表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/151

第十八話 男たち ③ 龍狩りの英雄

 六年の月日が経ち、ファリーは十八歳になった。

 既にアプロディテの戦士養成施設での戦闘訓練も全ての項目をクリアしていた。

 今となっては遊び飽きた玩具をたまに眺めるように、気晴らしに身体を動かしたいときだけ少しだけ利用する程度になっていた。

 兄は結婚して子供が生まれている。妹ももうしばらくしたら嫁に行くだろう。

 自分もきっともうすぐ適当な縁談を受けて家を出て、相手の家の仕事をするか通いで実家の手伝いを続けるのか、そんなふうになるんだろう。


 このときは漠然とそう思っていた。妹が、国の兵士に連れていかれるまでは。


 森で気晴らしをして帰った時には妹はもういなかった。

 頭を抱えてテーブルに伏す両親に事情を聴くと、妹は南方のカーミスとの国境で暴威を振るっている邪龍ザハーグの生贄に選ばれたらしい。

 国から言われてはどうすることもできず差し出す他に方法がなかった。

 拒めば牧場や財産は没収され兄嫁も連れていかれて、残った一家全員火刑に処されるだろう。


 どうすればいい。妹を助けることはできないのか。

 こんな突然に、理不尽に、家族が殺されてたまるものか。

 何か方法は無いか、自分には何ができるのかを考えたとき、ふと思い浮かんだのはあの施設のことだった。

 そうだ。あの施設で自分は遊びのつもりだったとはいえ何年も戦闘訓練を続けてきたんだ。

 それに学習装置で知ったところによるとあそこには……。


「俺に考えがある! 兄さん、家のことは頼んだ!」


 待てどうするんだと引き留める声を尻目にファリーは森へと駆け出した。

 家と両親のことは兄がいればなんとかなるだろう。自分が次男なのは都合がよかった。

 暗くなった森の奥の施設に入ると、明るい照明の光が自分を照らす。この光の先に希望があればいいのだが。

 訓練室の奥の壁へと大声で呼びかけた。


「龍を倒せる装備が欲しい! 実戦用の装備一式をくれ!!」


 家族がいるから国とは戦えない。ならば、妹が殺される前に邪龍を殺すしかない。

 要求に応じせりあがってきた壁の中にある槍と装甲戦闘服を目の前にしてファリーは決意を抱くのであった。




 テオニアとカーミスとの国境の街。そこにある元々神殿だった建物を奴隷として連れてきた建築家に改築させてできたペイヴァル宮殿。

 そこの内部の大広間で未知の素材でできた防護服と兜を身に纏い十字に展開した槍を構えた戦士が、六枚の翼のある黄金の巨龍に対峙していた。

 守るべきもののために龍に挑まんとする人。自らの欲望のため人を蹂躙せんとする龍。

 二体の雄は同時に動いた。


 ザハーグは右腕を振りかぶりその鋭き爪で相手の小さき肉体を微塵に引き裂こうと振り下ろす。

 ファリーは身体を一度自分の右側に揺らめかせフェイントをかけてから叩きつけられる腕を避け、相手の右腹へと脇の下からくぐり抜ける。

 すかさず腹を叩き斬るべく槍を振り下ろさんとする。

 だがその時なんと、いきなり脇腹にまるで模様のように大きな目がいくつも現れた。


 龍族の龍の姿は魔力の鎧で自らを包み込んだもの。

 そして変身した後ならばその鎧を別のものへと再変化させられる。かつてメアリーに見せたことだ。

 ザハーグは胴体を変化させて目を生やすことで死角に視覚を得たのである。

 龍は感覚器まで増やすことができるのだ。


 ファリーは攻撃を中止し咄嗟(とっさ)に距離をとる。

 この判断は正解だ。次の瞬間胴体から幾本もの触手がファリーを貫かんと飛び出してきたのだ。

 これも龍体の変化の応用である。上下左右からいっせいに襲い掛かってくる。


 だがファリーもこの程度の事態への心構えはできている。六年の訓練は伊達ではない。

 流麗な足さばきで下段への攻撃をかわし、上段からの攻撃には自分の首を軸にして槍を回転させ舞うように触手を斬り裂いていった。

 その技すでに達人の領域。学習装置及び実戦形式の立体映像との戦闘は素人を短期間にこれほどの戦闘功者へと成長させていたのだ。

 回転する槍を肘、そして腕へと送り、勢いそのままに正面で回転させて床ごと下の触手を斬る。


 そこから棒高跳びのように槍を支えにしてジャンプ。その高さ実に六メトロン。

 空中で二回転しながら龍を斬りつけその背に着地して更にもう一撃突きを食らわす。

 触手を生やして反撃されるであろうことを予測して間髪を入れずに突き立てたままの槍を滑らせるようにして反対側へと駆けて行き、ザハーグの背を袈裟(けさ)斬りにしてやった。


