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第十三話 魔の森の音楽祭 ①

 王都を流れるティグラト川に沿って北上していくと、遠く地平線の彼方から北方に広がる大山岳地帯の頭が見えてくる。

 山々の頂上部を覆う万年雪のヴェールが少しずつ流れ落ちて雫となり、湧き出してくる地下水と天地で交わることでコスモニアに流れる二つの大河、ティグラト川とプラテス川を生み出す源流となっている。


 そして山へ至ろうと歩を進めれば、その手前に行く手を遮るようにティグラト川上流からプラテス川上流までの広大な範囲まで広がるコスモニア最大の大森林、通称魔の森が広がっている。

 濃厚でたおやかな緑の深海の如く木々や苔、シダ植物が生い茂るそこには森全体に水と共に山から流れ川に混ざって染み込んできた豊潤な魔力が満ち満ちて、夜や暗がりでも淡く白い光が森を蛍のように燦爛(さんらん)と照らす。

 幻想的とも蠱惑的ともいえる光景が人々の心に畏怖をもたらし、故に深く入れば戻ること叶わぬ不帰の森であると遠い父祖の時代より語り継がれている。


 そんな魔の森の近くには隣接する五つの貴族家の領土があり、この秋そのうちの一つ、馬族のアムドゥス子爵の統治するカルタノスの街で音楽祭が開かれることになった。

 建国以来第十回目となる記念すべきこの祭典に、子爵から今年も招待されて毎年来てるルメスと初めて来るモリーは町を訪れたのであった。




 ルメスとアムドゥス子爵との関りは三十年前より始まる。

 当時ベルゼルとルメスはテオニアを打倒するための拠点として大山岳地帯の西端、プラテス川上流側の魔の森を越えた先の開けた渓谷に野望の町を作っていた。

 戦うためにも先立つものが必要である。彼らはまず財力を身につけるために秘密裏にエリアスとの交易ルートを開拓した。

 そして取引に使う商品を仕入れるために、農奴として木こりの仕事をしていた馬族たちの取りまとめ役であるアムドゥスに接触した。

 彼らは他の農奴に落とされた種族たちと同様に貧しい暮らしを強いられており、領主の方針で食料などは配給制となっていて少量しかもらうことができずにいつもひもじい思いをしていた。

 

 ルメスはそんなアムドゥスたちに森の木を使って家具の製造をしてみないかと提案した。

 出来上がった家具を買い取ってエリアスや海路を通ってカーミスに売り、儲けたお金で食料を仕入れてくるからそれを買って食べればいいと。

 木工の技術を持っている人がいないと言うと、ルメスはとこからか木工職人を勧誘して連れてきてアムドゥスたちの指導を任せた。

 信じていいものか疑問ではあったが、餓死者が出るほどに後の無かった彼らは駄目で元々と必死になって技術を身につけて家具の製造を行った。

 そしてルメスは約束通りに家具を買い上げて大量の食糧を運んできて彼らに売り、馬族たちは飢餓から解放されたのであった。


 この取引は馬族が助かっただけではなく、商品と利益と交易商人や諸外国へのコネ、そして大勢の木工職人の味方をルメスたちにもたらした。

 戦争の際にどれだけ木材の加工技術を持った職人の力が必要になるか想像してみてほしい。

 槍の柄、弓矢、馬車、輸送用の木箱に至るまでの様々な軍需品を製造できる技術者集団の確保。

 ルメス本当の狙いはこの先起こる建国戦争に備えて職人を育てることであったのだ。


 次にルメスは別の農奴の集落でも同じ商売を持ちかけた。

 そして同じ家具でも他の集落と比べて出来の良い物は特別に高値で買い取るようにした。

 これを聞いて他より良質なものを作ろうと奮起した彼らは競い合って腕を高め、全体の品質が見る見るうちに向上し、家具は外国で高値で取引されるようになっていった。


 ただ木材の消費が激しくなってきたことで森林の伐採が過剰に増加していることが懸念された。

 そこでルメスは今度は植林技術を持った職人を連れてきて技術の指導と植林を行わせるようにした。

 ここで技術を学んだ職人たちは後々国の各地に派遣されて、禿山の植樹や製鉄所の伐採の後のケアなどに活躍するようになっていくのだった。


 商売するようになってから十年と少し経ったころ、アムドゥスから他にもっと稼げそうな儲け話は無いだろうかと相談を受けた。

 食料を得られるようになってからというもの人口が増えてきたことと、ライバルである他の集落に食い扶持をとられるのではないかという焦りが彼を悩ませていたのだ。

 ルメスは少し考えると、それなら楽器を作ってみてはどうだろうと言った。

 それで今度は楽器職人を連れてきて、木材のほかに必要な素材、打楽器に張る革や弦になる羊の腸と麻糸などを仕入れてアムドゥスたちに売ったのである。

 こうして彼らは楽器作りをするようになったのだ。


 時代が進み、テオニアが滅んでコスモニアになってからはベルゼルたちに協力したアムドゥスは子爵に叙せられ家具や楽器を作っている各集落をまとめて領地として与えられた。

 それからは領の中心にあるカルタノスの街で作られた製品が国中に販売されることになり、高い技術に裏打ちされた上等な品質は多くの好評を得て高額で取引されている。

 以前楽団を作ろうかと話していたアシュタールが購入した楽器類もカルタノス製だ。


 アムドゥスはこれまで領主にばれて税や配給を絞られないようにこっそり隠しながら製造を行い、外国にしか売ることができなかったが自分が領主になったことで晴れて国内で商売できるようになった。

 それを記念して、また商品のアピ-ルにもなるということで毎年晩秋の農閑期に入ったころに音楽祭を開くようになったのである。

 ここまで村人たちを食わしてこれたのも貴族になれたのも職人としての生きがいを得られたのもルメスのおかげであった。

 今でももちろん一番の商売相手である。なので毎回是非にとルメスを招待しているというわけなのだ。




 今年で十回目。音楽祭にはたくさんの人々が訪れる。

 だがその中には集団の影に隠れて、なにやら妙なものが紛れ込んでいたりする。

 魔の森という場所がただの魔力が多いだけの森ではないことを知るものは、実はあまり多くは無いのであった。




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