第十九話 男たちのタマ遊び ~デカけりゃいいってもんじゃねえ!!俺の棒を見ろ!てめえの穴にブチこんでやる!!秋の大拡張スペシャル~ ②了
「よーし! かましてやるぞー!」
「バッチコーイ!」
かくして野郎ども二人の対決は大公館裏の練兵場の隅で始まった。
ルメスは手のひらに収まるほどのゴム球を右手に握りしめ、左手でそれを隠している。
対してヘルメスのほうは少し相手と距離を離した位置で削り整えられた長めの木の棒を構えた。
壁の所に四角い枠を描いてあり、その傍らに立つ。
恐らくではあるが、あの木の棒で枠の中に投げられてきた球を打つ球技なのではなかろうか。
先ほどまであれやろうこれやろう、やいのやいのと言い合っていた末にルメスのやりたいと言ったこれをすることに決まったらしい。
妙に自信たっぷりに「オレ得意だから」と少年の見た目相応に見える無邪気なアピールをしていた。
ちなみにモリーは木の影から顔を出して二人のやり取りを見ている。
古式ゆかしい見守りポジションだ。特にこの球技においては。
「ちゃんとやれんのかあ? ヒョロい球投げてきたら笑ってやるぜえ」
「任せとけって。さあて、まずは肩慣らしで軽ーく……」
大公ルメス、セットポジションについて動作開始。
「必っ殺!! 魔球タスラム!! 砕けろォ!!!」
全力での投球をかました。鍛えられた完璧なフォームから繰り出される神速の剛速球だ。
およそこの星の人類がこれまで一度も目にしたことのないであろう速さで飛んでいくボールの軌跡は、傍から見ていると真昼に見る箒星の如きインパクトであった。
「おわあぁ!! うぼっはあっ!!」
その弾丸めいた球が急に軌道を変えて曲がり、ヘルメスに向かっていく。そしてそのどてっ腹に直撃。
たまらず腹を押さえて腰だけ上がったままその場にうずくまった。
「おしい。もう少し下だったか」
事も無げにそう言ってのける。一体こいつはどこを狙っていたというのか。
金か。金を狙ったのか。黄金卿だけに。
「説明しよう。魔球タスラムとは、時速百六十キロメトロン越えの球速を誇る、変化球だ。上下左右、浮かぶも沈むも自在に曲げられる」
「お、おまっ……。これ、球が、ゴムじゃなくて、相手が俺じゃなかったら、死にかねねえ、ぞ……」
ゴムといっても中身が詰まってるんで割と硬い。つまりメチャ痛い。
「ああ、そうだな。だから投げたんだ」
「この悪魔め……」
ルメスは悪戯をするときの猫のように瞳を暗く煌めかせ、三日月のような口で笑った。
「ただこの球にも弱点がある。主にオレの体力の問題で十球しか投げられない」
「三十球肩ならぬ十球肩か。お前筋力それなりにあるのに体力は無いよな」
山登りでもへばってたし、普段運動している様子もそのための時間的余裕も無さそうだ。
「というわけで。あと九球、受けてもらおうか」
「待てっ! マジで待て! 他のやつやろう他の! 身体が持たん!」
また腹に、あるいはもっと大事な部位に食らってはたまったもんじゃない。
なんとしてもやられるのは避けたいところだ。
ルメスはしょうがないなあと渋々それを了承した。
それで次の対決だが、今度は大きめのボールを用意してそれをヘルメスが地面に置き、ルメスのほうは壁一面に描かれた大きな四角の図形の前に陣取った。
どうやらボールを蹴って四角の中に叩き込む球技であるらしく、もう一方はその妨害役ということのようだ。
「今度は俺様得意の種目だ。刃のような切れ味の球を叩き込んでやるぜ」
「こいやージジイー」
気の抜けたルメスの声を気にせず、ヘルメスはボールに足を置いてから離れ、助走をつけて思いきり足を振り上げてからボ-ルを蹴り飛ばした。
「いけえっ!! タラリアシュートぉ!!」
ボールが大きい分、先ほどの魔球タスラムに勝るとも劣らぬインパクトを見せつけて砲弾のような勢いでゴールへと向かっていく。
それにはヘルメスの闘志と熱血と怨念がたっぷりと込められて、爆発的な推進力を発揮していた。
「ほいっと」
そして次の瞬間、ボールはルメスの片手にすっぽりと収まっていた。
キャッチしたのではない。持ち上げている。
いつの間にかボールが手のひらの上へと移動していた。
