強き者は強き者を追いかけるそうです。
1人の男。轟脚の勇者とゆう2つ名をもつSランクの剣士、ライザ・ザイウスはこの街で起きた2つの怪事件の現場を見終わり、酒場でエールを飲みながら犯人を考察する。
1つは路地裏での惨殺。1人の男は拳程の穴をみぞおちに開けられ、その後方に7人の男がせり出した壁に潰されていた。恐らく術式による物質干渉だと思われる。
もう1つは町外れの廃協会で起きた。この街に駐屯する騎士団長の娘と1人の騎士が被害者だ。1つ目と違い身分の高い人物と言う事も有り、こちらは既にかなり調査を進められていた。
騎士の死因は頭部損失。1件目のみぞおちに穴を開けられていた男と似ている。もう1人の少女は大きな切り傷による失血死。だがこの2つとも特筆すべきは死因では無く、その死体の状態だった。
「全身を埋め尽くす程の切り傷。割れた試験管·····試験管の中身が原因?切り傷は中身による効果なのか?それとも精神錯乱などにより当事者達がつけたのか?」
どちらにせよ凄まじい薬だろう。無数の切り傷を生む薬など前代未聞、精神錯乱の線はありうるがここまで猟奇的な行為をしてしまうような代物は聞いた事がない。
男は戦闘職の勇者だ。本来殺人事件の考察など一切しない。しかし、この事件の犯人は恐ろしく強いと思われる。そして、今この街に居る者の中で最も強いのは自分だ。つまりこの男は犯人を考えるのは勿論、それとどう戦うかを考えているのである。
「単純だが高出力の物質干渉·····」
「まるで蒸発したかの様な断面の人体·····」
「前例の無い、未知の薬品·····」
男は自分の考えが正しい可能性が高いと改めて思う。現場を見て回った時からもしかしたらと思っていたのだ。そしてつい最近、近くの王都で新たな『SSランク』が産まれた事も当然知っている。
錬金術師·····それも最上位クラスの奴が犯人の可能性が高い。そして最近まで最上位の錬金術師が近くの王都に居た。
『破滅の錬成者』·····ライザは標的の2つ名を思い浮かべ、同時に自分の人生に『2つ目』の山場が訪れた事に歓喜する。
「錬金術師のSSランクか·····」
細く、鋭い目がギラりと輝く。
「錬金術を極める者か、となると『呪い』は手か?」
短く切り揃えた自らの赤毛を左手で軽く握る。
「確か少女だったか?だとすれば『採取』できる量は少ないか·····」
男は自らの足、黒い地竜に『似た質感』の皮と鱗で出来た足具を撫でる。これは彼が轟脚の勇者と呼ばれる所以の物で彼が名のある勇者である証拠だ。
「何が作れるかなぁ·····楽しみだなぁぁ····」
普段は真一文字に結ばれている口がだらしなく緩む。彼は人類の到達点、『Sランク』の1人。さらに言うとSランクの中でも更に1握りである『SSランク』を討伐した者。
その日の昼過ぎ、街の東門にライザは居た。付近の住民と衛兵が2件目の事件の夜、2人の人影がそこから出ていったとゆう話があったからだ。
軽くストレッチをする。本来なら仲間を連れて討伐するのがセオリーだが、今回の獲物は独り占めが望ましい。
「さて、走ろうかっ!!」
ライザはクラウチングスタートの構えを取り、脚に力を込める。すると足具がギチギチと締め付ける様な音を立て僅かに膨張する。
1歩目を踏み出す。その瞬間、彼に踏み抜かれた大地が爆ぜ、ライザに人外の加速を与える。
『足』の次は『手』か、ダブらなくて良かった。これでまた剣士として強くなれる·····