路地裏は錬金術師の独壇場だそうです
路地裏に1人の少年、ルイ・デライルは居た。
「はぁ、やっぱりこうなるよな。」
彼の視線の先には下限突破のバカ娘と彼女を囲うように並ぶ8人の男達が居た。
「こいつは凄い。売れば大金は間違いないな!」
「その前に俺達で味見しましょうよ!」
リーダー格の男の言葉に周りの奴らから下品な言葉が続く。何一つ彼女の救いになるような言葉は無い。そして彼女もようやく状況を理解したのか無表情のまま呆然と立ち尽くしている。
「さてと、それじゃあさっさと連れ帰ろう。大人しくしてれば痛い目に合わなくて済むぞ?」
リーダー格の男が手にもつ直剣を見せつける。
もう今しか無い。俺は産まれてから1番の勇気を振り絞り彼女の元へ駆け出す。
「なんだてめぇ?」 正面の男が聞いてくるが答える事無く体当たりで突き飛ばす。そのまま少女の手を取り男達の輪の中から抜け出す。
「ちょっと!いい話が有るってゆうから待ってたのよ!」 まじかよこいつ。怖くて動けないんじゃなくていい話とやらを信じて待ってたのか?!
「あのなぁ?、お前は騙されてたんだよ!いい話なんて無い!あいつらはお前を誘拐しようとしてたたんだよ!」
えっ?、と分かりやすく驚く彼女。下限突破のバカ娘はようやく騙された事に気づいたらしい。するといきなり少女は止まった。走っていた状態から凄まじい力で急停止したのだ。当然前を走っていた俺はそのままつんのめり顔から派手に転ぶ。驚き半分、苛立ち半分で顔を上げると男達と彼女は既に向き合って居た。
「私を騙したそうね。」
彼女の言葉に男達は答えない。変わりに各々が得物を握りしめながら近寄ってくる。1人の男が彼女の正面まで近いた。何とかしなければ·····と腹を決めた時、彼女は正面の男に向かって小さな手を握りしめそのまま拳を男に『突き刺す』。
「えっ?」それが男の遺言となった。
彼女の拳はまるでナイフのように抵抗無く男に突き刺さったのだ。それを普通の事だと言わんばかりに無表情で彼女は拳を引き抜く。
「私の貴重な時間を無駄にしたのだから死ぬ事はもう覚悟しているのだろ?」
彼女の時間を無駄した=死が彼女の常識らしい。俺も含めて全員が狂気による言葉だと受け取っていたが男達の中の1人がその意味を理解し、己の記憶の中から彼女の存在を引っ張り出す。
「ま、まじかよ·····こいつ、もしかしてSSランクの『破滅の錬成者』なのか!?!?」
「破滅は錬成出来んだろ。私が創るのは物だ。」
俺は驚愕する。人類の到達点であるSランク。SSランクとはそれの上。つまり人類の範疇を超えた者達の事を言う。その多くが人類とゆう種に関心を持たず、自らの為だけにその絶大な力を振るう。ひたすら走り続けたいと願ったSSランク『走るテロス』を城壁の門番が止めてしまった為に城壁をぶち破り、そのまま直進(家屋等の障害物は全て体当たりで崩した)反対側から出て行った等その多くが人類にとっての脅威だ。
『破滅の錬成者』と言えばつい最近近くの王国でSSランク指定を受けた錬金術師だ。なんでも王城全体を形状変化させ巨大なゴーレムを作ったが「デカすぎてつまらない」とそのまま解体(爆発四散)し、その破片により王都中心部に絶大な損害を与えたらしい。
SSランクに殺意を向けられた事に気づいた男達は一目散に逃げ出す。しかし、彼女は殺すと決めた相手を逃がすことは無かった。
「路地裏は錬金術師の独壇場だ、覚えて損は無いぞ。」そう今から殺す相手に『破滅の錬成者』は言うとしゃがみこみ片手で地面に触れる。と、次の瞬間路地の壁が左右から飛び出し男達全員を真ん中で叩き潰す。目の前で起こった1連の出来事を前に俺は動けずに居た。そんな俺に『破滅の錬成者』は向き直ると。
「君が居なければ私はまだ奴らの嘘に付き合わされて居たかもしれない。ありがとう、嘘だと教えてくれて。」キリッとした顔に満面の笑みを浮かべてお礼を言ってくる『破滅の錬成者』。恐怖を抱くには充分なその立ち姿に、どんな男でも惚れてしまうような愛らしい笑顔が張り付いてる·····
「まあ、助けになれたなら良かったよ。
」と何とか言葉を捻り出す。
「所で君の名前を聞いてもいいかな?」
「俺の?、えっと·····ルイ・デライルだけど。」
「ルイか、呼びやすいな!私はルミナ・ライフィエルだ、しばらくはここに居るから困った事があれば声をかけてくれてもいいぞ!」
そう言い残し『ルミナ』は去っていく。
「あー、もうこんな時間か。早く帰らなきゃ。」
とりあえず帰ろう。こんな滅茶苦茶な事は寝て忘れるのが1番だ。そう思い彼は平凡な雑用係としての日常に戻ることを決心したのだった。