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第十話 工夫は足りないところから生まれる ①

 アドリオスとの開戦に備えて王都にある武具工廠(こうしょう)へと視察へやってきた。

 ここでは斧槍(ふそう)、短剣、薄片鎧(ラメラーアーマー)、兜といった鉄や青銅製の武具の金属部品を製造している。

 製鉄所から送られてきた鋼を使って、ずらりと並んだ炉の前で鍛冶職人が鍛造を行っている。

 少し離れた位置では出来上がった斧槍の穂先を柄に取り付たり、七つの穴が開いた金属の小札を紐でつなぎ合わせて鎧を作ったりしており、それらの作業は意外なことに女性たちによって行われていた。


 訪れたルメスとモリーに気づいて設計図とにらめっこしていた責任者が顔を上げる。

 見慣れない種族である。虎のような熊のような、白い毛並みに黒い斑点のある変わった顔をしていた。

 彼はルメスが極東からスカウトしてきた技術者たちのリーダーで、名をスーグという。

 初対面のモリーとの顔合わせも含めて一通り挨拶を済ませたとこで顔を掻きながら生産状況を話してきた。


「斧槍の方はなんとか鋼が足りそうなんですがね……。槍騎兵団の分を除けば鎧兜は青銅でいくらか作れるくらいで、基本は硬い革じゃないと無理ですね。短剣は全部青銅製になります」


「そうか。分かってはいたけど素材の確保が難しいのがつらいな」


 ルメスは首に手を置いて渋いものでも食べたかのような顔をした。


「私たちの国って鉄の鉱床が極端に少ないんでしたよね……。学校で習いましたよ」


 大学出であるモリーは国内の事情も学んでいる。

 なぜコスモニアが鉄の専売制を敷いているのか。

 それは公平に分配できるように正確に管理しなければならないほどに資源が不足しているからであった。


「そう。コスモニア最大の弱点だ。アドリオスは逆に鉄はたくさんあるらしい。オレが言うのもなんだけど国家にとっては黄金より鉄の方がずっと価値があると切に思うよ。数少ない鉱床もベリルの奴に握られてるし。まあでもあいつも国が滅んじゃ困るはずだから、さすがに出し惜しみはしていないと思うけど」


「カーミスかエリアスから輸入できないでしょうか」


「カーミスはうちと同じくらい鉄不足だし、エリアスは友好寄りの中立国とはいえあまりこちらの弱みを見せたくないからな。どうにもならなくなったらオレの持ってる砂金を使ってエリアスから輸入してもいいんだけど、できるだけ鉱物資源は外国に流出させたくないし……悩ましい」


 うううと苦悩のうなりをあげてゆらゆらと頭を揺らす。組まれた腕の固さは如何程のものか。


「それでこいつの出番ですよ。どうぞご覧ください」


 スーグは出来上がったばかりの斧槍を手に持ち、斧の部分、三日月のようなその刃を指でなぞった。


「これは私のいた国で使われていた(げき)という武器を改良したものです。槍として突くことは勿論、この月牙という部分を活用すれば斬りつけや薙ぎ払い、あるいは引っ掛けるなどの複数の動作が可能です」


 穂先の片側にのみ鎌のような三日月の刃がついている、青龍戟や戟刀と呼ばれる種類の竿状武器であった。


「これの最大の利点はアドリオスのファランクスが持っている槍の穂先を叩き斬って落とせるということです」


 ファランクスとは兵士が密集隊形をとり左手に持った大盾で互いを守りあい、その隙間から右手に持った長い槍で相手を突く陣形のことである。

 時代が下ると盾役と槍役が別になったり、盾を小型化して両手で槍を持ったりするようになったが、この時代アドリオスでは先述の方式が基本であった。


「連中の槍は五メトロン、対してこちらの斧槍は三メトロン弱で長さでは負けています。しかし片手で持つことを想定して柄が細くかつ軽めの木材を使っており、そのぶん強度が脆弱です。両手持ちの丈夫な斧槍なら簡単にブチ折ることができますよ。槍先さえ落としてしまえば硬い革の薄片鎧だってまず貫くことはできませんからこちらの兵士が生存できる割合をぐっと高めてくれます」


 斧槍をポンポンと浮かせては掴み、手のひらでもてあそんでいる。


「相手の攻撃力を奪った後は構えている盾のふちに月牙を引っ掛けて盾を引き剝がし、槍の部分で突き刺します。こういった理由でこの斧槍はファランクスに有効な武器と言えるでしょう」


 そこまで言うとなにやら興が乗ったのか、だんだん話に熱が籠ってきた。


「そして、何よりも嬉しいのが戦闘後に斬り落とした槍の穂先をこちらが頂戴することができるってところですよ! 戦争は鉄不足をアドリオスから奪って補えるまたとない機会なんです! 相手も折れた端から後ろの兵が持っている予備の槍と交換して戦いますからどんどん落としてがっぽり稼げます。いくつもの利点があるこの斧槍はまったく素晴らしい機能美にあふれていますよねえ……」


 うっとりと斧槍を見つめている。技術者特有の出来栄えに対する恍惚感に浸っているようだ。


「……。……はっ!? しまった! 申し訳ありませんルメスさ、様! また一人で一方的に話してしまいました」


「いいよ別に。お前とも、もう二十何年の付き合いだし。慣れたもんだ」


「はあ……お恥ずかしい」


 斧槍を置くと丸い耳を両手で押さえて身体を縮こまらせた。


「せっかくだ。今ある成果を見せてくれよ。他の武具も紹介してくれないか?」


「いいんですか? 喜んで!」


 落ち込んだかと思ったらすぐに調子を取り戻した。気持ちを切り替えるのが早いらしい。

 彼の設計したコスモニアならではの武具を色々見せてくれることになった。




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