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一周回っても世界は美しいみたいです(諦め)  作者: 椎木唯
序章 婚約破棄されまして
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大型商業施設は王家もご利用ですか?

女の子の服装がわかりません。てか中世の服って布じゃん

 迷子だとバレてしまったわけなのだが何故か向かった方向は家路では無く、大型の洋服店だった。


 このまま帰るのもアレなので見て回っても大丈夫ですか? との問いにYESと答えたせいであった。


 特にこの後の用事もなく、用事がないから家に帰ろうとしていたクレアにとってしてみれば渡りに船常態だった。

 何よりファイがファッションに興味を持っていた、その事実がより一層興味を唆られるものだったからだ。


 ファイの問いからコンマ一秒。ノータイムで返事を返したのが功を制したか道中何の弊害も障害もなく、大型の商業施設へと到着することが出来た。


 外装は煉瓦造りの耐熱性が凄そうなものだった。

 それ以外に特に感想は出てこなかったが学園の中に構えるとは先を見据え過ぎている切れ者か、それとも本当に小さな街を作ろうとしているのか。何故? に尾びれが付いて脳内を回遊してしまいそうな勢いだった。


 貴族の学校ともあり、こんなあからさまな商業施設、殆ど人が来ないだろう、と思っていたのだが想像の遥か上を行っていた。何と学園は貴族と、庶民で学科を分けていたのだ。


 敷地をある程度区分けてしているだけでその間の行き来を規制していないのだ。


 そんな人種様々な人が楽しそうに見て回る空間を物珍しそうに眺める。


「流石世界一の学び舎と言われるだけあるわね…もう、学校の“が”の字もないよね。で、買い物ってどんな物を買うつもりなの? ある程度なら私が買ってあげるけど…」


 脳内では完全にカワイイ! の一言で覆い尽くす洋服の数々をプレゼントしようと考えていた。まるで貢ぐ女である。これが婚約破棄された令嬢の末路か…。


 買ってあげるとは言いつつも懐が痛くなる心配はない。何故なら侯爵家の令嬢だから! と、そんな神経図太い人間では無いので親のお金ではなく、自分のお小遣いでの購入予定だが。


 ファイが大好きすぎる、ある意味親バカの様な気持ちでいるとポカーンと口を開いていたファイの顔が目に入る。


 その様子は完全に呆気にとられた姿であった。


「えっと、クレア様への物を考えていたんですけど…ほら、以前ドレス以外のも欲しい、と言っていたので…」


「え?」


 困った表情に変化したフェイを見て、過去の自分を振り返る。


 ファイと会った時に話す内容は大雑把に三つに分類される。…そんなワンパターンでは話していないけど。


 そんな話をしたかな、と何度も必死に思い出してみるがそんな事を言った覚えは無く、ファイの間違えか、と判断するには些か自信過剰すぎる表情をしている。


 困ったら適当に話を合わせれば良いか、とそう考え適当に相槌をする。


「ああ、確かにそうよね…」


 そんな事言った覚えがあるわ。と、続けるのを遮って悪戯っ子の様に口の八重歯を覗かせてファイが言う。


「嘘です。すいません。以前から興味があったのですが私だけではどうしても入れず…つい、巻き込んでしまいました」


 そんな小悪魔っぷりを垣間見れるファイの発言に呆気に取られながら溜息を吐く。


「良かった…いや、良くはないんだけどね? まあ、そんな事ならオッケーよ。私からのプレゼントって体にしておけばそちらの領主も無碍に出来ないでしょ?」


「ありがとうございます。…でも、あの人の事なのでどんな背景があったとしても木っ端微塵に斬り刻んでしまいそうなんですよね…以前も王家の贈り物を的として弓を嬉々として構えてましたし」


「どんな悪魔よ…」


 脳内で描いていたファイを妖精にする計画を破棄し、代わりに壁に張り付けられるファイが脳裏の過る。あったかもしれない未来を切り捨てる。王家の贈り物で的当てって…正常な神経では無い。