「おいぃ!! 運動エネルギー無くして転送するとか反則だろ!!」
「だってあんなの受けたら指が折れるもんよ」
突っ込み入れてもどこ吹く風。ずるいやつだ。
「ええいもう! じゃあ今度はお前蹴れよ! 交代だ交代」
「よしわかった」
次は二人の位置を入れ替えての仕切り直しと相成った。
いくぞーと気だるげに言うルメスに対してヘルメスの方は今度こそこいつをギャフンと言わせてやるとばかりにやる気満々だ。
ルメスは助走をつけてボールをヘルメスへと蹴り飛ばした。
「必っ殺!! 蹴球タスラム!!」
「うおおお!! おぼふぁああ!!」
ヘルメスくん吹っ飛ばされた。
それからしばらくあれこれ遊んで、いろいろ疲れた二人はベンチに腰掛けてダレていた。
モリーがコップに汲んできた水をヘルメスに差し入れている。
「それで、結局新しい球技って何をするんですか? さっきやってたやつをやるんです?」
そういえばそういう話だった。
ヘルメスはどうするか全く考えていなかった。
「どうすっかなー。そういやゴムにしてもゴムノキ持ってきて栽培するなりしないと安定供給できないし、老化防止剤も作っていいもんかどうか……。正直今遊ぶために作ってきただけで普及させるためのもんじゃないんだよなー。今ある道具だけですぐに始められるようなもんって何かあんのかねえ」
割と後先考えていない。刹那の享楽に身を委ねている。
どっちのやつの方が国に浸透するかなあ、と今更ながら頭を捻って考え込んでいた。
「それなんだけどな」
ここでルメスが声を上げた。何か考えがあるようだ。
新しい国を立ち上げるのに尽力した経験を今回の案件でも是非とも生かしてほしいところだ。
「オレがこれまで国にもたらしたものは、消毒液と軟膏を除いて国内か、あるいは世界のどこかでもう発明されていた技術とかをかき集めてきたものだけだ。消毒液にしても、作ったのはすでに蒸留の技術が生まれていたからだったし、軟膏も主成分の配合は魔法使いたちが発明していた。オレがゼロから作ってもたらした技術は一つとしてこの国には存在しないんだ。ああ、衛生という概念は別だったな。不潔なのは嫌だし、それは必要だったが」
「つまり?」
「人を集めて道具だけを渡して、どんな球技が生まれるのか見てみよう」
「それだ!」
ということになったのである。
翌日。軍事担当のオリエに大公家の軍隊から手の空いている兵を集めてもらって、ボールや棒など道具を渡してどんなものが出来上がるのか観察することになった。
ヘルメスがその経過を見て、ルメスたちは時間をおいてから結果を聞きに行くことにした。
しばらくして様子をうかがいに球技を作っている会場である練兵場の方へ顔を出に行ってみた。
「よう。どんな感じだ?」
腕を組んで兵たちをじっと見ているヘルメスに声をかける。
「ああ、来たか。それなんだが……」
兵たちの方を見るように顎で促す。見れば兵士たちはなにやら手に手に木の棒を握って立っているようだ。
それはマレットというポロで使われるボールを打つための道具であった。
兵士たちは用意されたボールの中で一番小さなものをマレットで打つ。
打たれた球が地面に掘った穴の方へと転がっていった。
どうやらそのようにして誰が一番早い手番で球を穴に入れることができるのかを競っているらしかった。
「なあ、これって……」
というわけで。この国に球を棒で突いて穴に入れる新たな球技、ポロカディが誕生した。
すでにポロという球技が存在する以上、それを土台にした新球技が生まれるのは半ば必然であるとも言えた。
そしてこれはのちに国内でブームを起こし、大人から子供まで夢中になるスポーツになった。
ただし掘った穴で転んだりする人が増えてきたため、一部地域では禁止されることもままあったそうだ。
今回の話は球技に関することである。
ルメスとヘルメス。二人がそれぞれ得意とする球技は歴史の表舞台に立つことなく、流した汗が風で渇くようにして霧散し時間の影へと消えていった。
つまり今回の顛末は、あるいは飛んでいったボールのように、ときに物事がどこへ転がってゆくのか分からなくなる、というお話なのであった。




