表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/49

決戦の日 6

「ストップストップ!」

 慌てたような男の声がかかって、双方が動きを止めた。目を向けるとそこに、

「秀麿お爺さん……」

 獅子髪の、浅黄色の水干姿のあの蘇我秀麿 <そがのひでまろ> が、爺むさく左手に杖を持ち、四人の黒キモノ姿の男たちを従えて、ジャンヌの後方に姿を現していた。

「もう少し、ようすを見ていたかったのじゃが……仕方ないな……」

 焦って姿を現したことが恥ずかしかったのか、照れくさそうに、ぽりぽりと鼻をかく。そしてこちらを見た。

「やあチャコちゃん、お変わりなさそうじゃな。結構結構」

 右手を上げて挨拶してくる。

「どうも……」

 芸のない素朴な返事をし、このときになってようやく、正気に戻ったようにチャコも地面に降り立った。とにかく今からは、高みの見物はよろしくない。シンディの隣に並び立つ。

「あら、元気にしてた?」

 これはシンディだ。なぜか、満足げな顔だ。

「レディ──」

 老人、彼女へは、一度低頭して返事とした。

「なぜ止める!?」

 振り返って抗議したジャンヌだ。

「まったく……。止めなきゃ死んでたよ、お前は。困った子じゃな」

 と、久しぶりに二人の前に姿を現した話題の男は、人当たりのよさげな笑みを浮かばせたのだった。


「で、 <傍点> なぜ止めた </傍点> のー?」

 と、よくよく考えれば恐ろしいことをさらりとシンディが尋ねる。

 老人が、ニイッ、となった。

「もちろん、 <傍点> 間違っているから </傍点> じゃ」

「なにが間違ってんのよ! 二人が仇だと教えてくれたのアンタじゃん! 仏道の復興、革命がなるかならないか、伸るか反るか! いったんコトをスタートさせた以上、どちらかが死ぬまで終わらない、だから覚悟きめろってほざいたのアンタじゃん!」

 老人に詰めより指つきたてて激高するジャンヌ。そしてチャコはその彼女のために、なんだか慌ててしまったのだ。――いいのかジャンヌ? あなた、今たいへんなコトを口走っちゃったよ?

 案の定、

「やっぱり、やり始めていたってわけね、世界征服 <ハート> 」

 それはもう楽しそうに、シンディがはっきりと言葉にした。ようこそいらっしゃい──揉み手せんばかりの笑顔だ。

 秀麿の方はというと、その危険な思惑を白日の下にされても、平然としたもの。毛ほども気にかけるようすも見せず、ジャンヌを諭した。

「間違っているのは、刀の向ける先じゃよ。儂の可愛い娘よ」

「──」

 全員が注目し、老人の言葉に聞き耳を立てる。

 秀麿、フイ、と、チャコに人好きのする優しそうな顔を向けたのだった。

「途中まではよかったのに、後半、間違えた。そちらにおられるお嬢さんじゃよ。まず、殺すのは」

「へっ?」

 おもわず変な声が出た。──はい?

「今、金髪の方のレディの相手をしたら、容赦なく瞬殺されちまう。心構えも腕も、レディはお前よっかずっと上なんじゃ。本当に殺される……。娘や、お前に早々と死なれちゃ困るんじゃよ。この爺を、悲しませなんでくれ」

「──わかった」

 わかったんかい!? それこそツッコミの叫びが出るところだ。

(それにしても)

 とチャコは心を曇らかす。お爺さんは、はっきりと自分を殺すと言った。なんとなく憎めない人と思っていたので、正直、少し傷ついてしまった思いだった。なぜ、こんなふうになるのだろうね。

 チャコの気持ちをよそに、事態は休むことなく進展している。ジャンヌが納得したように、白々とした目でこちらを睨んでいた。その視線の冷たさにチャコ、ようやく、相手は大マジなんだな、と認めるのだ。そして、自分の肌に勝手に鳥肌が立つのを、あきらめの心境で見つめるのだった。

 ジャクリーヌと似た顔つきのジャンヌ。――もしかして自分は、死んじゃえばいいんだろうか?

「そんなのわたし、困るなあ……」

 ビクッとなった。シンディだった。もちろん、今の彼女の言葉は秀麿に対してのものだ。だけどチャコ──

「チャコに手をお出しになるのなら、遠慮なく介入させて頂きますわ……」

 鋭い剣先を迷いもなくビシリと老人に向ける。力あふれる、いつも元気な、そして自分が今、もっとも大切に思う友達だった。

 チャコは顔をあげた。現実と、まっこうから立ち向かおうと思った。

 現実というものは、参加する者だけを相手にして、どんどんと先へ歩いて行ってしまう。チャコが意識したとき、秀麿がシンディに、答えているところだった。

「畏れながらレディ。こうなると思って、貴方には貴方のお相手を、用意してきているのですよ」

 もったいぶった言い回しで、右手を肩の高さにまであげる。そして――後ろに控えし者どもよ、前に出よ──というサイン。


 チャコ、今度こそしゃんとした。どう変化するのかまったく予想がたたないまま、事態は急激に走りはじめている。

(置いてけぼりにされて、たまるもんか──!)

 心を張った。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