 考えを改め、騎士として貰って嬉しい物を考え始める。


 騎士として…貴族として、で考えると楽なのだけど騎士として考えると難易度が各段に跳ね上がってします。なんせ騎士ではないから。


 単純な考えで騎士といえば、で思い付く剣とか鎧とかが出てくるのだがそれを女の子に贈ると考えると…ある種の宣戦布告と捉えられてもおかしくない。どんな戦国時代だ。


 そんな手袋を投げつける決闘の申し込み的発想に至りながら適当に進んで行く。


 貴族と庶民が入り混じる大型商業施設、とそうある様に和気藹々と賑わい、楽器の演奏が響き渡る。そんな家の食堂でしか目にしたことの無い光景に呆気にとられながら不自然に空いた空間を悠々自適に進んで行く。



「…まずは私の服装をどうにかしないとね」


「一人だけ舞踏会から抜け出したみたいになってますよね。すいません。お手数お掛けして」


 それも時間潰しの一興か。


 特に思い入れが無いので脱ぐのに躊躇いは無かったがまさに舞踏会から出てきた姿、つまりドレスなのだ。

 ドレスの装飾で家を誇示する、とそう言われる様にドレスに誇りを持つのが貴族なのだがクレアの場合はその対象が違う。ドレスではなく自分自身がファーレン家たり得るものなのだ。




 茶色っ気が多い通行人の服装を真似しようと近くの洋服屋に入り、ファイの手助けもあり、高貴な家の令嬢から地区一番の美女的な立ち位置に変化した。


 真っ白いワイシャツの上から上着を羽織り、敢えて短くしている訳では無いのに膝丈しかないスカートを履き、黒のローファーで締める。全身フル装備であった。


 着替え終わり、異様に短いスカートの風通しの良さにびっくりしながら評価を待つ。髪を指で弄りながらファイの真剣な表情を見ている。口を開くのが先か毛先がカールするのが先か。


 先に行動を示したのはファイの方だった。


「ドレス姿のクレア様も良かったですけど…今の服装もとても着こなしていて可愛らしいです。世の男達が黙っていませんね」


「そう、ありがとう…。私としてはもう少しゆとりのあるスカートでも良かったと思っているんだけど…」


「ダメです」


 今日一番のファイの素早い返事を聞き、少し肩を揺らしてビックリしてしまう。


「いざ、強姦に襲われた時に逃げやすくする為なんですから」


「…ならズボンとかの方が良くない?」


「まあ、完全に私の趣味ですので」


「そう…」


 逃げやすく…そのファイの言葉に何歩か歩いてみるが…下が見えないか心配で走る行為に向いているとはとても思えなかった。

 だが、趣味だと言うのなら仕方がないのだろう。


 満足そうなファイの表情と、近くで見守っていた従者の満面の笑みとを見合わせれば似合っていない、そんな事は無いだろう。

 少し恥ずかしいが新しい自分を見付ける、とそんな考え方でいれば段々と妙な自信が付いてくる。


 さて、お会計でも済ませて見て回ろうか、と従者に声を掛ける。


「確か私のお金も管理してたわよね? それでこの服の代金払いたいのだけど」


 お財布を頂戴、と遠まわしに言ってみるが動く気配が無かった。それどころか何故かファイの姿がなかった。


 何時間目か、出会って半日程過ごして来て初めて従者が口を開く。


「いえ、ご心配なく。私とファイ様からのプレゼントですので」


「え…てか、貴方喋れるのね…」


 どこか黒子の様な存在だと認識していたので意外にも甘い声に内心驚く。幾分かは声に溢れてたが。


 プレゼントと、そんな事を言われても趣味の物であれば甘えられるが今自分が必要なものなのだ。そこすらも甘えてしまっては自分が廃る、とそう考え従者に対しては給料に差し引いた分を振り込んでおこう、と考える。


