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一周回っても世界は美しいみたいです(諦め)  作者: 椎木唯
序章 婚約破棄されまして
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最寄りの教会!

 国立グリアレス学園。


 学園、と名が付いているが実際の所は小さな社交場の様な場所である。


 十五を境に五年間在籍することになるのだが、そこで婚約者と仲を深めたり、他貴族の娘息子と仲良くなり、新たな交友関係を築いたり。

 そんな場所なのである。学園とは名ばかりであるが学問については自家で家庭教師なり雇って家を守る基礎さえ学べれば良いのだ。


 まあ、だからと言って遊んで暮らせる訳では無いが。


 三ヶ月に一度ある定期テストに合格する事が絶対条件である。それさえ守れば学園内でなら常識の範囲であれば大体の事は自己責任で何でもできる。そう、なんでもである。




 始業式。


 慣れない馬車で気分が悪くなりながら声を掛けてくる他の貴族のご令嬢…まあそこら辺である。からの挨拶にぎこちないながらも笑みを返し、一言二言。


 学園なのに制服を着ている者は殆ど居らず、代表として新入生でもある第三王子だけが着込んでいた。


 それ相応に自身の家の財力を誇示するかの様に煌びやかなドレスで身を包み、自慢の香水で香り付け、ふしだらな贅肉をコルセット等で整える。文字だけで判断するなら完全に料理の手順である。


 なるべく能天気を視界に入れない様に四苦八苦しながら徐々に会場となる大聖堂へと向かって行く。

 大聖堂、と神聖な場所なので馬車などの他種族を近寄らせない様に、と事前に知らせが行っていったのだがこの新入生達の服装は良いのか、とクレアは従者の日傘の下でそう思う。


 思っていただけなのだがそんな思考を邪魔する甲高い声が聞こえてきた。どうやら声の発生源は能天気王子に向かっていってる様だった。


「王子様ぁ〜〜!! おはようございます!! 今日もお日柄も良く、絶交の入学日和ですね! ドキドキして全然眠れなかったですぅ…」


 大聖堂までの道のり、中腹である。

 それなりの距離なのだが息切りなど一切せず、曇りなき笑顔で向かって行った。対する能天気は周りに侍らせていた令嬢を散らし、何事も無かったかのように満面の笑みで迎え入れる。


