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第十一話 バルヴェラードの戦い ①

 コスモニア建国十年目の秋。東方の国アドリオスとの六度目の戦い。

 

 過去五度にわたりコスモニアはアドリオスの侵攻に対して防衛戦という形で迎撃し、主戦場は山岳を利用した天然の要害に建てられた北のルナイン砦と南のカラハル砦といった要塞やその中間であるイステージェ盆地という地域に限定されていた。

 二つの要塞とそれに挟まれた盆地は、さながら龍の牙とその口の中の舌のようである。

 やってきた敵を食い破り、勝利を味わうための絶好の地形。

 しかし今回の戦では敵に決定的な打撃を与えんがため、王子レームを旗印に八大兵団大団長ナキアを中心としたコスモニア軍はアドリオスへと打って出ることになった。

 雌雄を決するきっかけの一つとなった大軍同士での戦い。決戦の地は二国の緩衝地帯、バルヴェラードだ。




 この戦いに至る経緯は十年前、のちにコスモニア王となるベルゼルがテオニア王モレクをクーデターによって殺害した時より始まる。

 王を討ったベルゼルらはテオニアの王城を制圧。その勢いのまま国内の多くの王族や貴族らを捕縛したが、一部の者たちは東西へと逃れた。

 だがこれらは国の簒奪を完璧なものにするための布石として意図的に見逃されたものであった。


 まず西へと逃げた者たちはカーミスとの国境沿いの戦争地帯へと向かいテオニアの主軍と合流し、王城の奪還を行おうとした。

 これに対しあらかじめそちらへ送りこんでおいたコスモニアの軍が奇襲を仕掛けて打撃を加えた。

 カーミスとの戦闘の切れ間であったため油断していたテオニア軍は一時混乱状態となるも、すぐに立て直して相手を迎え撃つ。

 時間が経つと形勢は数で勝るテオニアが優勢となった。このまま押し切ろうと軍を進めたその矢先。

 突如として背後からカーミスの軍がテオニア軍を急襲したのだ。

 コスモニアとの戦闘前に一度引いたと見せかけて、時間をおいてからの反転攻撃であった。


 実はこの時コスモニアとカーミスとの間に密約が交わされており、領土の一部割譲を条件に同盟関係が結ばれていたのだ。

 これはルメスがカーミス王アセルの出生を手助けしたことからくる縁によるものであった。

 二つの軍勢からの挟撃を受けてすり潰されるように数を減らしてゆくテオニア軍。

 そこへコスモニアの兵たちからの声を合わせた貴族を出せ、王族を出せの大合唱が響いた。

 これによりついにテオニア軍は降伏し、指揮官らは逃れてきた王族らを縛り上げて差し出してきたので、指揮官らも含めて全ての王族貴族を火あぶりにして処刑した。

 人間神に捧げるという名目で多くの他種族を火に捧げてきた者たちへの因果応報の仕打ちであった。


 次に東へと逃れた者たちはテオニアの友好国であり、婚姻によって血縁関係を結んだ親類縁者も多くいるアドリオスを頼って落ち延びた。

 逃亡者たちは国を奪還するために助力を乞うたが、当時アドリオスは南東の国バラナと戦争状態にあり、国軍のほとんどがバラナとの国境線にあったためコスモニアに兵力を回す余裕が無かった。


 ベルゼルらはこのタイミングを狙ってクーデターを起こしたのだ。

 テオニア軍を打ち破り武力を示すことで国をまとめ上げ、税制の緩和や奴隷制の撤廃などで求心力を得た。

 処刑した貴族たちの代わりも、恭順した元テオニア貴族や野望の町で教育を施し育成した人材を充てることで問題なく国政や軍を機能させることができた。

 この時のために三十年間準備をしてきたのである。抜かりはなかった。

 アドリオスがバラナとの戦いを切り上げてコスモニアに攻め込んでくるまでの間に国のほとんどを掌握して迎え撃ち、敵軍を大いに撃退することに成功したのであった。


 アドリオスへと王族たちを逃がしたのには訳がある。

 これまでテオニアでは人間族至上主義の名のもと他種族を弾圧してきた。

 奴隷制を撤廃し、他種族を亜人ではなく人間族と同じ人間として扱うようになったものの、それに対して抵抗感や不快感を持つ人間族と憎悪と嫌悪を(たぎ)らせる他種族との間での軋轢はそう簡単に取り払えるものではなかった。

 そのため国を一丸に取りまとめることができる手段が必要なのだ。そう、戦争という手段が。

 外敵を作りそれに対抗することで連帯感を生みだし、バラバラの種族たちをコスモニアという一つの国民として統合する。

 多種族統合国家コスモニアを作り出すためにはどうしても戦争が必要だったのである。


 テオニアの友好国であるアドリオスとの衝突は避けられない。ならばとこれを最大限利用するために計画を練った。

 コスモニアの大戦略。それはこちらからは攻め込まずルナインとカラハルという殺し間へと誘いこんで敵戦力を削り続ける。

 そして相手が消耗してきたところで決定的な一撃を加えて国家維持も難しいほどのダメージを与え、アドリオスをガタガタにしたところで工作員を使ってレジスタンス組織を作って内部から国を蚕食(さんしょく)していって瓦解させるということ。

 アドリオスを丸ごと手に入れても国土が広くなりすぎて維持できないため、コスモニアに友好的な政権を打ち立てることによって諸外国の矢面に立たせるといった計画である。

 これを完遂するためには全ての戦いで勝利し、決戦を優位な状態で行えるように事を運ばなければならない。

 今回に至るまで五度の戦において勝利を積み重ねることには成功した。

 あとは出撃して敵に大打撃を加えるのみ。詰めの大勝負というわけだ。




 バルヴェラードの戦いにおいてコスモニアの用意した兵力はおよそ六万人。

 コスモニアの限界の兵力はおよそ八万。ぎりぎりまで無理すれば十万弱ほどはいける。

 それに比べると少し少なく思えるかもしれないが、戦略面戦術面を考慮して十分必要な人数を満たしていると判断された。


 対してアドリオスは七万二千の兵力を投入した。これは現在のアドリオスの限界の兵力であった。

 限界であるところを見るにこれまでの戦いで、剣戟で競り負けて体幹ぶれぶれになっている剣闘士のようにダメージが蓄積してきているらしかった。

 しかし兵力自体は乾坤一擲の思いで全力を出している分、コスモニアよりも多いのが脅威ではある。

 だがこの戦いに賭ける気持ちはコスモニアとて同じこと。勝負は下駄を履くまでわからない。


 すべては砂塵舞う茫漠(ぼうばく)の荒野の空が晴れたときに答えが出ることだろう。




 アドリオスの関所、サジャンドの砦より、大軍勢が出立する。

 地面を揺らすほどの軍靴の響きが遠くコスモニアを目指して木霊する。

 そしてその進軍がいったん止まった、最初の夜に。


 コスモニア魔法部隊が夜襲をかけてきた。




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