「オオオッ!! おお!?」


 ザハーグはすぐさま反撃しようとするが身体がうまく動かない。

 斬られたせいかと思い魔力の鎧を修復しようとするもなぜかうまくいかなかった。

 それもそのはず。龍を倒せる装備と願って手に入れたファリーの槍は特別製だったのだ。


 (すなわ)ち魔力を、そしてあらゆる物質を断つことのできる神槍であった。

 先ほど触手を床ごと斬ったのもこの槍の性能のおかげである。

 この槍に斬れないものはほとんどない。それこそ神代の神器でもない限りは。

 こんな代物もちろん扱いを誤れば恐ろしい事故が起きてしまうだろう。

 どんな盾でも防げない。だから鞘が刺さり過ぎ防止のストッパーの役割を持っているのだ。

 あの訓練施設の戦闘項目はこれを使いこなせるようになるために組まれたものであった。


 龍体を動かすのが難しくなってしまったザハーグはそれならばと全身から毒の煙を放出した。

 国境地帯を不毛の大地へと変えた死の霧である。これに当たって生存可能な生物など存在しない。


 だがしかし、ファリーは健在であった。しっかりとした足取りで構えを取っている。

 これは装備している防護服の恩恵によるものであった。

 この服はあらゆるダメージから肉体を保護し、生物や毒などの影響も防ぐどんな防具よりも優れた鎧兜であったのだ。

 防護服を着ている限りザハーグが全力で毒物を生成してもファリーに届くことは無いし、よほどのクリーンヒットでもなければ致命傷を負うことは無いだろう。


 それでも油断することはできない。自身にその致命傷をつけられる数少ない相手がまさに龍なのだから。

 次の攻め筋を見極めるべくザハーグの動きを追う。

 するとよく見れば、左腕が少しぎこちない動きをしているように感じられた。

 もしや何らかの怪我でもしているのだろうか。それに賭けてみるか。


 ファリーは(おのれ)の身体を弓と定め、握りしめた槍を一筋の矢と心得る。

 深く沈み、足をねじって弦の如く引き絞り、そして決断的に、放つ。


 渾身(こんしん)の力を込めた神速の突撃(チャージ)。狙うは龍の心臓なり。

 そこにいるであろう本体を刺し貫くべくザハーグの左脇腹へと全身を叩き込んだ。


「グッ! ガアアアアアアッ!!」


 届いた。ザハーグがより身体の奥へ逃げる。即座に追撃する。

 槍を振り回しその奥へと掘り進むように滅多斬りに進んでいく。

 魔力の鎧がぶつ切り状態で剥離(はくり)していく。もう少しで本体までたどり着けそうだ。

 だがザハーグも抵抗する。龍体から切り離した部分を蛇や蜥蜴(とかげ)(わに)などに変えてファリーを襲わせる。

 しかし全身くまなく防護服や兜でガードしているファリーに隙は無かった。

 先ほども述べたが生物にも耐性があるのだ。妨害はほんのわずか斬り進む速度を遅らせただけに過ぎなかった。


 ついに龍体の奥の本体へと到達した。

 その姿を見るや否やファリーはザハーグのその首と心臓と肝臓の位置を狙って三段突きを放った。

 血がはじけ飛ぶ。自分と変わらない赤い血が。

 ファリーに浴びせられた返り血が、毒をすべて押し流してゆく

 そして刺し貫かれた部分から噴き出す血の勢いに合わせてザハーグがびくんと揺れると、龍体が、彼を覆っていた魔力の鎧が霧散するようにして消えた。

 倒れ伏すザハーグにファリーは冷たく言葉を言い放つ。


「妹は……連れてこられた人たちはどこにいる」


「……はあっ、は、は。腕が、やられて、いなければ……防げたんだが、な……」


「どこにいるんだ!!」


「この、奥だよ……。ああ……もっと、殺したかったなあ……」


 ファリーはザハーグを置いて奥へと進んでいった。

 致命傷だ。龍だろうが何だろうが、もう助からない。

 それよりも妹の元へ早く行きたかった。


「……。……どこ、だ? メアリー……セアベ、ル……。どこへ、行った、んだ……」


 その声はもう、誰にも届くことは無かった。




 宮殿の奥に、妹はいた。

 彼女は愛する家族である兄を待っていたのだ。


「マリア……」


 ファリーは妹を、マリアを血まみれのその腕で抱きしめた。


 その腰から下には、何も、無かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