決戦の日 12
「うくっ……」
聖斗の苦悶のうめき──
甚助の <傍点> 鞘のこじり </傍点> が、聖斗の右わき腹に当たっている。
※
こじり――甚助は、一瞬をさらに細かく割り、刀を鞘ごと引っこ抜き、そして走らせたのである。……完璧に、聖斗の速度負けであった。
それにしても鞘、である。なぜ鞘、なのか。いったい甚助の心に何が生じたのか、是非とも語ってほしいところだが、その願いは──もはや叶わない。なぜなら、あの光の筋が──
鞘の軌跡は光は発しない。ならば必然的に、あれは、聖斗のものだったわけで、つまり──
ああ見よ……。今もって微動だにせず聖斗の刃は、甚助の右首を割っており――
※
遠くから響く、悲痛の叫び。
「ジンちゃん──!」
※
林崎甚助が、莞爾として笑った。
そして、未練なしに、ポン、というかわいらしい音をたてて、何もかも一切が消滅する。
あとには、首を少し切り破られた、人形 <ひとがた> の紙片が一枚。ひらひらと風に舞い空へと消えて行く。
それを名残惜しげに情深く見送るのは、残された聖斗の方であった。
※
チャコ――
「――」
声にならなかった!
立ってられなかった。チャコ、両ひざを地について、痛い心臓を押さえ、心の底から、よかった――
無事でほんとうによかった──
と、その思いで全身がいっぱいになり──
が――
気付くと、聖斗が、ふたたび距離を開けていたのである。
「――二人目!」
ひっ、とチャコの喉から音がした。まだやるの? 驚き見やるその先に──
「応!」
答えたは、一人の巨人。そして今度は間違いなく、最初から大刀を鞘から引っこ抜いている――!