第十九話 男たちのタマ遊び ~デカけりゃいいってもんじゃねえ!!俺の棒を見ろ!てめえの穴にブチこんでやる!!秋の大拡張スペシャル~ ①
「球技やろうぜ!!」
夏とんで秋。昨年アドリオスを散々叩きのめしたおかげで今年は戦争の準備に追われることも無く気楽なものだ。
そんな昼下がりのまったりした時間にこれだ。
静寂を切り裂くどころか散弾仕込みの大砲をブッ放す勢いで執務室の扉を開けヘルメスは開口一番に言い放った。
モリーは驚きルメスは机に向かって書類をカリカリ、アリトに至ってはアマイに淹れてもらったお茶を持ってきて飲んでいる。自分だけ。
人にわざわざお茶を勧めたりはしないのがアリトだ。飲みたきゃ勝手に飲めというスタイル。
「なあーやろうぜ球技ー。楽しいぜー。今のこの国には娯楽が足んねえんだよ娯楽がー。やるやつ見るやつみんな楽しめるし金になる。やるっきゃねーよー」
机に手を置いて駄菓子をねだる子供のように猫なで声をする気色の悪い老人がいた。
そんなヘルメスに対してルメスは書類に印章をはぁーぺったん。
「ヘルメス、お前ってさ……競技の権利関係で揉めて殺されそうな名前してるよな」
「なんてこと言うんだこの野郎」
悪戯猫の笑みが鬼瓦めいた苦々し気な髭面に突き刺さる。
「球技、球技……。うちの国ってどんな球技がありましたっけ?」
砂漠育ちのモリーにはいまいち馴染みのないものだ。
古代のボールは羊毛などの繊維を布や革に詰めたものであった。
ラクダの毛や兎族自身の抜け毛くらいはあったが、それらは服や寝具にテントといった生活必需品に加工され、遊び道具に使えるほど生活に余裕はなかったのである。
「そこだよ! 今コスモニアには球技と言ったらせいぜいポロしかねえ。そんなの馬持ってるやつじゃないと参加できん。種目の幅が無いんだよ幅が!」
ちなみにポロとは馬に乗りながらボールを丁字型の棒で打って転がし相手のゴールに叩き込む四対四の球技である。
四対四といえど一人につき一試合馬を四頭まで交代させながら行うので、一般人には非常に間口の狭いスポーツであった。
なおベリル公の賭博場ではオーナーの演出によって大音量の音楽を鳴らしながら行われる派手で興奮度の高いギャンブルとなっている。
「というわけでだ。今日はそんな現状を打破すべく、秘密兵器を用意してきたぜ!」
ヘルメスがそういえば背負っていた鞄の口を開けて中からなにやらボールのような球体の物を取り出した。
「……! おお! これもしかしてゴムか! よくこんなのあったな」
「へっへっへ。ずっと西の海を越えたところにな、群生地があんのよ。こいつがあれば球技界に革命が起きるぜ」
「お前なあ。ジャガイモとかトウモロコシとかコスモスとか、向こうからなんでもかんでも持ってき過ぎだろ」
「それを最大限利用している奴に言われたくねえよ。おかげで国名決まったんじゃねえか」
コスモニアの国名は宇宙的秩序を意味するコスモスという言葉をもとに命名された。
同じ名を持つ花をヘルメスが遥か彼方の海の先から持ち帰り、ベルゼルが気に入ったのがきっかけであった。
以来秋桜の花はコスモニアの国花となったのである。
「ごむ、ってなんです? 丸くて、茶色い。革みたいですね」
「おお、ほれっ」
ヘルメスはゴムボールを床に叩きつけると、跳ね返ったボールがその手に再び収まった。
それを見たモリーの目が望月のように丸くなり耳をぴんっと立て魔法!? と言ってボールを凝視していた。
「うははは。いい反応だ。おっとそうだ。おい、せっかくだしこいつを使ってちょいと遊んでみようぜ」
ボールをポンポン上に投げてはキャッチしてルメスに誘いをかける。
「仕事中だっつーの。やりたいなら壁打ちでもしてくりゃいいじゃん」
「お前四六時中仕事じゃねえか。たまには休めよ。いい気晴らしになるぜ。……それともなにかい? 俺様に勝つ自信が無いのかなボクちゃんは?」
人差し指の上でボールをくるくる回し安い挑発を投げかけた。
少年の瞳がキラリと輝きその口にニヒルな笑みを浮かべる。
「――ほーう抜かしたな? 冷や水が茹だったかジジイ。上等だ。その髭に絡みついて取れなくなるまで球をねじ込みまくってやる」
「かかってこいやとっつぁんボーヤ。俺の必殺技、アルゴス殺しが火を吹くぜ」
ルメスは立ち上がって腕をグルングルン回し、そうやって二人は執務室から出ていったのだ。
「お仕事どうしよう……」
モリーが途方に暮れていると扉の先からヘルメスが「モリーちゃんもおいでー」と呼びかけてきた。
どうするか迷ってアリトの方を見れば、アリトはお茶の残りをコップから口に流し込みながら、ひらひらとこちらへ手を振っていた。
そんなわけで今日の午後は男たち二人の球遊びに付き合うことになったのであった。




