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愚者の慟哭。  作者: 月見酒乃助
第一章
7/33

魔導王アナスタシア

本日二話目の更新です、お気を付けください。

『魔導王』。あらゆる魔術を自在に操り、遍く全てを破壊し尽くす大魔術を自由に使う世界で最も有名な称号の一つだ。


そもそも魔法とは、人の想像力と体内の魔力…その人それぞれに宿る力を媒介に世界を書き換える術だ。

その身に魔力が無ければ扱えない、魔力があっても才能が無くば魔術は発動しない。生まれついての才能が全ての理不尽極まりない力だ。


とは言え制約のようなものもある。というのも、魔術の才能は扱える力を指定する。

例えばある者は虚空に火炎の球を出現させることが出来る。しかし辺りに風を吹かせることは出来ない。また別の者は地面を自由自在に操る。されど水を天から降り注がせることは出来ない。

このように扱える術の事を『属性』と名付けて呼称しているのが現在の魔術だ。

基本的なものは火、水、地、風の四属性。それらを混ぜ合わせることで別の属性になったり、習熟度或いは才能で別の属性になる。

その他にも極少数独自の属性があるがこの場では割愛しよう。


魔導王の話に戻そう。その称号を得た者は元の才能に関係なく四属性全てを高いレベルで扱うことが出来る。魔術の支配者と言って差し支えない、それだけでも十分に強力な力をもたらすその称号はさらに二つの力を授かったものに与える。


一つは魔力の増大。魔力は本来体力と似たようなものだ。日々使えば相応に強くなる。使わなければ徐々に弱くなる。しかしそれを、無条件で凄まじい量へと変える。幾ら魔術を使おうと、何度世界を書き換えようと切れることのない魔力を与えるのだ。


そしてもう一つ。魔導王が魔導王たる力、その名は神属魔法。

長い詠唱と引き換えに世界を破壊する神の力をこの世界に顕現させる、魔導の王たる力だ。

ある術は何の前触れもなく辺り一面を焼き尽くす。ある術は海と見紛うほどの水を持って全てを押しつぶす。

基本四属性以外にも押し並べて十一種類、人を癒す力を除いた神々の力を現実に呼び出すその術はあらゆる魔術師の憧れであり、全ての人類にとっての希望であった。


そんな力を手にする今代の魔導王アナスタシア。彼女はそこそこに大きな貴族の生まれだ。

産声と共にその名を得たアナスタシアは両親の愛をその身に受け、魔術を磨くことに邁進する。

十歳で親元を離れ、魔導学園で魔術をより深く知るべく研究に没頭する。友と語らい、偶に実家に戻ってはひと時を送る、間違いなく幸福な時間を過ごしていた。


そんなアナスタシアが十四歳の時、勇者との出会いを果たす。勇者と同い年だった事に驚きながらも勇者の崇高な志に胸を打たれた。

勇者が学園を離れ暫く経ったある日、アナスタシアの耳にある噂話が飛び込む。曰く、勇者が魔術を得意とする魔族に苦戦している。という物だ。

あくまで苦戦であるし、事実勇者は勇者とその時既に共にいた剣帝のみで打ち倒すことは出来た。しかしその噂を聞いたアナスタシアは居てもたっても居られなくなったのだ。


そこからの行動は迅速だった。学園長に直談判をし、親に手紙を書き、友に別れを告げると少しの荷物、路銀を手に学園を飛び出した。

…そんなアナスタシアの行動を予測していた学園長が道中までの足を用意していたことは後世にも語り継がれるだろう。


勇者の元に辿り着いたアナスタシアは魔族を見るや否や四属性での猛攻を開始、魔族を押しとどめると勇者と剣帝に補助魔法を付与すると、辺り一面を凍り付かせ、付近にいた魔物さえもその息の根を止めた。

圧倒的な範囲の制圧。アナスタシアは勇者たちの出来ない事を補い、またそれを行使するまでの時間を二人に稼いでもらう。勇者パーティーがまた一つ壁を突き抜けた瞬間だった。


それからの勇者パーティーはそれまで以上の勢いをもって魔族と戦った。時に衝突し、時には認め合いながら成長してきた。

そんなアナスタシアは今回手に入れたひと時の休息を学園で過ごすことを決めた。両親も学園に来てくれるらしく、久方ぶりの休息に密かに心を躍らせる。

幾つかの町を経由し、残る町はあと一つ。それを過ぎれば待望の学園だ。


「はぁ…今度の町は護衛がまともだといいのだけれど…」


小声で呟いたそれは今までの町が原因だった。最初に立ち寄った町では特に護衛はいなかった。その結果一部の熱狂的なファンがアナスタシアの泊まっている宿屋の部屋まで押しかけ、あわや宿屋が地図から消えかかる騒動になった。

それからという物の現地の冒険者やその土地を治める貴族の私兵が護衛に当たるようになったが、それでも小さな問題は起こる。護衛の腕が足りなければアナスタシア自ら解決しなければならないし、一番問題だったのはその町の宿なりで休んでいる時だ。

ある町では歓迎の宴が開かれ、その騒々しさに眠る事もできなかった。またある町では勇者たちの力を危険視するものが多く、出ていけ消えろの大合唱で早々に立ち去る事になった。

無論勇者パーティーで行動するときもこのような事はあるが、基本的に貴族の屋敷や王城で休息するし、勇者のカリスマといえば全てを味方につけるほどの輝きがあった。それまでどう言って居ても最後には勇者に味方するのだ。


勇者の凄まじさと自身の至らなさを感じたアナスタシアはふと外を見る。目的の町はすぐそこだ。


その町では全ての音を呑み込む者、『静寂』が佇む。勇者パーティーの一人、『魔導王』との出逢いはすぐそこだった。

もし多少でも良いと思っていただけたらブックマーク/評価して頂けると嬉しいです。

お読み下さりありがとうございました。

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