第八話 八大兵団 ③
青の魔導兵団。魔法使いと魔術師によって構成された部隊である。
歴史上個人単位で軍に徴用された魔導従事者は存在したが軍隊規模としては世界初となる。
総勢三百名程度であり八大兵団の中では三番目に少ない兵数ではあるが、千人に一人とされる魔法使いの技能適性のある者と新しい技術である魔術の技術者を教育して募兵して調練したらそれだけ残った形であった。
まず魔術師だが事前準備が必要であり魔法使いほど即座に現象を引き起こせるものではない。
あらかじめパターン化された文様を刻んだ石板などを組み合わせて魔法陣を作る、言わばパズルのピースを組み合わせるようにして描き出す必要がある。
そのため攻撃的な術式よりも防御向きのものが主流だ。
地の利を得るために泥濘や発火の罠を仕掛けたり、風を起こして砂嵐を作ったり水流を操作して水攻めなんかもできたりする。
石板が無い場合でもその場で魔法陣を描けるようにするため、知識を強化するべく軍隊でありながら体力づくりよりも座学が中心となる。
魔法使いは実際に戦闘を行う部隊で、敵軍に対して可能な限り広範囲に影響を及ぼす魔法によって面での攻撃を行う。
このとき個人の適正に合わせて炎や雷の変質、あるいは純粋な魔力をぶつける衝撃の魔法を使用する。
氷の魔法などは地形に影響が出てしまい自軍の戦術のコントロールに支障をきたすため使用しないのが定石だが、突貫で防衛用の陣地を構築する際などには間に合わせの堡塁として氷の壁を作ったりすることができる。
いずれにしても足を止めて魔法を放つ以上は敵軍の正面に向かって攻撃すれば敵の突撃で押し負けてしまうため、側面や背面をとるか、一撃離脱を繰り返すしかない。
ただ馬の数にも限りがあるので移動は基本自前の足で行わざるを得ない。ではどうするかというと。
「トロトロ走ってんじゃねえーーっ!!」
ドッゴオオオオォォンンン!!!
巨大な白色の衝撃波がランニング中の魔法部隊を襲う。
衝撃波が収まり景色が晴れたとき、吹き飛ばされて倒れている者はいても負傷した様子の者はいないようだった。
というのも衝撃波自体は尻をおもいきりひっぱたく程度の威力にしてあることと、魔法部隊が防御魔法を使うことにより透明な障壁で彼ら自身を守っていたからであった。
衝撃波を放った人物はうら若く美しい女性であった。
日焼けした健康的な褐色の肌に凛とした中性的な顔立ちと力強い鮮やかな青の瞳。
白いターバンを鉢巻のようにして巻いた頭から短めの金の髪が輝くその様は、どこかフェルメールの絵画のような印象を抱かせる。
へそを出した白のハーレムパンツに二の腕までの袖の上着、左腕に巻かれた青いスカーフ。
そして手にはブレスレット、足にはアンクレット、首にはネックレスを、いずれも黄金製と思しき装飾品を身につけていた。
青の魔導兵団団長エーシュ。世界最強の魔法使い。ルメスの部下のアマイの娘。
他を圧倒する実力と狂暴さで団員や他の団からも畏れられるコスモニアの最終兵器だ。
「ひい、ひいっ! 団長! もう勘弁してくださいよぉ!」
「もう、もう無理です! 走れません!」
団員たちの悲痛な叫びが口々に上がる。だが。
「甘ったれるなぁ!! 実戦で足を止めればその時点で死ぬんだよ! 血反吐吐いてでも足がもげるまで走れ!! 次はもっと魔法を強くしてぶっ飛ばす! 怠けて戦場で死ぬか! 今私に殺されるか! どちらか選べぇい!!」
発破をかけるように団員たちのいる手前に衝撃弾を叩きつける。土が間欠泉のように吹き上がった。
深々とクレーターができるほどの威力が込められておりまともに当たったら即死するであろうことうけあいだった。
「わあっはあっ! ひいいい!!」
ぱらぱらと降り注ぐ土埃を浴びて団員たちは慌ててわらわらと走り出す。
命の危機とあらば火事場の馬鹿力も発揮できようというものだ。
このように魔法使いたちの調練は走り込みを中心とした体力づくりに終始する。
魔力の底上げをするためのトレーニング法と、戦場で有利な位置へと迅速に移動するための足の強化。
魔法使いはその華奢な知識人じみた肩書きのイメージに反して鍛えられた肉体こそが資本となるのだ。
そして過酷な調練をするのは貴重な魔法使いを戦場で消耗させないようにするためでもあるのだが、もう一つ理由がある。
魔法使いはエリート意識が強いのだ。
国で魔法が認められるようになり専門の学校教育も受けられるようになると、社会的地位を得た魔法使いたちは自分たちが他者にない特別な力を行使できる選ばれた存在であると考えるようになった。
大なり小なり程度の差こそあれ魔法使いは皆そういう意識があり、中には魔法を使えないのに魔導に関わる魔術師を見下すものまで出る始末であった。
個人の意見はともかくとして軍隊ではその考えは有害以外の何物でもない。魔術師たちや他の団、国の各貴族らの軍勢との連携がまともにとれなくなる。
そんな魔法使いたちの鼻っ柱を折ってやるためにも地獄の調練と団長の恐怖で彼らの高慢な自尊心を押さえつけてやる必要があったのである。
「ふぁ~すっごいですねぇ。魔法ってこんな派手なんですね」
ルメスとモリーはそんな団長の活躍を離れた位置から眺めていた。
「あれで威力はかなり抑えられているからな。本気出したらもっとすごいぞ」
「どれぐらいすごいんです?」
「都市が丸ごと消し飛ぶ。うちの国なら都の旧市街と新市街合わせた範囲全部無くなるだろうな」
「えええ!? そんなに!?」
「もっとも実戦で使うことはないけどな。今は将来のために軍隊をコスモニアの旗の元に結束させなきゃいけないから、そのためにあえて戦争継続しているようなものだし。エーシュ一人いれば勝てるなんて認識が広まったらどこもやる気をなくして結束なんでできなくなるから、最後の最後まで戦闘させるわけにはいかない。……なによりあの子には、あまり人を殺させたくないな……」




