第九話
「今日は、何にもなかったの、心愛?」
織花が、私に聞いてきた。
「う・・・ん・・・・・」
返事が途切れる。
本当は、さっきのことを全部いってもいいんだけど、もう、馬鹿馬鹿しくって、言う気分にもなれない。
「そっか・・・」
織花は、そう言ったあと、黙ってしまった。
気がついたらもう、マンションの前だった。
私と織花は、同じマンション。っていっても、織花は、ここの大家さんの娘だから、あたりまえなんだけど。
実は、織花のお父さんは、社長さんなんだ。お母さんは、そのお手伝いをしている。
だからマンションなんて、何軒も持っているし、いろんなお店を経営している。
だから、織花の家は、すっごいお金持ち。
私のお母さんと、織花のお母さんは、昔、同じ学校で、親友だったらしい。で、今は、このマンションに、けっこう安いお金で、住ませてもらっている。(本当は、けっこう高いマンションらしい)
本当は、織花の家は、マンションではない。すっごい大きい一軒家を持っている。でも、その家の近くに、同じ年くらいの子供が、まったくいなかったらしい。織花のお姉さん、「川原 葉織」(かわはら はおり)も、まわりに友達になれるような子がいなくて、小学校、中学校で、友達付き合いに、苦労したらしい。
だから、織花のときには、そんな苦労をさせないようにって、こっちにマンションをつくって、住むようにしたらしい。
でも、そのかわり、お父さんとお母さんと、一緒に住めなくなったんだ。
だから今は、織花は一人暮らし。
ついでにいうと、私も、一人暮らし。
私がちっちゃいころは、家にいてくれたけど、小学生になってから、ちょくちょく家にいないことが多くなった。
私のお母さんは、航空会社に勤めている。お父さんは、パイロット。
だから、残業なんてどころじゃない。家に帰れないことがしばしば。
んでもって、私はひとりになってしまった。
妹の、「綾瀬 可恋」(あやせ かれん)もいたんだけど、まだ小さいからって、親戚の家にいる。中学生になったら、戻ってくるみたい。
でも、さみしいなんて、あんまり思わない。もうなれた。それに、織花もいるし。だから、全然平気。
それでも、こんなイライラしているときは、ちょっとだけ、お母さんがいたらなあ、とか思う。
だって、愚痴とかこぼせそうだし。
あ〜あ、ほんっと、あの、山月って、なんなんだろ・・・・・?