの、金に物を言わせ、自己を高めている貴族の肌ツヤは伊達のもんじゃ無いのだ。まあ、肌ツヤと顔立ちはイコールで結び付かないが。


 視線が集まるそんな中で必至に情報を集めようと自分の周りの情報を整理する。

 まず、従者は背後で一歩程の空間を開けついて来ている。ファイはその可愛い顔から覗かせる双眸で通行人を睨みつけている。第二王子…フェリイズが我が物顔で拳一つ分程開け、歩幅を合わせて歩いてくれている。壁沿いで歩いているので前後左右を完璧に守られている完璧陣営だった。


「ほう…。服とはここまで種類があるのか。差異はごく微少だが…これがお前のやりたい事なのか?」


 氷の様な冷たい印象を受ける顔を少し歪ませ、クレアの着る服と店頭に並んでいる服とを見合わせる。


「これとか良いんじゃないか? …ああ、強度は少し心配だが必要箇所は守られているしな」


 クレアの手を引き、店頭に置かれていた一つの服を手に取り、材質を確かめ、今着ている服の上から合わせ、見る。


 どこからどう見ても王子と令嬢のお買い物デートだった。


 何個か言いたいことはある。


 何故、王子では無く私を守っているのか。

 何故、従者は子を見る母の様な穏やかな表情をこちらを見てくるのか。


 甚だ疑問でしかないが…色々気になり反応に遅れたが、止まっていた頭の回転が動き出した。


 表情は変わってないが目に見えて目の輝きが違う、様々な服を持ってきて重ねてくる王子の手を取り止めさせる。


 少し、驚いたのか何時もより低い声色で聞いてきた。


「なんだ? 金の心配はするな。俺が全部出す。寧ろ出させろ」


 そう言って手に持っていた服を全て店員に渡す。


 受け取った店員は表情が蒼白としながら震える手で服を畳み、フェリイズが渡した数枚の金貨で会計を済ませようと算盤を取り出すが静止の声が掛かった。


「釣りはいらん。適当な足しにでもしておけ」


 フェリイズの言葉に既に脳の処理が追いつかなくなってしまったのか言葉としての原型を留めていない、言うならば音を発し、壊れた人形かの様に頭を何度も下げ、前に出たクレアの従者に手渡す。


 良い買い物ができた。と、ここに来た意味があったな。と呟くフェリイズ。

 これで終わりか。いや、目的が変わってしまっているが…変に動いて話を広げても良い事は無いだろう。

 そう考えたクレアは張っていた緊張の糸を緩ませる。


「よし、次を回るか」


 満足顔で次へ行こうとするフェリイズに緩んだ糸をちょん切られる。そんな錯覚を見てしまう。

 思わず向かおうとするフェリイズの腕を掴んでしまったがこの際だ。言いた良い事は言っておこう。

 そんな気持ちで口を開く。


「いや…あの、フェリイズ様? この際なんでゆっくり話せる場所を、なんて言葉は言いませんが…せめて服装は変えていただけませんか? 王家ですよ、と掲げて歩いているので視線が…」


「そっちの方が良いなら変えてやるが…」


「お願いします」


 意外にも良い返事を貰えた事に内心驚きつつ、返しに迅速に反応する。


 そんなクレアに合わせる様に適当に見繕った洋服を手に取り、奥にある更衣室で着替えを済ませる。


 先程までは王家らしい、金の装飾が施された威厳ある姿だったのだが、そんなものを拭い捨てる様にして着替えたその姿はクレアの地区一番の美女、と並ぶ様に地区一番の美男子となっていた。


 威圧感と言っても差し支えのなかった姿とは違い、フォーマルな格好で親しみやすくなっており、素材の良さを十分に活かした服だ。


 全く違うフェリイズの格好に驚き、開いた口が塞がらない心の中だったがこのまま無反応では流石に失礼だ。直ぐに言葉が出てきた。


「素材が良いからでしょうか。何着ても似合いそうな感じですよね。凄くカッコいいですよ」


「…複雑な気持ちだが褒め言葉として受け取っておこう」


 先程まで隠れていた麻袋が今度は丸見えで、ベルトに括り付けられていた。そこから同じように金貨を数枚取り出し、先程まで着ていた服は処分するなり売るなり、好きな方法で片付けて欲しい。と、そう言い残し店から出て行った。


