エピソード0
青年は待ち合わせ場所に歩いていた。
待ち合わせ場所といっても、そこは酷く相応しくない場所だった。何しろマンションの屋上だったのだから。
呼び出し相手は会社の同僚だったが、心当たりがなかった。というより彼には全く関心が、興味がなかった。
だからこうして向かっているのは『普通ならそうするだろう』という、半自動的な反射に近いものだった。彼はこれまでそうして生きてきたのだから。それが処世術だった。
彼は『人間の屑』だった。
そして自身もそれを自覚していた。
なればこそ、一般社会に溶け込むには、相応の『擬態』をする必要があった。故にこうして階段をのぼっている
外の風景はドンヨリと曇り、今にも一雨来そうであった。早めに切り上げられればいいが……。そんなことを考えながら屋上に通じるドアノブを撚る。鍵は開いていた。
呼び出し人の名前を告げながら一歩進み出る
その瞬間、ドアの影に隠れていた何者かが、背中へ体当たりしてきて────…………
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彼女は空を見上げていた。
漆黒の闇夜に月が2つ。綺麗な真円を描いていた。
親月と子月が共に満ちるのは滅多にない。
だからこその今日だった。空気中の魔力が十二分に満ちる時……儀式を実行するにはこの日しかなかった。……いや、それですら不十分であるのだが。
だが彼女には時間がなかった。もうすぐ父の誕生日が来てしまう。その前に全てを試さなければならなかった。……例えそれが『失敗する』可能性の方が大きいとしても。
彼女は『いらない子』だった。
いてもいなくてもどうでもいい存在だった。
床に書いた魔法陣は、家の書庫で埃をかぶっていた本のものと全く同じだ。刻んだ文言も一字一句間違えてはいない。
五芒星の頂点には、それぞれ火、土、金属、水、木を象徴する呪具を、それぞれの方角にきっちり合わせて置いてある。
あとは呪文を唱えればよい。そうすれば即座に結果は明らかになる。
吉と出るか、凶と出るか。
一度乾いた喉に唾を飲み込むと、鈴の鳴るような可憐な声が、古びた城の広間に響いた。
これは、そんな出会いから始まる、一つのおとぎ話である。
【ご報告】
当作品『魔王ガチャを引いたら人間のクズが来た件について』は『ノクターン・ノベルス様』にそのまま移動させることにしました。
引き続きよろしくお願い致します