 プレゼント仲間のファイをどうしようか、と考えていると、少し悩む点があった。


「…プレゼント、と言ったけどこれ、私に試着させる前に買ったって事なのよね? 自信満々ね…」


 そうでなければ今ここで着て、従者からそんな言葉が出てくる筈が無い。


 ならばファイはどこに行ったのか。居なくなったのはお会計だと考えていたのにそれでは話が合わない。いや、まあ、普通にそれ以外の用事はあるとは思うが。


 そう、考えドレスを従者に渡し、軽く店の中を探して回る。様々な洋服が並び、色鮮やかで、色彩豊かで、個性的な…て、色でしか判断出来ていないわね。…任せて安心だったかもしれない。


 どこかしらから自分の服に対するセンスのなさが垣間見れてしまうが気のせいだろう。これだけは気のせいであって欲しい。


 様々な服が並ぶがそこまで広い訳では無く、ここには居ないのだと理解した。そして流れる楽器の演奏の中で聞き覚えのある声達が聞こえていたのが嘘では無いと知る。


 滅入る気を改め、店の外に出る。そこには先程まで服を買っていた店に入ろうとする第二王子と、それを食い止めようと必死に抑えるファイの姿があった。


 いつか国家反逆的な事を仕出かすのでは無いか、と思っていた矢先、不敬罪で捕まるときが来たのかと、背中に冷や汗が伝うのを感じ、そんな地獄へと進んで行く。


「だから何故邪魔をする? 俺はここの店に用があるのだが?」


「いえ、それは用とは言いません。悪質な出待ちです。寧ろ出向いている分悪質さがより目立ってます」


「何、いつまでも待つばかりのアホよりはマシでは無いか。そんな奴らと一緒にするな不快だ」


「その行動の先が犯罪的なんですよ。良い加減に戻ってくれませんか? ここにはクレア様は居ませんので」


「居ないのなら何故アイツの従者が中に居た? そして何故騎士位のお前がここに居る? 説明してみろ」


「…お使いですよ」


 そんな第二王子の猛進に耐えながら苦し紛れの言い訳を述べる。生憎、それを見越してか顔を合わせる訳で無く、話を聞く姿勢を見せる訳でも無く、視線はずっと店の中を見渡していた。


 出て来たクレアが見付かるのにそうそう時間は掛からなかった。


「…イメチェン、と言うものか? 少々…凄いな」


 ドレス以外の服装を見た事がない第二王子にとってしてみれば今のクレアの姿は目から鱗、食事に無味無臭の毒。初見殺しの一撃必殺。後半にかけて殺意が高すぎるがそんな印象になってしまう。


 何とか言葉を取り繕って口に出すが語彙力が低下し、脳へ回る血液量が少なくなっているのが理解できる。


 質素ながらも素材の味を活かす格好に、どこかしら恥じらいを持つその両手の置き場に、色々な考察を無駄に高性能な第二王子の頭脳で数多に広げていった。

 その脳内はまるで銀河系の如し膨張性を持って想像し続けていた。


「私の努力が…」


 推進力を失った事により、ブレーキを掛ける必要がなくなり必至に入れていた力を抜く。抜く、と言っても第二王子自身、無意識か力を抜いていたのか、手加減をされていた。


 そんな感じがあったのでこのまま持久戦に続いていれば先にバテていたのは自分の方だと。良く良く考えればそこまで力を入れすぎなくても良かったのではないか、と。

 色々な事を考えるが後の祭りである。後悔先に立たずとは良く言う。


 関わりがある、とそんな事を耳にした事があるが本当にクレア様と第二王子は知り合い同士なのだ、と双方の態度で理解する。

 クレア様の方はやっちゃった、とそんな後悔の表情が見え隠れしているが。



 そんな昼ドラのドロドロとした浮気現場的ドラマ性を持たせて表情を見せるのだが完全に周りを通る通行人にとってしてみればこの国の第二王子と、その美貌と特有の雰囲気で人気のある令嬢と、国の第二王子に立て付く少女と、それを保護者的立ち位置で見る従者とで情報量が凄かった。


 見せ物としては十分以上で徐々に人の視線が集まっていく。

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