ゼロと父の日
え……? ゼロ!?
母の日があるのならば、父の日があるのは必然だ。俺の地球での親父は……なんというか、静かだった。なんであの母と結婚しただろうってくらい優しくて、静かで……渋いって言うのは親父の事を言うんだろうなって感じだった。
まあ、地球の親父に会う事は叶わない。母にはうっかり出会ってしまったけど、アレはいけない事だとシェーンにも怒られた。だから、俺には父の日はそこまで関係無い。
◆
なら、俺の出番と言う事だ。ん? 俺が誰かだと……? 俺は今の間はゼロと名乗っている者だ。2ページ程前にババアに零司とバラされたが、問題は無いだろう。
誰に説明しているのか……? フン、このページを見ているお前らに決まっている。神の領域に達しているからな……次元が上の存在を感じ取る事は可能だ。次元が下の存在になら会いに行く事すら出来る。まあ、そんな事はどうでも良い。俺のするべき事は……
「親父……祝いに来たぞ」
「おお……母さんがレイジに会った時は、もうボケ始めたのかと思ったが……会えば分かるものなんだな」
スーツ姿の親父に会い、声をかける。親父は冷静に俺の顔を見て、無表情で感想を述べた。やはり……俺を見ても零司だと気付いてくれるようだな。悲しくは無いが……素直には喜べん。
とにかく……今日は父の日だ。ならば父を労わるのは家族として当然の事。アイツが祝えないのなら、祝える俺が代わりに祝ってやろう。死者に祝われるというのもおかしな話だろうがな。
「親父、好きな願いを1つだけ言え。無茶な物でもない限り、必ず叶えて見せよう」
「ん……ああ、今日は父の日か。願い……とは、いきなり言われてもなぁ」
「何でも良いさ……金、名声、世界旅行に長期休暇。今の俺ならば叶えられぬ願いなど無い」
ただし……名も無き金持ちを殺したり、親父の上司を事故死させたりはするがね。俺はあくまで神の領域に達した人間というだけだ。名も知らない人間の人生など俺にはどうでも良い。親父と家族に皺寄せが無いように調整して、家族だけに幸福を訪れさせよう。
「じゃあ、1つだけあるな。多分、叶えてくれると思う」
「意外に悩まないんだな……まあ、聞かせてくれ」
優柔不断な親父の事だから、もう少し悩むかと思ったが…………まあ、親父は自分の願望を中々言い出さないタイプだ。だからこそ、意見を無理矢理にでも引っ張り出すババアと相性が悪くない。良いとは言わないがな……
「零司の世界で、零司とご飯をたべさせてくれ」
…………無表情でとんでもない事を言いやがる。だが……確かに無茶では無い。俺1人の力で叶えられないのは少し癪だが……いや、アイツの力を借りるのはかなり癪だが……親父が言ってくれた願いだ、必ず叶えるとしよう。
『おい、聞こえるんだろう?』
(あら? 貴方の方から連絡するなんて珍しいわね。ご用件は?)
『地球の人間を1人、シェーンに行き来させる。ゲートをよこせ』
(別に良いわよぉ……シェーンちゃんだって似たような事をしてたし、私もやーっちゃお)
体に俺の物では無い神力が湧いてくる。ゲートを開く為の神力、丁度2回分だな。指を鳴らし、紫色の渦を巻くゲートを作り出す。
「待たせたな、これを潜ればまともな俺に会える。1日限りの奇跡を楽しむが良い」
「何を勘違いしているんだ?」
「む?」
「それは別の零司だろう? 僕は君の世界で、君とご飯が食べたい」
俺と……だと? これは予想外だな……確かに俺の世界なら俺1人の力でも行き来出来る筈だ。だが……俺の世界は既に滅びている。他ならぬ俺自身の手で全て滅茶苦茶にしてやった。完全に滅ぼしてはいないが、それでも食べられるものなどは全く無い。
チラリと親父の顔を見てみるが……駄目だな。この顔は何を言っても聞いてくれない顔になっている。ババアでも勝てないのなら、俺が何か言っても無駄だろう。
「分かった……俺の世界というのは無理だが、俺が食事を共にしよう」
◆
親父のリクエストでシェーンの街へと訪れた。時間は夜だが、多くの生き物で賑わっている。知り合いに会いたくないからな……まともな俺が名前も知らない街に訪れたとだけ言っておこう。
「凄いな……人に角が生えていたり、翼が生えている……」
俺の顔を知らず、まともな俺が来た事の無い街といえば……人外の街しか無いだろう。親父には怪しまれないように魔法で姿を偽らせれば、人間とバレる事も無い。後は人間である俺達の舌に合いそうな店を探せば……
「そこの人達、ウチで食べて行かない?」
「む? 悪いが俺達は……ブフッ!?」
コ、コイツは……多少変装してるがヘルだ! 何故、この街に居る!? コイツは確か魔王城とやらで寝ている筈……!
「どうですかぁ? 美味しいお酒ありますよぉ?」
「ほう、お酒か。レイジ、ここにしよう」
「む……親父がそう言うのなら……!」
『おい、地球の人間でも飲めるんだろうなっ!?』
(勿論よ。人間でも飲める程度のお酒を見繕っておいたわ。こんな所で人間が食べられるお店がある筈無いじゃない! 最悪、人間の肉が出てくるわよ!?)
くっ……俺が人間を食べるようになってしまったから、失念していた。肉の味自体はマズいが、魔力の味が珍しいからな……じゃなかった。危うく親父にカニバリズムをさせてしまう所だったのか。コレに関してはヘルに感謝……だな。
◆
ヘルが作ってくれる料理、用意してくれた酒は……悪くなかった。むしろ、味覚を捨てかけている俺だが、味覚を残すかと思い留まる所だ。
机の皿の殆どが空になった頃、親父が俺の顔をジッと見ている事に気付いた。懐かしむような温かい目……嫌な目だな。負の存在である俺には、そういう正の感情を向けられるのが辛い。
「どうかしたのか?」
「ん……ああ、ほら……あまり言いたくないが、お前は地球じゃ亡くなっているだろう? それなのに、こうやって生きていて……苦労をして僕達に会いに来てくれる。そう思うと、嬉しいようで、悲しいようでもあってね……」
「……俺達がこのような異世界で変わったとしても、遡れば貴方達が居る。貴方達が居なければ、俺達は存在すらしない。なら……生きている間は、何があろうと感謝を伝えますよ。どんな手段でもね」
「…………そうだな。お前はここで生きているんだったな。なら、安心だ……葬式の処理も頼んでおこうか」
「止めてくれ……冗談でも、笑えない」
笑っている親父は……初めて見たと言っても過言では無いな。俺は人の心を捨ててはいるが…………今だけは人の子で居たい。突然の俺の訪問でも受け入れてくれる、この人の子でな。
「さあ、そろそろ戻る時間だ。ゲートを開こう」
「なあ、レイジ」
「…………なんだ?」
「来年も祝ってくれるか?」
「………………気が向いたらな」
帽子で表情を隠した……親父とヘルにこんな表情、見せられないからな。
父と酒を飲むのって……嫌いじゃないんですけどね
次の日を考えると中々飲めません
次回は7月の予定です!




