表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/151

序 大公爵の秘書とは

 かつて古の時代に大陸の中心に興った国家コスモニア。

 黎明(れいめい)王バアル・ベルゼル・コスモニアが前国家テオニアをクーデターによって打倒し王位を簒奪(さんだつ)することで建国された多種族統合国家である。


 建国後豊富な水量を誇るティグラト川とプラテス川を中心に灌漑(かんがい)農業を発達させた。

 また北西の畜産、北東の鉱業、南西の果樹、南東の繊維といった四方地域ごとの産業も大いに発展した。


 世界で初めての国家規模での魔導技術の研究に乗り出し、得られた成果を軍の強化や都市基盤の整備に活用した。


 人的資源や労働力の確保及び求心力を得るため、奴隷制が始まってからは世界初と思われる奴隷制の撤廃を行い、移民を積極的に受け入れる制度を打ち立てた。

 これによりそれまで奴隷階級であった人間族でない種族にも社会的に同等の権利が認められるようになった。


 国教を定めず信教を任意とし、宗教と政治を切り離す法律を制定した。


 不思議なことに本来このような革新的な政策が施行された場合に起こることが予想される種族間や宗教間の軋轢に関する問題は、なぜか後世の時代に伝わるどの資料にも確認できなかった。




 そんなコスモニアの黎明期におけるいくつもの資料に散見される、とある謎に満ちた伝説的な人物の名前がある。

 大公爵ルメス。建国以前からベルゼルに仕えコスモニア繁栄の礎を築いたといわれる。


 経済活動により莫大な富を得て「黄金卿」と呼称されていたらしい。

 その財をもとに様々な分野の研究施設を作り、それらは科学という概念が生まれる土壌となった。

 学校など教育施設を作り、魔導技術や医学の進歩にも大きく寄与したそうだ。

 本人が書いたとされる医学書、教科書、図鑑などの書物ものちの時代にまで保管されている。

 後世にまで残るコスモニアの都であった場所の、道路が格子状に交差する都市構造は彼の都市計画に基づいて設計されたものであるという。

 商工業の発展にも尽力し、時にはスポーツや楽器の開発にも手を貸したこともあるそうだ。

 

 しかし大公ルメスは近年までその存在はかなり懐疑的にみられていた。

 あまりにも多方面に活躍しすぎているため複数の人物の功績が混ざり合って出来上がった架空の存在ではないかと。

 出自や没年などもはっきりせずどういう経緯でベルゼルに従属したのかも分からない。

 保管された書物にしても筆跡の一致しない、書かれた時代がバラバラなものが多い。

 ただ一番古いものに関しては筆跡が統一されているため、それらのもとになった書物類を書いた人物がいたことは確かだ。




 そのような研究家たちの通説をひっくり返す発見がなされた。

 とある歴史ある家系の屋敷の地下深くからコスモニア初期に制作された絵画と刺繍が見つかったのだ。


 絵画には太陽に向けて王笏(おうしゃく)を掲げる王とそれを礼賛する様々な種族が描かれている。

 そこには王の最も近い位置で(うやうや)しく礼をする黒衣を(まと)った黒髪の人物がいた。

 また刺繍には七本の角らしきものを生やした女性と共に黒髪黒衣の男性が描かれ、男性の下には「ルメス」の文字が刻まれていた。

 二つの作品の黒衣の男性は同一人物と考えられる。年代測定が確かに黎明期に作られたものであると証明すると大公ルメス実在説が一気に盛り返してきた。


 周囲に描かれている人物たちに比べてかなり小柄であることから十代半ばほどの少年に見える。

 だがベルゼル王が五十歳くらいのころを描いているようなので男性がルメスならば少年であることはありえないはずだ。

 建国十年ほどの時代となるため建国以前から共に活動していた者が十代とは考えにくい。

 そこから発想を飛躍させて彼は人間族の長命種だったのではないか、などという学説まで生まれた。

 刺繍に描かれている女性も謎だ。七本の角を持つ種族など存在しない。

 何らかの比喩ではあるのだろうが、いかなる意図あってのことかは不明である。

 ルメスとどんな関係にある人物なのかも含めて議論の的になったのだった。




 大公ルメスには彼を支える多くの部下がおり、とりわけ秘書に当たる人物は彼と行動を共にする機会が多かったそうだ。


 王に尽くし国を栄えさせ遥か未来まで残る人類進歩の基盤を作った大公ルメス。

 大公爵の秘書とは、そんなルメスにとって最も身近な他人である。


 彼ら、あるいは彼女らルメスに身近な者たちは彼をどのように見てどのように感じていたのだろうか。

 そこに物語があるとすれば、ルメスは主人公ではないのだろう。

 彼の周囲の者たちの目が我らの目の代わりとなって彼を映すのだ。

 コスモニア黎明の記録と、大公爵ルメスの足跡を。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