表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

復活の日2 7

 ゲラゲラと笑い狂う秀麿だった──


 ジャンヌの両肩にいとおしげに両手を置き、天に向かって吠えるように笑い続ける。

 白い獅子髪を揺らし、体を震わせ──

 豪々と──

 天そのものを震わすかのように──

 やがて秀麿は、勝利を誇示するかのように両の腕を突き上げた。

「我、宣言する! マスター・源聖斗との契約は、その意志の喪失をもって、ここに完全に解除されるものなり! こは同時に、この瞬間、『帝釈鬼』の棄教を意味するものでもある!」

 秀麿の体が半透明になった。そのままジャンヌと重なる。

 それは、ジャンヌの声でもあり、秀麿の声でもあった。

「さらに宣言する。わたし、ジャンヌもまた『父なる神』を、棄教せし者なり!

 ゆえもって両名、一白紙人として、新たな契約のために御身を招聘する。千年の眠りから、いざ目覚めよ――『大日如来』!!

 ここに控えおるは、御身の忠実なしもべにして汝の最高位オペレーター、蘇我秀麿ならびに、ジャンヌ・ダルク・カザンザーキス。我らが命 <コマンド> に従い、我らを御身の信者と認めよ!」

 合掌した。二人の声が空に響き渡った。

「南無大日如来!」

「 〃 」

「 〃 」

「 〃 」

「 〃 」


 このとき、秀麿が、左足を浮かせ、右足一本だけで立った。バランスをとり、体の芯を地面と垂直にして──

 浮かせた左足で、地面を後方に蹴りつける──

 蹴りつける──

 蹴りつける──


 秀麿、口では如来を唱えるも、ここで用いたるは原点、すなわち慣れしたしんだる陰陽の、得意の呪術。時至りたり太乙神数 <たいいつしんすう> 、ここに示せや奇門遁甲 <きもんとんこう> 、読むのは我ぞ六壬神課 <りくじんしんか> 。わが歩法、禹歩 <うふ> が一つ、“たまけり”に、いざ応えい!


 蹴りつけた──


「南無──!!!」


          ※


 瞬間──

 チャコ、なぎ倒された! 吹っ飛ばされるように大地を転がされ──

 偶然、つま先が地面の窪みにかかり、体が停止したのだが──

 両手でしっかりと地面の草を握りしめないと、身体が浮き上がりそうで──


 痛覚のおかげで、惚けていた頭が少しクリアになった。

 今のこの衝撃、この感覚には覚えがある。そう、あれはセキハラの宿での体験だった。シンディがやらかした、超移動! 地球が、いきなり高速微回転したときの衝撃と、ほとんど同じ──!

 今回のは、それプラス、水平方向への連続的な力学も感覚できる。たとえるならば、この地面、この大平原が、実は垂直の超絶一枚大岩壁であって、一旦足を踏み外せば、はるか地平線まで大滑落してしまいそうな、そんな奇ッ怪な感覚──!

 このまやかしの重力は、秀麿、ジャンヌの方角を“上”として働いていて──

 そこまで観察してチャコ、ようやくカラクリのタネが知れた。

 この不可視の不可思議な負荷の正体。 <傍点> 遠心力 </傍点> である。

 すなわち、かれら二人が立つ場所は──地軸! 地球の、宇宙の、回転中心!


“極”──!


 電撃的に思い出す! 春の夜の天動説! あの恍惚の、無限のパワーの奔流を!

 そう──

 無限の力のみなもとを!


 そこに今、主役となって立っているのは、自分でなくシンディでなく、敵方の大将の二人で──


<傍点> いけない </傍点> ──


 とってもいけない、やばい、よろしくない。


 だが、どうすることもできなくて──! 


          ※


 ついに──


 全天が、輝いた。

 それまでの青空が消え、全宇宙が真っ白い空間となり──

 そこに──


 光の天頂に映し出される、巨大な結跏趺坐 <けつかふざ> 像──


 お髪 <ぐし> は髻 <もとどり> 、額に宝冠、お顔美しく、衲衣 <のうえ> は偏袒右肩 <へんだんうけん> 。お体にお飾りを回し、なにより、お胸の前で結ばれる左手右手、智剣印 <ちけんいん> ──


「顕現──『大日如来』!」


 そのお姿は大きさは──

 二次元の画のようで、三次元の像のようで──

 わずか数センチのようでもあり、いや、数百メートルはあるだろう、いやいや、あれは数十キロメートル、とんでもない、ひょっとして地球よりも大きいのではあるまいか──

 手を伸ばせば触れる目の前にあるようで、いや、手を伸ばせば届くが、それは腕がゼロ時間に無限に伸びるからで、実は遙かアンドロメダの彼方にあるような──


 そこに停止しているようで、実は光速で落下し続けているようで──

 画像の背後は、宇宙のビックバンにまで続くかと思われる無限の階層、大時空──


「多重宇宙廻廊……」

 シンディのかすかな声。


 チャコは、なすすべもなくただただ上を見上げるばかりで──


「うおおおおおおおおお! 成ったりッ!」

 狂気じみた老人の叫び声──


 地獄が始まる──それは、シンディのかすれた声。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