前編
悪役令嬢シリーズの5弾です!
長くなりましたので、前編・後編で分けています。よろしくお願いします。
仕方がないと思った。婚約者であるミハイル王子が彼女に夢中になってしまうのも。
―――だって、悪役令嬢レイチェルも彼女の魅力にやられてしまったのだから。
「ちょっと貴女! 殿下にはレイチェル様という婚約者がいらっしゃるのよ! 付き纏うのはおやめなさい!」
学園の教室の片隅。真っ直ぐサラサラな薄い金髪に菫色の瞳の美少女を、性格のきつそうな3人のご令嬢が取り囲んでいる。
美少女の名前はリリアナ・パブロワ。パブロワ伯爵が王都の別宅の愛妾に生ませ、12歳で引き取った、市井育ちの伯爵令嬢である。
「わたしはそんなつもりは……!ミハイル様が、市井の生活について興味があると言われたから、教えていただけです!」
「嘘おっしゃい!」
「大体、殿下をお名前で呼ぶなんて! 偽伯爵令嬢のくせに、生意気なのよっ」
「レイチェル様が黙っていないわよ!」
3人の攻撃に、リリアナは困惑の表情を浮かべている。
「ちょっと。今、私の名前が聞こえてきたみたいなんですけれど」
放っておこうと思ったけど、私の名前が出てきたので、仕方なく介入する。
「貴女方、いい加減、この娘に構うのはよしたらいかが? 時間の無駄ですわよ」
「れ、レイチェル様がそうおっしゃるのなら……」
3人はすごすご退場する。
私の名前は、レイチェル・シロモンド、16歳。シロモンド公爵家の一人娘にして、第1王子ミハイル様の婚約者。
学園では、公爵令嬢と第1王子の婚約者という身分と、その振る舞いの美しさにより淑女の鏡として、それなりに崇められている。時に、先程の3人のように、権力の笠として利用されるのは面倒であるが。
「レイチェル様、ありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀して、にっこり微笑み掛けてくるリリアナは、どこまでも眩しい。
「べ、別に、貴女を助けたつもりはなくてよ」
「いえ、わたし、知っていますよ。レイチェル様は、先日も助けてくれましたよね」
「?」
「わたしの捨てられてたハンカチ、探して拾って机に置いてくださったでしょ。あのハンカチ、実は亡くなった母が刺繍してくれた大切なものだったんです! 本当にありがとうございました!」
「……っ!し、知らないわよっ」
ふふふっと口元に手を当てて笑うリリアナ。
「では、そういうことにしておきます。でも、わたしと友達になってくれませんか?」
「わ、私と?」
「わたし、入学してからずっと、レイチェル様に憧れていたんです!」
リリアナは私を真っ直ぐ見つめて、微笑んだ。
彼女の周りがキラキラと輝いて見える。
―――ズキュン!
胸が撃ち抜かれたかと思った。
こ、これが彼女がいう、ヒロイン効果なのだろうか。
でも、友達になれば、あの計画のためには、都合がいいかもしれない。
計画は3ヶ月前に遡る。
今、悪役令嬢レイチェルを演じているのは、実はこの僕、レイチェルの1歳年下の弟レイモンドである。
レイチェルと同じ銀髪に、少し冷ややかな空色の瞳。
顔の作りがそっくりなことをいいことに、とある事情により、入れ替え生活を送っている。
元々高めの身長である本物のレイチェルより、5センチほど背が高いが、まだ誰にも気付かれていない。
3ヶ月前、一体何が起こったのか―――
――――――――
「レイモンド! どうしよう! 私、死にたくない!」
僕は3年前の12歳の時から隣国に留学していたが、隣国の政変で情勢が急変し、学園生活が危険になったため、急遽一時帰国していたところであった。
久々に実家である、王都の公爵家のタウンハウスに帰ると、仲の良かった姉のレイチェルが自分の部屋に引き篭もっていた。
使用人達に様子を見てきて欲しいと頼まれ、レイチェルの部屋の扉をノックする。
ちなみに両親は領地に戻っており、王都のタウンハウスには、現在、学園通学のために残っている、姉のレイチェルしか住んでいない。
「どうぞ」
か細い声がする。
部屋に入ってみると、レイチェルが豪華な天蓋付きベッドの布団の中で、丸まっていた。
「王立学園はどうしたの?」
「ズル休みよ……。だって、私の命の危機なのよ! レイモンドは本当に丁度いいところに帰ってきたわ! 私を助けてちょうだい!」
いつもは凛とした美しさを持っているはずのレイチェルが、泣きついてきた。サファイアのような美しい瞳には、涙が溜まっている。
「で、何があったんですか? 」
そっとベッドに腰掛け、優しく頭を撫ぜてやれば、レイチェルは堰を切ったように喋り始めた。
「わ、私、悪役令嬢だったのよぉ!このままだと、半年後、婚約破棄どころか王子に断罪されてしまうぅ」
枕を抱えて、大泣きし始めた。
「もう怖くて、学園には行けないわよぉ! 可哀想な姉の代わりに、レイモンド、貴方、学園に行って、何とかしてぇ〜」
姉の話をまとめると、週末学園から帰宅したところ、体調を崩し、高熱を出した。そして、前世の長い夢を見た。
それは、ここが乙女ゲームの世界で、自分が悪役令嬢であるというもの。ヒロインであるリリアナが王子と結ばれると、自分は断罪されて国外追放、あるいは酷い場合には処刑されるという悪夢だった。
今のストーリーの進み具合は、リリアナがミハイル王子と急接近をしていて、レイチェルが嫌がらせをしていたところだそうだ。
「なら、嫌がらせをまずやめたら? 修道院送りくらいで済むかもしれませんよ?」
「いやよぉ〜! もう、手遅れよぉ〜! 私がやらなくても、周りが勝手にやっちゃうのよぉ〜!」
僕は深く溜息をつく。確かにこのまま姉が断罪されてしまえば、公爵家も嫡男である僕もただでは済まないだろう。僕もしばらく隣国の学園はお休みだし……。
「分かりましたよ。僕がレイチェルとして学園に潜入し、虐めを何とかして、断罪を回避するようにすればいいんですね?」
「レイモンド、ありがとぉ〜!持つべきものは可愛い弟!」
現金なもので、レイチェルはケロッと泣き止んだ。もしや、演技ではなかろうなと、僕は疑惑の眼差しを向ける。
「はいっ!これ」
レイチェルは自分と同じ長さの銀髪の鬘を差し出した。
……い、いつの間に!!
「任せたわ! レイモンド。我が公爵家の未来は、貴方の肩にかかっている!」
レイチェルは瞳をキラキラさせて、ベッドの上で、拳を握りしめている。
……これは姉上に嵌められたか。
僕はがっくり、うなだれた。
「そもそもこうなったのは、嫌がらせなんてくだらないことをした姉上のせいですから、姉上もしっかり反省してください!」
レイチェルを睨み付ける。
「だ、だって、私の婚約者が盗られると思ったんですもの。でも、前世の記憶が戻った今、馬鹿なことをしたと反省してるわ……。もうミハイル様なんて、どうでもいい。私の命さえ助かれば……」
「とりあえず、僕が学園に行き、悪役令嬢の姉上のイメージを挽回してきますよ。悪くても修道院送り程度になるように」
「え〜! やっぱり修道院には行かないとダメぇ?」
ブツブツ文句を言っているレイチェルを無視し、僕は作戦を立てる。
―――こうして、僕達の作戦は始まり、僕は悪役令嬢レイチェルになった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!後半もよろしくお願いします。