 遂に耐えられなくなったクレアが口を開いた。


「婚約破棄の直後にこれって…精神が図太いどころじゃないよね…?」


 日傘を持っている従者が何と答えようかと、いや答えまいかと四苦八苦していると背後からおなじような、いやそれ以上の王族オーラを纏った人物が歩いて来た。


「ふむ…奇遇だな。まさかお前とこんな場所で会えるなんてな」


「…奇遇も何もフェリイズ様は今日登校日では無い筈ですよね?」


 暗に狙っているでしょ、とそう言いながら背後に振り返る。そこには第二王子、フェリイズの姿があった。


 王子の椀飯振舞いである。ここで第一王子まで来ればコンプリートなのだが生憎と第一王子は卒業している。

 一年先輩のフェリイズ王子と能天気バカでワンペア。役が無いのでフルハウスである。


 日差しに照らされ、黒々とした髪色が目立つがそこに目を向けている場合じゃ無い。


「以前、自己の鍛錬で私とは距離を置く、と言っていませんでしたか。そして久しぶりの再会でその一言ですか…」


 相変わらずといえば相変わらずなのだが。

 そんなクレアの言葉に少し呆け顔を晒し、直ぐに整った。


「ああ…その話か。鍛錬は終わった。やるべき事は済ませた。だからお前に話し掛けているのだ。…いやか?」


 数年ぶりの再会である。

 嬉しく無いといえば嘘なのだがここでは周囲の目が気になりすぎる。


 最初は煩い甲高娘が気になった周りのミニチュア貴族達だったのだが今度は婚約破棄された侯爵の令嬢と第二王子の対談である。

 話題性はこちらの方が十二分にある。自主的に晒し者になってどうするか、と。


 考えた末の近くの修道院への連れ込みである。確かこの辺に空き家的な場所があった筈だけど…。


「…強引だな」


「無頓着なのは相変わらずですね」


「まあ、それが俺だからな」


 褒めては無いですけど。その言葉を押し込み、その要領で王子を修道院に押し込む。


 中は想像していたよりは小綺麗で修道院と言うよりは教会の方が近かった。と言うより教会だった。

 一番近い長椅子に腰掛ける。


「…ご存知かは知りませんが私は婚約破棄された身です。そんな欠陥と喋っているとフェリイズ様の品格までも落としかねません」


 ですから距離を取っていただけると…と、言葉を繋げる前に血相を変え、悪鬼の様な形相で立ち上がった。


「それならそうと言え。殺してくる。斬首の仕方に注文はあるか?」


 そんな野鳥を獲って来る、のレベルの声色で言われても、と内心驚きつつ腕を掴む。


「斬首では注文に制限が掛かってます…ではなくて」


「必要無いんです。向こうもそれなりに良い相手を見付けられているらしいので私からではなく、断言のし辛い父や兄が処理してます。なのでフェリイズ様が…」


 言い終わる前に神妙な顔で声を重ねた。


「それでお前は満足なのか? 気に入っていたのだろう? そんな相手を取られて、自ら仕返しをせず、これから過ごすのは」


 それでお前の気が晴れるのか?

 さっきまでの雰囲気から一転、問い掛けてきた。その答えは既に昨日のうちに片付いていた。


「ええ私は満足です。一番の心配が私の手が汚れる事ですから」


 同じように表情を変え、氷点下のような氷の表情で見つめ返す。


 他者から見れば情熱的なシーンなのだがそれぞれの思考を見てしまうと冷めてしまどころではなかった。

 そんな、クレアらしい言葉を聞き、納得したのか長椅子に戻る。今度は通路を開けての向かい側では無く、クレアの隣だった。

 どうして、とそんな言葉が出る前に


「俺の心配をするな。自分だけを見ていろ。それが性に合ってる」


 そして表情はそのままに


「評判を気にするお前では無いだろうが…俺がいればお前は前以上に自由にさせてやれるぞ?」


 遠回しのプロポーズだった。杞憂かもしれないが。


 突然過ぎるその言葉にクレアは表情筋を動かさずに驚き、後ろに控えているクレアとフェリイズの従者の頬の筋肉が断裂したのか形容し難いほどに緩み切っていた。

 ニヤケ顔とも言う。





 時間は十分に取って出発したので始業の時間には間に合った。


 まあ、第二王子と一緒に大聖堂に入るのは悪手だったかもしれない。

 入った瞬間の周囲の表情の変化の起伏が激し過ぎたのだ。サプライズプレゼントでもここまでの表情の変化はないだろう。


 生徒、教師それぞれが驚いた表情を見せた理由は上級生が新入生の為の会場に入った事が原因だろう。直ぐに察して出て行った。


 その後はトントン拍子で話が進み、三ヶ月に一回のテストの説明を受け、その為に学園を利用してくれと締めの言葉で言われお開きになった。嘘だ。

 その後は学園主催の新入生のみのパーティーが開催される。


 午前中の婚約破棄された公爵家の娘、とそんな不評の評判と評価が為されていて声を掛けるも挨拶に止まっていた御子息がエンドレスに向かって来るだろう。先程の第二王子との話が気になる令嬢多数。それ以上に婚約破棄で我が家にもご縁が…と、考えている者少数。


 波乱万丈な予感がプンプンだった。周囲は香水が混ざり合ってムンムンだったが。


 因みにクレアは無添加だ。毎日風呂に入っているし、服も洗濯し、着替えている。香水よりかは良い匂いのお天道様印である。まあ、シャンプーやリンスの匂いもするが。


 今後の対応に変な汁タラタラであった。

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