「ヒーローが活躍した日」 2
あのあとセキハラではたいへんだった。二人はアグネス・ムラタ邸に、数日間軟禁となった。まぁしょうがない。そこのお弟子さんたちとおしゃべりを楽しみながら(われながらキモが太くなったもんである!)推移を見守っていると、事態収拾のため、魔女宮から何某という准超級魔女が下ってきた。
別に不満はぜんぜんないが、オサカでの事件では超級だったのに、なぜ今回は准超級位の魔女なのか? 理由は、その人にあとで聞かされたことだが、そのとき超級魔女は、十三人全員、最高魔女の緊急指令が下されて、世界中に飛び散ってしまっていて不在。それでお鉢が彼女に回ってきたとのことである。
チャコはシンディを睨んだが、彼女はすっとぼけたままだった。
准超級魔女は終止おうへいに振る舞い、事件を処理した。シンディのことは知らないようすだった。もっとも彼女の正体を知っているのは、この世に十三人だけだったのだからこれは仕方ない。その代わりと言うべきか、二人の取り扱いに関しては超魔女会議から厳重なお達しがあったらしく、かなり不満げながらも二人には追求は無く、町に対しては二人の身柄は魔女宮あずかりとなったと宣告されただけで、当人達は即時に解放された。ようするに、セキハラを追い払われた、ということなんである。
もっと事情をおしえろ! というチャコの丁寧な申し出は丁寧に拒絶された。
それで、横にいる相棒に問うたのだが──
ああ、ここまでの道すがら、なんど問いただしてきたものか!
「うう〜〜!」
「どうしたの、おなか痛いの?」
そのたびにシンディは朗らかに話をそらし続けた。その口のうまさったらもう、それはそれはもうもう詐欺師級の絶品さで、気がつくと彼女と、素数のリーマン予想について論じ合っているしまつだ。──ところでリーマン予想て何よ?
「あの秀麿爺さんを探さなくていいの?」
と、今後の旅の行動指針にかかわる重大事をダシに迫っても、
「用事があれば、向こうからやって来るでしょ。ほっとこ」
とまあ、どこまでもマイペースなヤツなのだった。
たぶんだが、その探索の仕事は、世界中に飛び散ったという超魔女が担っている。そう勘を働かせるチャコだ。これは少し自信がある。
それはそれでいいとして、だがチャコの身にしてみれば、なにも分からず知らされず。気になって、これで旅を楽しめったって、楽しめるかこのヤローなんである。
シラカワに行きましょう、と最初に提案したのはシンディだ。そこに、なんの謀 <はかりごと> もないことは確かだった。純粋にチャコの気をなだめるための提案で、事実、それで少しはなだめられてしまったのは確かだった。そしたら今度は──なんだかヤツのいいようになってるのがシャクに障って……。いわゆる一つのデフレ・スパイラルというものだ。(意味が違ってたってしるもんか!)
というわけで今、シラカワの茶店にのほほんと腰を下ろしている、というわけなのだ。