「復活の日」 3
二人のやりとりはさらに続く。
「さっき、わたしの願いを叶えてくれる、と言ったわね?」
「ゆうた。安心しろ、タダで、とは言わん。ちゃんと代価をいただく」
「なーんだ。やっぱりカネを取る気なんだ」
「タダだったら、お前でもさすがに警戒するだろうが」
「いくらで、なにをしてくれるの?」
「なにしろ儂はこのとおりのあやふやな存在だからな。儂と共に行動し、仕事を手伝ってくれたらありがたい」
「仕事って?」
「儂はこの地球の、全世界の王様、皇帝になろうと思っている」
「アハハハハ! お爺ちゃんサイコー!」
「お前、死ぬつもりだったんだろ?」
「──」
「どうせ死ぬんだろ?」
「──」
「悔しくないのか?」
「──」
「見返してやりたいとは思わぬか?」
「──思う」
「超魔女以上の力がほしいとは思わぬか?」
「思う」
「お金はあればあるほどいいよな?」
「そう思う」
「お前、儂は大好きじゃ」
「きしょく悪いこと言うなよ」
「じゃあ、儂と契約しようよ」
「──」
「お前の弱みを知ってるよ」
「──」
「鏡に向かって祈っておったろ?」
「!」
「儂は知ってるよ。それは太古の技術で作られた、“魔鏡”というものだ」
「……」
「光をある角度で当ててやると、反射光が映像を形作る。──おそらく、御仏のお姿とにらんだが、どうじゃ?」
「──」
「だんまりは、認めた証拠、と太古から言われていることじゃ」
「チクる気?」
「今、世界の各国は、世界政府によって、実に緩やかに統一されておる。民にとっては理想の世の中じゃ。平和な政府と言えるだろう。すばらしい。理想的な、非の打ち所のない、立派な支配組織じゃな」
「それが……?」
「つまり、裏を返せば、数少ない禁忌に触れた者に対しては、苛烈、ということじゃ」
「──!」
「“最終戦争”後、仏教は、異端じゃ。仏道に帰依することは禁じられている」
「帰依なんかしていません。マジで。さっき祈っていたのは、ただの習わしです。……うちに代々伝わった、たんなる伝統、文化的行事です」
「それが異端審問の場で、通用するかな?」
「じっさい、事実、そうなのよ? 鏡を割れって言われたら、なんの躊躇もなく割れるし、踏みつけろ、と言われたら、喜んでとんだり跳ねたりしてみせるわ。わたしの宗教心たら、そんなものよ。──審問なんて、ぜんぜん怖くない」
「お前は、笑顔で踏みにじるだろうが、心では泣いているだろうよ」
「あははのは! 苦し紛れね! 勝手にほざけ」
「仏様はいるよ。お前の心の中に」
「うるさい!」
「事実、存在するんだ。その“魔鏡”の作り主たちが、 <傍点> ほんとうに作ったんだから </傍点> 」
「……はぁ?」
「御仏は今、千年の眠りについている。だから、いくら祈ったって、今はその祈りは届かない。長き眠りから目覚めさせてあげんと、な」
「話についていけない」
「仏様、大好きじゃろ?」
「大好きだよ……。お婆ちゃんが、こっそりと、たくさんお話ししてくれた」
「目出度くもあり、目出度くも無し?」
「わぁ、一休さんだ!」
「……ほんとに、好きなんだな」
「大好き!」
「ついでに、お金と権力も大好きじゃろ?」
「ウフフ……超大好き」
「お前、儂は大好きじゃ」
「なんだかわたしもお爺ちゃんが好きになってきたよ」
「うふふ」
「うふふ」
うふふふふふふ……。