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青の光源  作者: 伊勢祐里
三章「光源」
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4話

 店内に設置された姿鏡に、アイボリーのワンピースを合わせる沙耶香が写し出されている。ウエスト回りの細い大人なデザインに、自分には似合わないだろう、と碧はちらちらお洒落な店内を見渡した。


 沙耶香が入る店は、あまり碧のいかない店ばかりだ。沙耶香みたいな服装は憧れるけれど、残念ながら碧では着こなすことは難しい。梨咲に言わせれば、無いものねだりと言われるが、着てみたいものは着てみたいのだ。


「どうかな?」


「とっても似合ってるで」


 くるりと回った沙耶香が、上品にスカートの裾を広げてみせた。スレンダーな彼女の体型に、大人なワンピースはよく映えている。短くなった髪が、その魅力をさらに引き立てていた。自分の仕草が恥ずかしくなったのか、沙耶香は照れを誤魔化すように、ワンピースを碧の方に向けてきた。


「碧もこういうのどう?」


「私には似合わんやろ。沙耶香くらい身長がないと」


「そうかな? でも碧こういうの着たいんじゃない?」


「なにそれ。べつに着たくないし」


 図星を言われ、自分の顔が赤面しているのが分かった。その証拠に沙耶香の顔が、楽しげに笑みを浮かべている。


「ほらほら、この腰元の辺りがセクシーで碧に似合う気が」


「またそうやってからかう! 私はちゃんと自分に似合う服探すから!」


 沙耶香の口調が、完全に碧をからかうためのものに変わった。それに反応するように、碧の声もツンと尖ったものに変わる。だけど、それは本気で嫌がってるわけじゃない。仲の良い仔猫同士が噛みつき合うように、こうやって碧と沙耶香はコミュニケーションを取って来た。沙耶香の悪戯やからかいには悪意がない。そう分かっているから。


「試着くらいしてみなよ」


 ひらひらとスカートを揺らしながら近づく沙耶香の額を、碧は指でつんと押し返した。意外な碧の反撃に、沙耶香は面を食らったように、はっと声を出す。


「痛いっ!」


「いつも反撃が無いと油断してるからやで」


「まさか、碧がそんな反抗的になってるとは」


「私だって成長してるの」


「セイチョウ?」


 まるでロボットみたいな声を出して、碧の足の先からゆっくりと沙耶香の視線が上がっていく。背は変わって無いぞ、と言いたいらしいが視線が胸の辺りに来た時に、碧はぐっと背伸びをしてみせる。


「あ、ずるしたな」


「へへん。ここは成長してるの」


 指先で頭をたたき、しめしめと碧は笑みを浮かべる。沙耶香は、トホホと馬鹿みたいな声を出しながら、ワンピースをラックに戻した。


「ほら、その服が気に入ったなら、今度は私の探しに行くで」


「反省の色なし! 悪い子だ」


 楽しげに声を出した沙耶香の表情は、背中越しにもよく分かった。だけど、沙耶香の言う通りきっと碧は悪い子だ。出来れば賢人を探すのを諦めて欲しいと思っている。そうすれば、互いに傷つかなくて済むのに。碧は、沙耶香に話さなくてはいけないことを、何も話せていない。


「もう。それじゃ碧の服見に行こうか。寄りたいって行ってところは大丈夫?」


「あーやっぱり、また今度でええかな。中間もあるし、それ終わってから」


「ふーん。碧がいいならそれでいいけど」


 スキップのようなテンポで、沙耶香が碧の隣に並んだ。腕を後ろで組んで、碧は少しだけ沙耶香の方に身体を寄せる。今はまだもう少しだけ、沙耶香と楽しく過ごせるこの時間を噛み締めていたかった。

 

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