「復活の日」 5
秀麿が立ち上がった。襖に歩き、こちらを振り向く。ほほえみを絶やさず──
後ろ手で襖の取っ手に触れ、するすると開き始める。
そこに……。
四人の、黒系統の色の、キモノ、ハカマ姿の──
左腰に大刀小刀をぶちこんだ、つまり、太古の世界で“武士”と呼ばれた者たちが──
“兵法者”と呼ばれた存在が──
ジャンヌ──
目の前がくらくらとなり、まるで夢幻の空間に迷い込んだような──
「紹介しよう!」
秀麿の声が頭にカンと響き、ジャンヌは正気を取り戻す。目の前に、横並びした侍たちが立っていた。
秀麿が一番右端に立ち、まるでバイト先で新人を紹介するように、男たちに声をかける。
「名前を呼ばれたら、一歩前に出るように」
了解した、と軽く頭を下げる、武士たちだ。
「林崎流抜刀術、林崎甚助」
すぐ隣の男が一歩前。この四人の中では一番小柄だった。誤解してはいけない、つまり、世間並みの背の高さ、ということだ。顔に愛嬌があって、どこか可愛げのある人だった。秀麿が簡単に紹介する。
「この中では……というか、居合では歴史上の誰よりも速い」
「よろしゅうね <ハート> 」
やはり愛嬌ある笑顔だった。
「示現流、東郷藤兵衛」
その隣の、まるでグリズリーみたいな大男が一歩前。重量級の戦士であった。むんっ、とでも表現しようのない顔をしている。この人が静かに怒ったら、それはそれは怖いであろうと思われた。
「打ち込ませれば誰よりも速い」
「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ……」
重々しく頭を下げる。たまらずぴしっと礼を返したジャンヌだった。
「柳生新陰流、柳生十兵衛」
その隣の、左目に鍔の眼帯をした、ちょっとかっこういいオジサマが一歩前。あごひげをポツポツとはやし、左手でそのあごをさすってる。右手は懐につっこんだままだ。右目をやわらかく形づくらせ、ニカッとさわやかな歯並びの笑顔になった。
「この男、戦わせたら、誰よりも強いぞ」
「オウ、頼むわ……」
ジャンヌ、なんと頬を染めてしまったものである。
「二天一流、宮本武蔵」
最後の一人が一歩前。蓬髪の男だった。ちょっと居心地わるそうにしている。これは想像だが、たぶん、 <傍点> 今この世に生まれ出たばかりだから、衣服がまっさらで清潔だから </傍点> 、それが気になっているのだろう。なんとなく、身だしなみに無頓着な人のように思えたのだ。顔は、少し骨張っていて、それでいつも怒っているような感じで、これは社交は苦手な人なんだろうな、と思えたのだった。
「言わずと知れた二刀流で、これはもはや反則的に強い」
「ん、……なんだ、その、ま……」
いきなりペコリと低頭したのだ。おもわず笑みがこぼれてしまったジャンヌだった。こんど、いっしょにお風呂に入ろうか、と言ってみようか? どんなリアクションするだろう!
「以上四人 <よったり> ──」
秀麿が言う。
「──お前の剣術のコーチ、兼、ボディガードじゃ。この屋敷が広いのは幸いじゃった。稽古の場所に困らん。ま、当分の間、しごいてもらうんじゃな」
「へーい……」
「返事は、はい、じゃ」
「はーいはーいはーい……」
「まったく近頃の娘っ子といったら……」
ぶつぶつと文句をたれる老人であった。
(宇宙人様……)
その背中にあだ名を奉る。
彼女は腰を上げた。みんなにお茶でも淹れてあげよう。そうだ、たしかトラヤの羊羹も残っていたはずだ。
「──♪」
ジャンヌ・ダルク・カザンザーキス。目の前が、急に広々と開かれた思いだった。
(なんだかおもしろくなってきた!)
胸の中が、希望の光でいっぱいだった。
作者こと私・やおたかきでございますが、今度の5月連休中に、お引っ越しをすることになりました。環境が激変しますので、当分、更新できなくなります。もし、この作品を読んでくれている方がいらっしゃったら(そんな人がいたら嬉しいのですが……)、すみませんがだいぶお待たせすることになります。ごめん。