 フェリイズを追うように出る。


 意外にもここで時間が掛かったのか店前を通る人はまばらだった。そんな状況は好都合だ、と別の店に向かおうと選別し始めているフェリイズに話しかける。


「聴きたかった事なのですがどうしてフェリイズ様がここに居るのですか? えっと…」


 少し聞き方がキツかったか、とそう思い言い直そうと言葉を選んでいると言いたい事を理解したのかフェリイズが口を開いた。


「…王の前ではないのだ。俺とお前の仲だろ? 敬語はいらん」


 少し息を吐く。


「昔の様な付き合い方に戻れないのか?」


 その方がお前にとっても楽そうだ。


 言葉を繋ぎ、言う。



 昔の様な、か。


 昔は立場が違ったから許されたようなものなのだ。今とは完全に物が違う。楽とか楽じゃない。とかそんな問題ではないのだ。


 そんな有耶無耶な過去をBGMとして流しながら困った様な表情を作り、返す。


「善処するわ」


「…ふっ、お前のその言葉は何度目か。聞き飽きて流石に信じれないぞ?」


 昔、良く言った言葉を使った事でフェリイズは気を良くしたのか無表情だった表情を変え、笑顔を見せる。そして控え目な笑いを見せ、直ぐに元に戻る。


「…ここに居るの、だったか? 話は早い。ウェイルの行方が分からなくなった。何か知らないか、そう思ってな」


 行方が分からなくなった?


 朝、あんなクソみたいに元気だったのに?


 脳裏に過ぎったのは誘拐される姿だったが…この国において第三王子の立場はほぼ無いと言っても差し支えない。

 ただ王家の血が流れる肉人形。そう言われるほど付加価値が血しかないのだ。


 攫って利する事はあるか? と、一瞬疑問に思ったが無能を遥かに覆い隠せる程の血筋があった。ならリスクよりリターンが大きいよね。


 真剣な表情で見詰めるフェリイズ。


 この感じから察するに私、もしくは家の者がやったのだと疑っているのだろう。まあ、疑わざるおえないのは理解できる。


 さて、どう返せばあと腐りなく終われるか。そう考えていると先にフェリイズが口を開いた。


「そうは言ってもお前が舞踏会前に抜け出し、道中でそこの騎士を拾い、ここまで来た。と聞いているからお前の仕業ではないとは思うが」


「家の者がって事よね? そんな筈ないわ。やるとしたら一切疑われる証拠一つなくやるもの。そして何より私の家族は皆んな優しいもの。そんな野蛮な事はしないわ」


「…ああ、理解した。疑ってすまないな。それを名目にしないとこんな場所には来れないからな…」


 そう言ってグルリと辺りを見渡す。


「ま、服しかないのが少し残念だが…落ち着いたら他の場所でも見て回らないか?」


 落ち着いたらが何を指すのか。


 どう考えても能天気の事なので理解する必要もないのだが…まあ、確かにいなくなったのは少し気がかりだが…思春期の男の子なのだ。冒険だってしてみたい年頃なのだろう。多分。


 適当に予想を付け、予想外だったフェリイズの誘いに返す。


「その時は買って貰った服を着て行きますね。…行くわね」


「ああ、期待してるぞ?」


 何に?


 そんな疑問が出てくるが敢えて無視をする。


 空気の様な存在だったファイと従者だったのだが…いや、従者はまだ良いのだ。荷物持ちとしてやる事があるのだから。


 問題はただの護衛と化したファイだ。当の本人は特に気にした様子がなく、ウェイルの迷子疑惑に対して少し興味がありそうな表情を見せただけだった。

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