「ヒーローが活躍した日」 1
ザパーン国はチューブ地方、ギーフ県には、世界的に有名な“シラカワ”が二つある。
一つは、飛騨白川郷。由緒ある特徴的な、三角形の家屋が立ち並ぶ集落だ。その伝統的文化価値が評価され、太古の時代において、名誉ある世界遺産に指定されたとのこと。その美しい町並みは今も健在……という話である。いずれの日には行ってみよう。でも今は、もう一つの方──
美濃白川。
味深く、水色さわやか、香り懐かしの“シラカワ茶”の産地なのだ! さらに付け加えると、このシラカワ茶は、あの“ウジ茶”の親戚なんであるんだよ! びっくりしただろう?
太古の時代、村のお寺の住職さんがウジに出向いたさい、お茶の種をもらい受け、それを持ち帰って育てたのがシラカワ茶の始まり──という伝説が残されているんだ。
地球の乱脈回転で一度品種改造されたとはいえ、親戚に変わりないことには違いない。
となれば、旅の次の目的地としてココを選んだのは、まったく当然のなりゆきだったのかもしれないね。
山の中に拓かれたシラカワの村。急峻な斜面のお茶畑には、その名もシラカワ川 <リバー> という谷川からの濃厚な霧と、日光がふんだんに与えられ、まさに名茶を育てる絶好地となっていた。
そのシラカワの煎茶──
ちょっと脱線するけど、現在、お茶の栽培、増殖は、挿し木方法によっている。お寺の住職さんの昔は、種から育てていたのだが、種には品質(素質?)に当たりハズレがある。だったら品質が定まっている茶木から枝をもらって挿し木にした方が、品質を効率的に実現できる、という自然な考えで、歴史の一時代にその技術が確立されてからは、ほとんどがこのやり方になっている。
脱線その2。煎茶は、湯温しだいでその口当たりがまるで違う。高温だと苦みが前面に出て、低温だと甘みと旨みが強くなるのだ。
まあ……それはともかく。
そのシラカワの煎茶──を、道の茶店で一服。その <傍点> 旨さ </傍点> に旅の疲れがほぐれ、ふうと満足の息をつく、チャコとシンディだった。
峠の茶店、言うなれば、太古のオープンカフェ。道沿いのベンチに腰掛けて、暖かい日差しと心地よい風を浴びて、チャコはとっても幸せだった。
そゆわけで……湯飲みをお盆に戻すと、さっそくケンカの続きを再開した。
「春だわ」
と、まずは鋭くジャブを打ち込む。シンディ、ニッコリと軽やかにスウェーした。
「ほらあそこっ。ヒバリが飛んでるよ」
「空が蒸気でかすみ、とてもうららかだわ」
「ほんと、お眠りしちゃいそう」
「……うう〜〜!」
明るい春ののどかな青空──
そう、春! 今は春! 春なのだ!!
半月前、セキハラの町で、そこの回転予報官・アグネスは、安定した秋日和が続く、と予報した。チャコも、そう予測をたてていたのだ。
だが、 <傍点> 誰かさん </傍点> の、地球自転への干渉のせいで、それが狂ってしまった。今、地球のおおむねザパーン国周辺は、夏に向かって大驀進中なのだった。
「うう〜〜!」
あのとき、うかうかとシンディの右手を握ってしまったことが悔やまれる。
あのとき、徹底して問いつめるべきだった。
聞きたいことは山ほどあった。
でも後の祭り――それから今まで、怒っても泣いても、ガンとして口を割らないシンディだ。
「うう〜〜!」
まったくハラが立つ──!