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復活の日2 1

「! ! ! ! ッ──!」

 言葉にならない歓声をあげて、両手を突きあげて駆けだすチャコ──

 その先に──


 勝ったのか、負けたのか?

 天を見上げる、茫然自失の源聖斗 <みなもとのせいんと> だった――


         ※


 ぶつかるように飛びついてきたチャコ──

 聖斗は、戸惑うように、腕を彷徨わせ──やがて──

 チャコの体に、こわごわと腕を回し、意を決して一度軽く抱きしめ、すぐにビクリと腕を浮かせ……そして。背中を軽く、安心させるように、優しくたたくのだった。

 男の眼差しはほのかに、いとおしげにチャコを見つめて──

 が、和らいだかに見えた表情が、ふたたび厳しくひきしまった。彼はやんわりとチャコを引きはがすと、彼女をそこに押しとどめ、一人、再度刀を手に、白頭、水干姿の老人に向かって歩を進め始める。

 向こう、怪人、蘇我秀麿 <そがのひでまろ> の、ため息する姿が見えた。チャコの耳には聞こえる。

「あの四人が、負けるとはな……。正直、夢にも思わなんだ……」

 そして、精神のスイッチが切り替わる。

「×××××ッ! ××! ××××! ──! ──」

 声を荒げ、激しい罵詈雑言。聖斗は師匠のこのような奇矯な言動には慣れているのだろう。まったく意に介したようすもなく──それでも一旦立ち止まり──平静に私心を述べたのだった。

「あの四方 <よんかた> におかれては、俺ごときとまともに相手するのは、矜持がゆるさなかったのだろうよ」

「んなこと聞いてられるか!」

 またしても秀麿の手に現れる四枚の紙片、そして超高速呪文──!


 誰も止める間もなかった。聖斗でさえ──


 ──いや、聖斗は、止める気配さえ見せなかった。その場を動かず、平然と老師を見守り──


 支障なく秀麿の呪文が完成する。


 ──


 嗚呼……なんと。


 ──


<傍点> 再び蘇った、四人だった </傍点> 。


         ※


「……そんなのあり!? なんなのよこんなの!」

 ジャンヌ、あまりのことに、地べたにへたり込んでいる。

 あちらに……、こちらに……、あの四人が、またしても出現しているのだ。


 林崎甚助(new!)

 東郷藤兵衛(new!)

 柳生十兵衛(new!)

 宮本武蔵(new!)……


 茫洋と立ちつくす <傍点> 新しい甚助 </傍点> が、からくり人形のようにゆっくりと、ジャンヌに顔を向けた。相変わらず、愛嬌のある顔かたち。だがそれは、まるで、プラスチック製のぺらっとした、硬いお面のようで──

 ジャンヌ、その顔を見つめながら、 <傍点> あること </傍点> の可能性に、身震いする。ともすれば気が遠くなる中、気力をかき集め、まるで祈るような気持ちで、その言葉を口にしたのだった。


「ジン、ちゃん……わたしのこと、憶えている?」

 

「姫……」

 甚助が、安心させるようにニッコリと笑った。それは、まぎれもなく血の通った表情だった。

「……どうやら新しい体のようです。ですが、ご懸念なく。記憶は引き継がれておりまするぞ!」

 まあ、冷静に考えれば、記憶があるのは当然。だが、逆だと思いこんでしまっても今の場合責められまい。とにかく──

 そのときのジャンヌの顔こそ見物だった。喜びに光る表情とは、彼女のそれを言うに違いない。ジャンヌはそれこそ羽ばたく小鳥のように飛び出すと、どんと甚助に抱きついたのだ。ぎゅうううううッ!

「わたし……わたし、泣いた、んだよ……バカッ!」

 もう、また、しゃくり泣きだ。乾いた藁の香りに包まれて、涙腺が崩壊して。甚助は軽く背を叩いてくれて──

「痛み入ります、姫。……おお、姫、あの武蔵殿をごらんあれ」

「?」

 指し示された方にいる宮本武蔵。見られていることをまったく気にするようすなく、手足をそわそわ動かし、自分の体を見回している。落ち着きがない。

「 <傍点> 真新しい衣服 </傍点> で、まごついておられますぞ」

「アハハハハハ!」

 それは、ファミリーにだけ通じるジョークだ。ジャンヌ、心の中から、幸せそうな笑い声を上げたのだった。

「なんともはや……」

 これは十兵衛だ。彼もまた、自分の体を点検している。

「生き返り、死に返り、せわしないことだ……」

 隣に立つ藤兵衛と顔を見合わせ、微笑をかわす。

 ジャンヌにとって、まさに奇跡の、幸福なひとときであった。

 だが──

「おい、お前ら!」

 蘇我秀麿、もはや万能の宇宙人様。その爺様が、再会の喜びの気持ちなんぞまるで歯牙にもかけず、四人に向かって怒鳴りつけたのである。

「獅子搏兎 <ししはくと> ──意味は、お前らマジメにやらんか! だ!」

 またしてもこの世に呼び返されてしまった四人の武士。

 尋常ならざる手段で叱られてしまって、思わずであろうそろってシュラッグ <shrug> したものである。──各々、苦笑い。












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